やまのいも
やまのいもは、地上の蔓《つる》が枯れる頃になると、地下茎の生長はストップして水分が少なくなり、えぐ味も消え、食べ頃のしゅんとなります。そのため、やまいも掘りは、茎や葉の黄ばんだ晩秋から始まりますが、さかりは十一月中、下旬から十二月初旬の雪空をのぞむ季節です。山野に自生するため、栽培種の長いもや大和いもに対して、自然生《じねんじよう》(自然薯とも書く)ともいい、とろろいもの名でも呼ばれています。
自然薯掘り顔入れ土のぬくさ云ふ のぼる
やまいもは、でんぷんの消化酵素であるアミラーゼ(ジアスターゼ)が、だいこんおろしのそれよりも、はるかに多くふくまれていて、いっしょに食べたほかのでんぷんまで体内で消化するのを助けます。それゆえ、あまり消化のよくない麦めしにとろろ汁をかけ、殆ど噛まずに何杯食べても、それほど胃に負担をかけず、消化不良を起すことも少ないのです。やまのいもに限らず、消化酵素は煮ると効力を失いますので、生食するにこしたことはありません。アミラーゼを充分働かせるには、すりおろすのがよく、マグロをタネにした山かけ、卵を落した月見、わさびを添えたとろわさと趣向は尽きません。すりおろしたり、きざんだりするのには、まず皮を剥《む》いたら酢の入った水に三十分くらい浸《つ》けておいてから使うと、黒くならず、出来上がりもきれいです。
やまのいもの本命は、やはり麦とろ。吸収がよいので、いくら食べてもお腹をこわすことはありません。麦三米七の割合で水かげんを少なめにし、炊きたてに、少し青のりを入れ、とろろをかけて召し上がります。とろろ汁の上手下手はすり方一つ。するときは、なるべくゆっくり、すましを一度に入れずに、少しずつ何回にも分けて入れるようにするのがコツ。