釣りあげし鱸の巨口玉や吐く 蕪村
スズキ釣りは豪快そのもの。水面まで引き上げても、カミソリのようなエラで糸を切って逃げようともがきます。大きくて鋭いエラぶたをふくらませて、右に左に大ゆれし、ジャンプしながら、命がけで鉤《はり》をはずそうとします。この際、釣糸《てぐす》をゆるめると、鉤がはずれ、ムリをすると針素《はりす》を切られてしまいます。水面に引き上げられて、スズキが、なおも鉤から逃げようと右往左往するさまを、釣師仲間は「鱸の鰓洗い」と言います。味と言い、姿と言い、スズキの釣り魚としての風格は、夏を代表する魚と言えましょう。『譬喩尽《ひゆづくし》』にも、
「鱸は夏魚なり、殊《こと》に土用中に喰へば灸の代わりすといへり」
とあり、ことわざにも「土用のスズキは画に描いて嘗《な》めても薬になる」と、持ち上げています。
北海道から沖縄まで、多くの内湾や沿岸の浅海に分布しています。巨口細鱗、背部は鉛青色で、腹部は白く、体長一メートルぐらい。成長段階に従って、習性も名前も、棲息場所も変わります。例えば東京辺りでは、フッコ(五センチ)、コッパまたはデキ(一〇センチ)、セイゴ・セエゴ(二五センチ)、フッコ(三五センチ、大小の意味がある)、スズキ(約五〇センチ以上の成魚)、オオタロオ(一メートルにもなる老大魚)と呼びます。
セイゴ、フッコなどは、ハゼ釣りのおまけに、江戸川の河口付近でもよく釣れます。東京湾のスズキは、釣師仲間に有名で、江戸前を代表するイナセな魚として、もてはやされています。しかし、一時期、公害の影響を受けて、東京湾産のフッコやセイゴ、スズキは石油臭くて食べられませんでした。その後、東京湾汚染が各方面で問題にされ、公害対策が効を奏したのか、近年、再び湾内がかなり浄化され、スズキの味も以前ほどの臭味はなくなりました。釣り以外、フッコ、スズキはアグリ漁(まき網の一種)でも漁獲されます。
銀盤に露ちるあらひ鱸かな 笠堂
苦労して釣り上げた鮮度のいいスズキは、「洗い」で食べるのが最高の味。土用から晩秋にかけての「腹太鱸《はらぶとすずき》」(抱卵もの)を、珍重するムキも多い。フッコも洗いに作ります。「洗い」に向く魚の条件の一つとして、淡水にもしばらくの間、生かしておけるもの──が選ばれているようです。その点、フッコは真水にも強いので、洗い向きの魚として、もてはやされたのでしょう。大きなスズキともなると、活《い》けのままでは持ち運びに不便なので、よほど条件に恵まれないかぎり、漁場以外の土地で洗いにするのは困難です。
手際よくふしどりしたスズキ、またはフッコを、うすくそぎ切りにします。そしてザルに並べ、水道(井戸ならなおよい)の水を勢いよく出し放しにして、箸でつまんで洗います。手早く洗ったら、ふきんで水気を取り、氷の上に青じそのつまを敷き、その上に盛り付け、わさびじょうゆか、しょうがじょうゆを添えますが、梅肉じょうゆで食べるのがいちばん。
スズキ釣りは豪快そのもの。水面まで引き上げても、カミソリのようなエラで糸を切って逃げようともがきます。大きくて鋭いエラぶたをふくらませて、右に左に大ゆれし、ジャンプしながら、命がけで鉤《はり》をはずそうとします。この際、釣糸《てぐす》をゆるめると、鉤がはずれ、ムリをすると針素《はりす》を切られてしまいます。水面に引き上げられて、スズキが、なおも鉤から逃げようと右往左往するさまを、釣師仲間は「鱸の鰓洗い」と言います。味と言い、姿と言い、スズキの釣り魚としての風格は、夏を代表する魚と言えましょう。『譬喩尽《ひゆづくし》』にも、
「鱸は夏魚なり、殊《こと》に土用中に喰へば灸の代わりすといへり」
とあり、ことわざにも「土用のスズキは画に描いて嘗《な》めても薬になる」と、持ち上げています。
北海道から沖縄まで、多くの内湾や沿岸の浅海に分布しています。巨口細鱗、背部は鉛青色で、腹部は白く、体長一メートルぐらい。成長段階に従って、習性も名前も、棲息場所も変わります。例えば東京辺りでは、フッコ(五センチ)、コッパまたはデキ(一〇センチ)、セイゴ・セエゴ(二五センチ)、フッコ(三五センチ、大小の意味がある)、スズキ(約五〇センチ以上の成魚)、オオタロオ(一メートルにもなる老大魚)と呼びます。
セイゴ、フッコなどは、ハゼ釣りのおまけに、江戸川の河口付近でもよく釣れます。東京湾のスズキは、釣師仲間に有名で、江戸前を代表するイナセな魚として、もてはやされています。しかし、一時期、公害の影響を受けて、東京湾産のフッコやセイゴ、スズキは石油臭くて食べられませんでした。その後、東京湾汚染が各方面で問題にされ、公害対策が効を奏したのか、近年、再び湾内がかなり浄化され、スズキの味も以前ほどの臭味はなくなりました。釣り以外、フッコ、スズキはアグリ漁(まき網の一種)でも漁獲されます。
銀盤に露ちるあらひ鱸かな 笠堂
苦労して釣り上げた鮮度のいいスズキは、「洗い」で食べるのが最高の味。土用から晩秋にかけての「腹太鱸《はらぶとすずき》」(抱卵もの)を、珍重するムキも多い。フッコも洗いに作ります。「洗い」に向く魚の条件の一つとして、淡水にもしばらくの間、生かしておけるもの──が選ばれているようです。その点、フッコは真水にも強いので、洗い向きの魚として、もてはやされたのでしょう。大きなスズキともなると、活《い》けのままでは持ち運びに不便なので、よほど条件に恵まれないかぎり、漁場以外の土地で洗いにするのは困難です。
手際よくふしどりしたスズキ、またはフッコを、うすくそぎ切りにします。そしてザルに並べ、水道(井戸ならなおよい)の水を勢いよく出し放しにして、箸でつまんで洗います。手早く洗ったら、ふきんで水気を取り、氷の上に青じそのつまを敷き、その上に盛り付け、わさびじょうゆか、しょうがじょうゆを添えますが、梅肉じょうゆで食べるのがいちばん。