紫蘇のせて乗合船の狭き哉 梧月
青梅が出回る季節になると、申し合わせでもしたかのように、しそも姿をあらわします。てんぷらや薬味などによく使われる青じそは、近頃、温室栽培などによって、年中出回っていますが、梅干用の赤じそは、入梅時期だけに顔をのぞかせる数少ない季節野菜の一種です。苗木を求めて、庭の一隅に植えて置くと、落ちこぼれた種子《たね》が毎年芽生え、二、三年もすると、わが物顔に、庭いちめんを占領してしまいます。発芽後、双葉を出したものは、芽じそとして、刺身、その他のつまに用い、その葉は、梅干、しょうが、だいこん、ちょろぎなどの着色に使います(赤じそ)。また、細かにきざんで、冷奴《ひややつこ》やそうめんの薬味に用います(青じそ)。初秋の頃に出る花穂は、穂じそとして、種子とともに、いろんな調理に用います。赤、青、いずれも葉のよく縮れた、いわゆる縮緬《ちりめん》種が優良種で、同じ梅干用に使っても、縮緬のほうが色よく仕上がり、酸味をやわらげ、風味を増します。その代り、値段もふつうのものより、高くなっています。
赤じそといえば、忘れられないのが京都名産の漬けもの——柴漬《しばづけ》(もとは紫葉漬と書いた)。大原《おおはら》から修学院《しゆがくいん》あたりで生産される長なすを、よく洗ってのち、大切りにして、赤じそとともに塩漬けしたものです。伝説によると、平家一門の悲劇を一身に担って、大原の里に隠れ栖《す》み、ひたすら仏に仕える建礼門院をおなぐさめするため、供の阿波内侍がはじめて試みた漬けものだといわれます。建礼門院は殊のほか、この漬けものを好まれ、みずから「紫蘇葉」にちなみ「紫葉漬」と命名されたそうです。紫蘇葉と、なすの紫紺色が一体になり、かもし出す紫は、やんごとなき落人《おちゆうど》の悲劇を偲ばせるに充分な色合いではないでしょうか。
青梅が出回る季節になると、申し合わせでもしたかのように、しそも姿をあらわします。てんぷらや薬味などによく使われる青じそは、近頃、温室栽培などによって、年中出回っていますが、梅干用の赤じそは、入梅時期だけに顔をのぞかせる数少ない季節野菜の一種です。苗木を求めて、庭の一隅に植えて置くと、落ちこぼれた種子《たね》が毎年芽生え、二、三年もすると、わが物顔に、庭いちめんを占領してしまいます。発芽後、双葉を出したものは、芽じそとして、刺身、その他のつまに用い、その葉は、梅干、しょうが、だいこん、ちょろぎなどの着色に使います(赤じそ)。また、細かにきざんで、冷奴《ひややつこ》やそうめんの薬味に用います(青じそ)。初秋の頃に出る花穂は、穂じそとして、種子とともに、いろんな調理に用います。赤、青、いずれも葉のよく縮れた、いわゆる縮緬《ちりめん》種が優良種で、同じ梅干用に使っても、縮緬のほうが色よく仕上がり、酸味をやわらげ、風味を増します。その代り、値段もふつうのものより、高くなっています。
赤じそといえば、忘れられないのが京都名産の漬けもの——柴漬《しばづけ》(もとは紫葉漬と書いた)。大原《おおはら》から修学院《しゆがくいん》あたりで生産される長なすを、よく洗ってのち、大切りにして、赤じそとともに塩漬けしたものです。伝説によると、平家一門の悲劇を一身に担って、大原の里に隠れ栖《す》み、ひたすら仏に仕える建礼門院をおなぐさめするため、供の阿波内侍がはじめて試みた漬けものだといわれます。建礼門院は殊のほか、この漬けものを好まれ、みずから「紫蘇葉」にちなみ「紫葉漬」と命名されたそうです。紫蘇葉と、なすの紫紺色が一体になり、かもし出す紫は、やんごとなき落人《おちゆうど》の悲劇を偲ばせるに充分な色合いではないでしょうか。