鰯雲日和いよいよ定まりぬ 虚子
イワシ雲は、天空に秋がやってきたしるし。豪壮雄大な夏の入道雲とちがい、空の一部に細長く、細かい雲が幾百幾千と、まるで波の打ち寄せるように集まり、ときには魚のウロコのように、また、あるときは、サバの模様に似た形を描きます。高度は五千から一万三千メートル。その形状からウロコ雲、サバ雲などといわれますが、イワシ雲の場合は形状から名付けられたものではなく、むかしから、この雲が現われるとイワシの大漁があるという漁師の口伝によるものです。
イワシは暖かな潮流に乗って、海の上層を遊泳する回遊魚で、日本近海では、冬は東海方面、夏は北海道、日本海方面を群れをなして泳いでいます。そのため、イワシの大群が押しよせると、海の色が変って見えるほどです。たいてい、イワシの群れの上を、カモメが飛びながら尾《つ》いて来るので、カモメの群れを発見すれば、その下にはイワシの大群がいる——と、いわれています。
マイワシ、カタクチイワシ、それにウルメイワシを総称してイワシの名で呼んでいますが、地方によって呼び名がちがい、マイワシをナナツボシ、ヒラゴ。カタクチイワシをシコ、ヒシコ、セグロイワシ。ウルメイワシをダルマイワシ、ドンボなどと呼んでいます。たいていは、その地方で、もっとも漁獲の多いイワシの種類を、単にイワシの名で呼ぶわけです。
丸々と肥え、脂の乗った鮮度のよいマイワシなら、塩焼きにして、熱いうちに、しょうがじょうゆで食べると、なんとも、こたえられぬうまさです。塩焼き以外にも、煮つけ、酢のもの、揚げものと、用途が広く、すり身にして、つみいれ、魚肉だんごに用います。
鰯焼く匂ひか路の余寒哉 白朝
イワシ雲は、天空に秋がやってきたしるし。豪壮雄大な夏の入道雲とちがい、空の一部に細長く、細かい雲が幾百幾千と、まるで波の打ち寄せるように集まり、ときには魚のウロコのように、また、あるときは、サバの模様に似た形を描きます。高度は五千から一万三千メートル。その形状からウロコ雲、サバ雲などといわれますが、イワシ雲の場合は形状から名付けられたものではなく、むかしから、この雲が現われるとイワシの大漁があるという漁師の口伝によるものです。
イワシは暖かな潮流に乗って、海の上層を遊泳する回遊魚で、日本近海では、冬は東海方面、夏は北海道、日本海方面を群れをなして泳いでいます。そのため、イワシの大群が押しよせると、海の色が変って見えるほどです。たいてい、イワシの群れの上を、カモメが飛びながら尾《つ》いて来るので、カモメの群れを発見すれば、その下にはイワシの大群がいる——と、いわれています。
マイワシ、カタクチイワシ、それにウルメイワシを総称してイワシの名で呼んでいますが、地方によって呼び名がちがい、マイワシをナナツボシ、ヒラゴ。カタクチイワシをシコ、ヒシコ、セグロイワシ。ウルメイワシをダルマイワシ、ドンボなどと呼んでいます。たいていは、その地方で、もっとも漁獲の多いイワシの種類を、単にイワシの名で呼ぶわけです。
丸々と肥え、脂の乗った鮮度のよいマイワシなら、塩焼きにして、熱いうちに、しょうがじょうゆで食べると、なんとも、こたえられぬうまさです。塩焼き以外にも、煮つけ、酢のもの、揚げものと、用途が広く、すり身にして、つみいれ、魚肉だんごに用います。
鰯焼く匂ひか路の余寒哉 白朝