「石榴《ざくろ》の花が咲きました。陶器で出来たやうな厚手で丈夫な外殻《から》に、幾枚もの花びらがくしやくしやに畳み込んであるのを見ると、数多くの実を孕《はら》むものの、用意の周到さを思はずにはゐられません。秋も末になつて、豊熟した石榴の実が、くわつと口を開けて高い枝にぶら下つてゐるのを見る時は、貴重な赤絵の陶器皿を空高く投げつけて、やがて落ちて来るのを待つ間のやうな、危つかしさと焦燥《もどか》しさとを感じるものです。」(薄田泣菫)
『和名抄《わみようしよう》』によれば、日本に伝わったのは延長年間(九二三年、平安時代)、中国からだといわれ、朝鮮ざくろは享保九年(一七二四年、江戸時代)に渡来したといわれます。はじめはもっぱら観賞用よりも、薬用、工芸用(鏡磨き)だったようです。『職人歌合《しよくにんうたあわせ》』(明応年中、一四九五年頃)に、「水かねや柘榴《ざくろ》のすます影なれや鏡と見ゆる月のおもては」の歌が載《の》っていますが、果実のしぼり汁を、むかしは柘榴酢と称して、もっぱら、鏡を磨くのに用いました。
東京あたりには、山梨産のものが出回っていますが、量的にはごくわずかで、たいていナイフを入れて内部を広げてあります。八重咲きのものは実ができず、実のなる単弁種には、甘いもの、甘ずっぱいもの、酸味のあるもの、苦味のあるものの四種類あります。現在、出回っているのは、このうちの甘いもの、果皮の色が濃い紅色をしたものがおいしいようです。日持ちはわるく、せいぜい三、四日。生食するほか、ジュース、ゼリー、シロップ(グレナディン)とします。
また、ざくろの根皮、果皮、また樹皮は「石榴皮《せきりゆうひ》」の名で薬局方に載っていて、条虫駆除、水虫駆除、やけど、あるいは下痢止めなどの目的に使用されます。
『和名抄《わみようしよう》』によれば、日本に伝わったのは延長年間(九二三年、平安時代)、中国からだといわれ、朝鮮ざくろは享保九年(一七二四年、江戸時代)に渡来したといわれます。はじめはもっぱら観賞用よりも、薬用、工芸用(鏡磨き)だったようです。『職人歌合《しよくにんうたあわせ》』(明応年中、一四九五年頃)に、「水かねや柘榴《ざくろ》のすます影なれや鏡と見ゆる月のおもては」の歌が載《の》っていますが、果実のしぼり汁を、むかしは柘榴酢と称して、もっぱら、鏡を磨くのに用いました。
東京あたりには、山梨産のものが出回っていますが、量的にはごくわずかで、たいていナイフを入れて内部を広げてあります。八重咲きのものは実ができず、実のなる単弁種には、甘いもの、甘ずっぱいもの、酸味のあるもの、苦味のあるものの四種類あります。現在、出回っているのは、このうちの甘いもの、果皮の色が濃い紅色をしたものがおいしいようです。日持ちはわるく、せいぜい三、四日。生食するほか、ジュース、ゼリー、シロップ(グレナディン)とします。
また、ざくろの根皮、果皮、また樹皮は「石榴皮《せきりゆうひ》」の名で薬局方に載っていて、条虫駆除、水虫駆除、やけど、あるいは下痢止めなどの目的に使用されます。