腹いっぱい、飽き足りるほど食べること。(「鱈腹」は当て字)──と、手元の辞書類には解説されています。『大言海』などは、「たらふく」の語源について、
「足らひ腫《フク》るるノ意」
といった説を掲げています。当て字として用いられるようになった「鱈腹」も、もしタラ自体に、「胃袋が大きく、手当たり次第になんでも食べる」食性がなかったら、いかに語呂がよくても、果たして用いられたかどうか疑問が残ります。もっとも「たらふく」の俗言は、腹の大きなタラとフグを並べたのかも知れません。
いずれにしろ、タラの暴食ぶりはたいへんなもので、その大口にふさわしく、トロール船のカギ束や野ウサギ、ウミガラスまで食べると言われますし、魚なら自分の体の三分の二近くもあるニシン、スケソウ、カレイその他の魚は言うに及ばず、イカ、タコ、カニ、エビ、ヤドカリ、ヒトデ、貝類から底生動物はなんでもござれと言ったあんばい。かつて北海道大学の野田先生は、タラの消化管を研究され、タラは胃潰瘍《いかいよう》を起こしやすい──と診断されました。マダラにかぎらずタラ科の魚は、みな腹が大きく垂れ下がっていますが、腹を見ても分りますようにタラは確かに貪食な魚です。このような大食らいのせいか、タラは一年に体の半分ぐらいの割合で体重が増え、三年で親になり、十三年から十四年も生きるとさえ言われています。
マダラの産卵期は、場所によってズレがあるものの、北海道では一、二月ごろ。そのころ、オホーツク海を激しい吹雪が襲います。そしてこの時期がタラ漁の最盛期で、そのため、タラのことを魚ヘンに雪と書くと言われます。あるいは純白でクセのない肉片の色を白雪で表現したのでしょう。古書によれば、タラを昔の官家でユキと呼んだそうです。産卵期まで、別々の群れで回游していた雄と雌は、サケが生まれ故郷の川に戻ると同じように、産卵場にぞくぞく集まり、卵と精子を放出します。一回に放出する卵の数は、約五〇〇万粒と言われ、一生に一〇回前後も産卵すると言うのですから、たいへんな数と言えます。
肉は白身で、淡泊なせいか、一般に魚を好まない欧米諸国でもよろこばれ、食料や肝油、特にビタミンAとDとの天然原料として、もっとも重要な魚で、ニシンとともに経済魚のナンバーワンとされています。
二杯目に汗ばむ鱈の番屋汁 影三
日本では田麩《でんぶ》やそぼろ、刺身、煮付けなどにするほか、干もの、粕漬け、燻製《くんせい》など多くの利用法がありますが、なじみの深いのはちり鍋。「鱈は馬の鼻息でも煮える」と言うのは東北地方に伝わることわざで、タラの煮えやすい性質を言うものですが、北海道では「鱈ちりと雪道は後がよい」と言いますように、煮えても、味が滲《し》み出るまで待ったほうがいいようです。京料理で有名な「いもぼう」は干ダラの旨煮《うまに》で、水に漬けた後、湯煮し、えびいもとともに砂糖、みりん、しょうゆで味付けしたものです。
「足らひ腫《フク》るるノ意」
といった説を掲げています。当て字として用いられるようになった「鱈腹」も、もしタラ自体に、「胃袋が大きく、手当たり次第になんでも食べる」食性がなかったら、いかに語呂がよくても、果たして用いられたかどうか疑問が残ります。もっとも「たらふく」の俗言は、腹の大きなタラとフグを並べたのかも知れません。
いずれにしろ、タラの暴食ぶりはたいへんなもので、その大口にふさわしく、トロール船のカギ束や野ウサギ、ウミガラスまで食べると言われますし、魚なら自分の体の三分の二近くもあるニシン、スケソウ、カレイその他の魚は言うに及ばず、イカ、タコ、カニ、エビ、ヤドカリ、ヒトデ、貝類から底生動物はなんでもござれと言ったあんばい。かつて北海道大学の野田先生は、タラの消化管を研究され、タラは胃潰瘍《いかいよう》を起こしやすい──と診断されました。マダラにかぎらずタラ科の魚は、みな腹が大きく垂れ下がっていますが、腹を見ても分りますようにタラは確かに貪食な魚です。このような大食らいのせいか、タラは一年に体の半分ぐらいの割合で体重が増え、三年で親になり、十三年から十四年も生きるとさえ言われています。
マダラの産卵期は、場所によってズレがあるものの、北海道では一、二月ごろ。そのころ、オホーツク海を激しい吹雪が襲います。そしてこの時期がタラ漁の最盛期で、そのため、タラのことを魚ヘンに雪と書くと言われます。あるいは純白でクセのない肉片の色を白雪で表現したのでしょう。古書によれば、タラを昔の官家でユキと呼んだそうです。産卵期まで、別々の群れで回游していた雄と雌は、サケが生まれ故郷の川に戻ると同じように、産卵場にぞくぞく集まり、卵と精子を放出します。一回に放出する卵の数は、約五〇〇万粒と言われ、一生に一〇回前後も産卵すると言うのですから、たいへんな数と言えます。
肉は白身で、淡泊なせいか、一般に魚を好まない欧米諸国でもよろこばれ、食料や肝油、特にビタミンAとDとの天然原料として、もっとも重要な魚で、ニシンとともに経済魚のナンバーワンとされています。
二杯目に汗ばむ鱈の番屋汁 影三
日本では田麩《でんぶ》やそぼろ、刺身、煮付けなどにするほか、干もの、粕漬け、燻製《くんせい》など多くの利用法がありますが、なじみの深いのはちり鍋。「鱈は馬の鼻息でも煮える」と言うのは東北地方に伝わることわざで、タラの煮えやすい性質を言うものですが、北海道では「鱈ちりと雪道は後がよい」と言いますように、煮えても、味が滲《し》み出るまで待ったほうがいいようです。京料理で有名な「いもぼう」は干ダラの旨煮《うまに》で、水に漬けた後、湯煮し、えびいもとともに砂糖、みりん、しょうゆで味付けしたものです。