古典落語に、物忘れを主題にした「茗荷屋《みようがや》」という話があります。�心がけのよくない茗荷屋という宿の主人が、大金を持った客と見て、その金を置き忘れさせようと、手を変え品を変え、みょうがを食べさせる。すると、事もあろうに、客は宿賃を支払うのを忘れ、そのまま出立《しゆつたつ》してしまった�——という筋です。
愚にかへれと庵主の食ふや茗荷の子 鬼城
むかしから、みょうがには、物忘れの成分がふくまれていると伝えられ、その真偽は別として、不眠症には民間薬として用いられてきました。また、薬用植物として、この種のむかしの本には「婦人月水のめぐり悪しきに、其地下茎を刻み、煎《せん》じて服用するがよろしく、また咳《せき》によいと云ふ」と、記されています。これは伝承かも知れませんが、みょうがの子(芽)は寝冷えや寝小便に薬効があるとされ、愛用し、かつ、必ず栽培していた——といいます。
ところで「物忘れ」の起源と目されるエピソードに周梨槃特《しゆりはんどく》の話が伝わっています。槃特は釈尊の弟子でしたが、生まれつき物覚えがわるく、しかもたびたび物忘れするクセがあり、仏道の修行も進まず、自分の名さえ忘れるという代物《しろもの》で、気の毒がって、周りのひとが、その名を書いた札を首にかけてやるほどでした。反面、非常な努力家で、ついには悟道の域に達したといわれます。死後、そのお墓から珍しい草が生えてきたので、大方、名を荷《にな》ってきたのであろうと、この草に「茗荷」という名を付けた——というものです。
みょうがは、ショウガ科の多年生草本。特有の芳香があるところから、細かくきざんで刺身のつま、汁の実、卵とじに加え、花も刺身のつま、汁の実、漬けものに利用します。
愚にかへれと庵主の食ふや茗荷の子 鬼城
むかしから、みょうがには、物忘れの成分がふくまれていると伝えられ、その真偽は別として、不眠症には民間薬として用いられてきました。また、薬用植物として、この種のむかしの本には「婦人月水のめぐり悪しきに、其地下茎を刻み、煎《せん》じて服用するがよろしく、また咳《せき》によいと云ふ」と、記されています。これは伝承かも知れませんが、みょうがの子(芽)は寝冷えや寝小便に薬効があるとされ、愛用し、かつ、必ず栽培していた——といいます。
ところで「物忘れ」の起源と目されるエピソードに周梨槃特《しゆりはんどく》の話が伝わっています。槃特は釈尊の弟子でしたが、生まれつき物覚えがわるく、しかもたびたび物忘れするクセがあり、仏道の修行も進まず、自分の名さえ忘れるという代物《しろもの》で、気の毒がって、周りのひとが、その名を書いた札を首にかけてやるほどでした。反面、非常な努力家で、ついには悟道の域に達したといわれます。死後、そのお墓から珍しい草が生えてきたので、大方、名を荷《にな》ってきたのであろうと、この草に「茗荷」という名を付けた——というものです。
みょうがは、ショウガ科の多年生草本。特有の芳香があるところから、細かくきざんで刺身のつま、汁の実、卵とじに加え、花も刺身のつま、汁の実、漬けものに利用します。