シカがたらのめを食べたからといって、角がもげるのではありません。シカがたらのめを食べるころは、ちょうど雄ジカの角が脱け落ちる時期で、これを見た昔の人があたかも因果関係があるように錯覚したのです。同じように岩手県には、「蕗《ふき》の薹《とう》を食べると鹿の角もげる」といったことわざが伝えられています。正確に言えば、「※[#「木+怱」、unicode6964]の芽を食べるころには、鹿の角もげる」「蕗の薹を食べるころには、鹿の角もげる」ということで、一種の「自然暦」と言えましょう。
シカは雄にだけ骨質の枝角があり、角の大きさや形状は、成長段階と栄養状態によって異なり、ふつう生後二年目から生え始め、例年、晩冬または春に根元から脱け落ちます。
ところでこのたらのめですが、四月から五月にかけて、たらの木の幹の先端に出る若芽で、昔から山菜の王に数えられています。ウコギ科に属する亜喬木で、その葉がまだ開かず、枝の先に拳をかためたような形の時、摘み採ります。葉を開いたものでも芯芽はやわらかいので、地域によっては六月中旬まで採取できます。他の山菜とちがって、枝が少ないことから、追芽は二番芽で止めないと枯死してしまいます。
そのせいか、湯檜曾《ゆびそ》(群馬県)の山間の言い伝えによれば、たらのめ一つ摘み採ることは、坊主一〇〇〇人の首を斬るに等しい罪悪だと言います。なにせ、その若芽を食べに来る敵、獣どもを寄せつけないために、鬼の金棒みたいに、すさまじい棘《とげ》で、全身武装している、その一本のまっすぐな枝の頭に、たった一個しか芽を萌《ふ》かないので、それを摘み採っては、木は育ちません。さながら首を奪うに相当する殺生であるから止めたほうがよい──という植物愛護の思想の|あらわれ《ヽヽヽヽ》かも知れません。
うどのような香気をもち、舌ざわりもよく、味も上品です。この香気があるために、ところによってはきうどの名で呼んでいますが、まことにうがった名と申せましょう。このほかの異名もうどに縁があるものが多く、うどもどき、たらうど、さるうどなどがそれです。
最近は牛乳びんのような容器に入れ、温室栽培されるようになり、ツボミ状にふっくら芽萌いたところをナイフでちょんぎります。この栽培種のものが一キロ数千円で取り引きされることもあるそうで、まったくバカげた話です。ただ珍しいだけでバカ値がつく、世の中狂っている──としか言いようがありません。
田の畦《あぜ》も塗るべくなりてゆでて食ふ
たらの若芽のうまきこのごろ 吉植庄亮
食べ方はいろいろありますが、生のまま衣をつけて揚げたたらのめの天ぷらは、もっとも人気のある食べ方。そのほか、ごまあえ、くるみあえ、白あえ、みそあえ、いずれも絶品。|あく《ヽヽ》もないので、他の野草類のように、ゆでてさらすような必要もなく、すぐに調理できます。
シカは雄にだけ骨質の枝角があり、角の大きさや形状は、成長段階と栄養状態によって異なり、ふつう生後二年目から生え始め、例年、晩冬または春に根元から脱け落ちます。
ところでこのたらのめですが、四月から五月にかけて、たらの木の幹の先端に出る若芽で、昔から山菜の王に数えられています。ウコギ科に属する亜喬木で、その葉がまだ開かず、枝の先に拳をかためたような形の時、摘み採ります。葉を開いたものでも芯芽はやわらかいので、地域によっては六月中旬まで採取できます。他の山菜とちがって、枝が少ないことから、追芽は二番芽で止めないと枯死してしまいます。
そのせいか、湯檜曾《ゆびそ》(群馬県)の山間の言い伝えによれば、たらのめ一つ摘み採ることは、坊主一〇〇〇人の首を斬るに等しい罪悪だと言います。なにせ、その若芽を食べに来る敵、獣どもを寄せつけないために、鬼の金棒みたいに、すさまじい棘《とげ》で、全身武装している、その一本のまっすぐな枝の頭に、たった一個しか芽を萌《ふ》かないので、それを摘み採っては、木は育ちません。さながら首を奪うに相当する殺生であるから止めたほうがよい──という植物愛護の思想の|あらわれ《ヽヽヽヽ》かも知れません。
うどのような香気をもち、舌ざわりもよく、味も上品です。この香気があるために、ところによってはきうどの名で呼んでいますが、まことにうがった名と申せましょう。このほかの異名もうどに縁があるものが多く、うどもどき、たらうど、さるうどなどがそれです。
最近は牛乳びんのような容器に入れ、温室栽培されるようになり、ツボミ状にふっくら芽萌いたところをナイフでちょんぎります。この栽培種のものが一キロ数千円で取り引きされることもあるそうで、まったくバカげた話です。ただ珍しいだけでバカ値がつく、世の中狂っている──としか言いようがありません。
田の畦《あぜ》も塗るべくなりてゆでて食ふ
たらの若芽のうまきこのごろ 吉植庄亮
食べ方はいろいろありますが、生のまま衣をつけて揚げたたらのめの天ぷらは、もっとも人気のある食べ方。そのほか、ごまあえ、くるみあえ、白あえ、みそあえ、いずれも絶品。|あく《ヽヽ》もないので、他の野草類のように、ゆでてさらすような必要もなく、すぐに調理できます。