のり
のりと日本人とのつきあいは古く、千年あまりむかしから、すでに採りはじめ、朝廷への献上品となっていた記録があります。けれども、|のりひび《ヽヽヽヽ》を立てて養殖するようになったのは、三百年ほど前からで、浅草から深川、大森の海岸で起ったのがはじめのようです。のり発祥の地・浅草も、いまでは海岸ではなくなり、品川、大森辺の沿岸も、埋立てや海水の汚染で、養殖をあきらめざるを得なくなり、もはや昔日の面影はありません。浅草のりの名の起りは、干のりの漉き方が、浅草紙に似ているところからという説もありますが、やはり、江戸初期、浅草あたりがまだ海岸だった頃、そこに生えていたのりを採ってつくったからというのが正しい説のようです。
海苔掻《のりかき》に粉雪ちらつく手元かな 淡路女
のりの最盛期は寒の内、水温が八度から五度ぐらいに保たれる季節。春になり、水温が十二、三度にも上がると、のり採りの仕事はようやく終りを告げます。うまいのりは、産地や気象条件によって、多少の変化はあっても、俗に「お歳暮のり」といわれる師走に採れたものや、一月中旬すぎの「寒のり」といわれています。良質ののりは、かおりがよく、すかして見て穴がなく、薄手のもので、色は青みを帯びた黒で、紫や赤色のまじっていない、パリッとした、つやのあるもの。湿気をなによりもきらいますので、使い終ったら、すぐ罐にもどし、密封しておきます。
のりは焼き方によって風味がちがい、焼きすぎると、せっかくの|かおり《ヽヽヽ》がとんでしまいます。のり二枚を外表(表はつやのよいほう)に合わせ、両面に平均に熱がとおるように、全体がムラなく緑色になるよう強火の遠火でさっと火取ります。熱源は電熱器が最適。