日本は米食文化の国と言われますが、この伝《でん》でいけば、さしずめヨーロッパは肉食文化の国と言えましょう。でも日本人が誰でもお米のごはんにありつけるようになったのは、戦後のことで、それまでの長い間、大都市を除いて、米と雑穀の混合食が幅をきかせていました。事情は肉食文化の国ヨーロッパでも同様で、肉類を腹いっぱい食べられるようになったのは、ごく最近のことです。それと言うのも、彼等の口にする牛や羊は一回の出産で、一頭しか産まないばかりか、牛の場合は草だけで飼育すると、食べられるまでに五、六年はかかり、いきなり仔牛を屠殺《とさつ》して、食肉にしてしまっては、元も子もないからです。しかも食肉にする前に、利用しなければならないことがいくつかありました。
役牛にも種牛《たねうし》にもならない雄牛は、早めに去勢《きよせい》して、肉牛として飼育しました。肉牛にしかならないとなれば、去勢して肉質をやわらかくしておくのが好ましいからです。ヨーロッパで牛肉としてもっとも珍重されたのは、これらの去勢雄牛、中でも五、六歳ものの肉でした。「ビーフ」という英語は、もともと去勢雄牛を指す単語でした。当然のことながら、うまい去勢雄牛を口にできるのは、ごく一部の上流階級にかぎられていました。
雌牛はすべて乳牛に仕立て上げるのが定法で、一度出産を経験した雌牛は、つぎの妊娠がなければ、次第に量は減るものの、二、三年の間は、牛乳を分泌しつづけます。何度も妊娠、出産を繰り返させれば、繁殖に役立つばかりか、搾乳《さくにゆう》中断期間はあるものの、多くの乳量をもっと長い間確保することができました。
残念なことに牛乳自体は腐りやすく、搾乳後半日ぐらいしかもちませんが、バターやチーズにすれば立派な保存食品になります。しかもチーズは牛乳のエッセンスを集め、さらに価値をつけたと言ってよい食品で、たんぱく質の量は一〇〇グラム中二五〜三〇グラムも含まれています。脂肪も多く、チーズ一〇〇グラムは約四〇〇カロリーもの熱量をもっています。「チーズは精が強い」とか、「スタミナがつく」と言われるのは当然です。スタミナの原動力は、主としてたんぱく質ですから、チーズを多く食べれば当然元気は出ます。
その上、チーズのたんぱく質は、また、たいへん消化のよい形に変わっています。つまり、一部はアミノ酸になっていますし、アミノ酸まではいかなくても、とにかくたんぱく質が乳酸菌の酵素などで分解されていて、消化吸収しやすい。チーズを食べると、肉などよりも時間的に早くからだが温まってくるのは、この消化吸収のよさのためでしょう。
「チーズがなければ消化不良となる」といったことわざが生まれるほど、乳製品は、過去のヨーロッパ人にとって、食肉以上に欠かせない存在でした。
たんぱく質を摂《と》るのに効率のよいチーズは、酒の肴に最高のものと言われ、また、肉類の脂肪より高血圧になりにくいと言われます。
役牛にも種牛《たねうし》にもならない雄牛は、早めに去勢《きよせい》して、肉牛として飼育しました。肉牛にしかならないとなれば、去勢して肉質をやわらかくしておくのが好ましいからです。ヨーロッパで牛肉としてもっとも珍重されたのは、これらの去勢雄牛、中でも五、六歳ものの肉でした。「ビーフ」という英語は、もともと去勢雄牛を指す単語でした。当然のことながら、うまい去勢雄牛を口にできるのは、ごく一部の上流階級にかぎられていました。
雌牛はすべて乳牛に仕立て上げるのが定法で、一度出産を経験した雌牛は、つぎの妊娠がなければ、次第に量は減るものの、二、三年の間は、牛乳を分泌しつづけます。何度も妊娠、出産を繰り返させれば、繁殖に役立つばかりか、搾乳《さくにゆう》中断期間はあるものの、多くの乳量をもっと長い間確保することができました。
残念なことに牛乳自体は腐りやすく、搾乳後半日ぐらいしかもちませんが、バターやチーズにすれば立派な保存食品になります。しかもチーズは牛乳のエッセンスを集め、さらに価値をつけたと言ってよい食品で、たんぱく質の量は一〇〇グラム中二五〜三〇グラムも含まれています。脂肪も多く、チーズ一〇〇グラムは約四〇〇カロリーもの熱量をもっています。「チーズは精が強い」とか、「スタミナがつく」と言われるのは当然です。スタミナの原動力は、主としてたんぱく質ですから、チーズを多く食べれば当然元気は出ます。
その上、チーズのたんぱく質は、また、たいへん消化のよい形に変わっています。つまり、一部はアミノ酸になっていますし、アミノ酸まではいかなくても、とにかくたんぱく質が乳酸菌の酵素などで分解されていて、消化吸収しやすい。チーズを食べると、肉などよりも時間的に早くからだが温まってくるのは、この消化吸収のよさのためでしょう。
「チーズがなければ消化不良となる」といったことわざが生まれるほど、乳製品は、過去のヨーロッパ人にとって、食肉以上に欠かせない存在でした。
たんぱく質を摂《と》るのに効率のよいチーズは、酒の肴に最高のものと言われ、また、肉類の脂肪より高血圧になりにくいと言われます。