キスは、漢字で魚ヘンに喜の字を書き、めでたい魚の一つに加えられ、味が上品な上に、クセがなく、塩焼き、フライ、吸いもの、てんぷら、背割りの一夜干し……と、夏の料理には、おあつらえ向きのさっぱりした魚です。キスには、シロギスとアオギスの二種があり、晩春から夏にかけて多く獲れます。
両者は、それぞれ棲む場所がちがい、シロギスは外洋性の沿岸、海底の砂地のところに住み、砂浜なら波打ち際から沖の深みに落ち込む縁、岩礁なら沖に離れ、砂地の広くつづくところが初夏のすみかとなっています。冬になると、沖の深みにおちて、針にかからぬ——とは、釣師たちの話。そんなわけで、シロギス釣りの最盛期は、六、七月から、ところによっては八月のはじめまで。この時季は、産卵期で体調が整い、味もまた絶頂期です。一方のアオギスは湾の奥で、砂というよりは泥の多い海底、藻などが、くさむらのように生えているところが|すみか《ヽヽヽ》。
江戸前名物の脚立《きやたつ》釣りは、東京湾の奥まったところで行なわれますが、近年、湾内の海水の汚染がひどくなり、季節の風物詩ともいえる脚立釣りも、だんだん影をひそめつつあります。このキスは、もちろんアオギスで、味はシロギスにくらべ、いちだん落ちます。
シロギスは、とくにてんダネ、または椀ダネとして珍重され、どちらかといえば高級魚に属します。タル詰のものは、ウロコのつやつや光ったものが多く、見るからに、しっかりしています。これにひきかえ、箱ものはウロコがはがれたり、腹が破れ腹ワタが出たりしています。一皿いくらで売られているものは、この手のものが殆ど。アオギスは店頭に並ぶことは、ごくまれです。
一片の蓼の葉あおし鱚に添へ 風生
両者は、それぞれ棲む場所がちがい、シロギスは外洋性の沿岸、海底の砂地のところに住み、砂浜なら波打ち際から沖の深みに落ち込む縁、岩礁なら沖に離れ、砂地の広くつづくところが初夏のすみかとなっています。冬になると、沖の深みにおちて、針にかからぬ——とは、釣師たちの話。そんなわけで、シロギス釣りの最盛期は、六、七月から、ところによっては八月のはじめまで。この時季は、産卵期で体調が整い、味もまた絶頂期です。一方のアオギスは湾の奥で、砂というよりは泥の多い海底、藻などが、くさむらのように生えているところが|すみか《ヽヽヽ》。
江戸前名物の脚立《きやたつ》釣りは、東京湾の奥まったところで行なわれますが、近年、湾内の海水の汚染がひどくなり、季節の風物詩ともいえる脚立釣りも、だんだん影をひそめつつあります。このキスは、もちろんアオギスで、味はシロギスにくらべ、いちだん落ちます。
シロギスは、とくにてんダネ、または椀ダネとして珍重され、どちらかといえば高級魚に属します。タル詰のものは、ウロコのつやつや光ったものが多く、見るからに、しっかりしています。これにひきかえ、箱ものはウロコがはがれたり、腹が破れ腹ワタが出たりしています。一皿いくらで売られているものは、この手のものが殆ど。アオギスは店頭に並ぶことは、ごくまれです。
一片の蓼の葉あおし鱚に添へ 風生