秋になると、葉隠れに大きないちじくが紫色に熟《う》れて、甘美な匂いが、庭先へ雀や蜂や蟻を招き寄せます。早いものですと、もう八月下旬頃に市場に姿を見せはじめますが、出回りの期間はごく短く、最盛期は九月中頃。この頃が、ちょうどしゅん。いま頃、くだもの屋の店頭にならぶものは、殆どが「桝井ドーフィン」種。少し遅れて、在来種の「蓬莱柿《ほうらいし》」が出回ります。前者は大果で、風采はなかなかりっぱなものですが、ボロボロして粘りがなく、甘味もかおりも乏しく、大味です。後者は、俗に「日本いちじく」と呼ばれ、南国からの渡来種ですが、すでに三百年も前から日本で栽培され、親しまれて来たものです。果実は小さく、果皮は紫色がかった褐色をしていて、厚手ですが、やわらかい品種。中身は赤く、甘味は多く、粘りは少なく、うまいいちじくです。
無花果の熟るゝ夜なり何か欲し たかを
原産地は小アジア地方といわれ、古く地中海沿岸の諸国に伝わり、中世にはスペイン、ポルトガルでさかんに栽培され、次いで新大陸諸国に伝わりました。いずれにしても、古い果樹で『聖書』の中にも、しばしば登場しています。いちじくは一熟の意だといわれるほど熟するのが早く、市場でも「その日勝負」といわれ、甚だ日持ちの悪いくだものだけに、買ったら、できるだけ早く召し上がること。胃腸の働きをよくする効能があり、病人でも、一つや二つは大丈夫。胃腸の弱いひとは、自庭に数株のいちじくをつくっておくとよいでしょう。
無花果を病者がとれり日に一顆 晴朗
無花果の熟るゝ夜なり何か欲し たかを
原産地は小アジア地方といわれ、古く地中海沿岸の諸国に伝わり、中世にはスペイン、ポルトガルでさかんに栽培され、次いで新大陸諸国に伝わりました。いずれにしても、古い果樹で『聖書』の中にも、しばしば登場しています。いちじくは一熟の意だといわれるほど熟するのが早く、市場でも「その日勝負」といわれ、甚だ日持ちの悪いくだものだけに、買ったら、できるだけ早く召し上がること。胃腸の働きをよくする効能があり、病人でも、一つや二つは大丈夫。胃腸の弱いひとは、自庭に数株のいちじくをつくっておくとよいでしょう。
無花果を病者がとれり日に一顆 晴朗