その以前あんこう食ひし人の胆 抱一
実際、押しつぶしたチャックのカバンのような、グロテスクなアンコウの風采を見たら、抱一ならずとも、こうつぶやきたくなります。食卓にのぼるアンコウには、単にアンコウと呼ぶ種類とクツアンコウとがあり、うまいのは、やはりアンコウ。しゅんは寒中。
アンコウは運動しないせいか、からだがグニャグニャとやわらかく、しかも粘りが強いので、ふつうの魚を切るときのように包丁を入れたのでは、思うように切れません。そこで発明されたのが吊し切りで、皮を剥《は》いだアンコウの頭に鈎を打ち込み、梁《はり》に吊し、口から水を流し込み、重みをつけて切ります。むかしの川柳子は、こんなありさまを、「竜宮の芝居鮟鱇高尾役」と、(遊女高尾は隅田川の三股にて舟中で仙台侯に吊し斬りされたということから)的確に詠み込んでいます。
「アンコウの七つ道具」といってトモ(肝臓)、ヌノ(卵巣)、水袋(胃袋)、エラ、皮、肉、ヒレに分けられ、捨てるところなく食べられます。肉よりは皮や内臓(とくにトモ)のほうがうまい。
東京のアンコウ料理専門店「いせ源」主人の話によると、「アンコウなべ」は、アンコウと野菜の量を半々ぐらいに用意し、コツはアンコウのどろくさい感じを抜くため、一度熱湯にさっとくぐらせてから水にさらし、それを煮ること。野菜はみつば、うど、さやえんどう、ぎんなん、生しいたけ、ほかに焼きどうふ、ゆずなど。わりしたは、だし五杯に対し、しょうゆ一〜一杯半、同じ容器で計ってみりん四分目、砂糖六分目を加えます。なべを楽しんだ残りのつゆに、ごはんと薬味と生卵を入れ、ぞうすいにするのも、また結構。
実際、押しつぶしたチャックのカバンのような、グロテスクなアンコウの風采を見たら、抱一ならずとも、こうつぶやきたくなります。食卓にのぼるアンコウには、単にアンコウと呼ぶ種類とクツアンコウとがあり、うまいのは、やはりアンコウ。しゅんは寒中。
アンコウは運動しないせいか、からだがグニャグニャとやわらかく、しかも粘りが強いので、ふつうの魚を切るときのように包丁を入れたのでは、思うように切れません。そこで発明されたのが吊し切りで、皮を剥《は》いだアンコウの頭に鈎を打ち込み、梁《はり》に吊し、口から水を流し込み、重みをつけて切ります。むかしの川柳子は、こんなありさまを、「竜宮の芝居鮟鱇高尾役」と、(遊女高尾は隅田川の三股にて舟中で仙台侯に吊し斬りされたということから)的確に詠み込んでいます。
「アンコウの七つ道具」といってトモ(肝臓)、ヌノ(卵巣)、水袋(胃袋)、エラ、皮、肉、ヒレに分けられ、捨てるところなく食べられます。肉よりは皮や内臓(とくにトモ)のほうがうまい。
東京のアンコウ料理専門店「いせ源」主人の話によると、「アンコウなべ」は、アンコウと野菜の量を半々ぐらいに用意し、コツはアンコウのどろくさい感じを抜くため、一度熱湯にさっとくぐらせてから水にさらし、それを煮ること。野菜はみつば、うど、さやえんどう、ぎんなん、生しいたけ、ほかに焼きどうふ、ゆずなど。わりしたは、だし五杯に対し、しょうゆ一〜一杯半、同じ容器で計ってみりん四分目、砂糖六分目を加えます。なべを楽しんだ残りのつゆに、ごはんと薬味と生卵を入れ、ぞうすいにするのも、また結構。