茶初穂を飲むと憎まれる
「初穂《はつほ》」といえば、ふつう、その年に初めて稔《みの》った稲の穂のことですが、転じて穀物や果物など、その年に初めてできたものの意にも用います。従って「茶初穂」と言えば新茶のこと──と解しても差し支えないでしょう。初穂の茶は貴重なうえに、うまいので、新茶を飲むのをうらやましく思い、「茶初穂を飲むと憎まれる」などと言われだしたのでしょう。
新緑の五月には、八十八夜の茶摘みが始まり、新茶が出回り始めます。このころに摘んだものを一番茶と言い、お盆前後に摘むのを二番茶、八月下旬ごろを三番茶と言います。宇治あたりでは一番茶、時に二番茶までしか摘みません。静岡ものでは三番茶まで摘む茶畑もあります。
お茶がいちばんうまいのは八十八夜新茶の時季と言われ、この新茶は、お茶そのものの味よりも、香りと、色のよさ、口に入れて、やわらかみのある味が特徴です。しかし、お茶がほんとうにうまくなるのは、やはり、その年の新茶が、それぞれのお茶屋でブレンドされ、銘茶として売り出される九月以降です。蔵出し茶とか口切り茶と呼ばれるこれらのお茶には、新茶にはないうま味があると、かえってお茶通たちはよろこびます。そうは言っても、新茶のもつ独特の高い香りと色味を十分生かすことができれば、それこそ他人様《ひとさま》から憎まれるほどのものになります。さりとて、淹《い》れ方に心遣いが足りないと、新茶の新茶らしい味わいは望めません。
そこで、新茶のうまい淹れ方ですが、お客五人として、急須《きゆうす》を使って、新茶の分量及びお湯の温度を考えてみましょう。少し質のよい新茶、または玉露茶を七グラムほど取って急須に入れます。お湯は一度沸騰させてから、大体七五〜八〇度Cぐらいになったころを見計らって、急須に七分目ほど注ぎ入れます。これを静かに一碗から五碗まで、少しずつ、三回ほど往復するように注ぎ分け、お茶の色がみな均等になるようにします。急須の中にお茶の湯が残らないよう、よくしぼります。こうすれば、新茶の香り、色、味も十分味わえると思います。
また、番茶の場合は土びんなり、やかんなりにお茶の葉を入れて熱湯を注ぐのと、熱湯の中にお茶の葉を後から入れるのと二通りできますが、新茶の場合は後のほうが香りがよいと思います。いずれにせよ、番茶にはぬるいお湯を使わないことが肝要です。
「砂糖買いに茶を頼むな」とは福島県相馬地方に伝えられていることわざですが、お茶は湿気をきらうので、このように言います。
お茶の生命は香り、色、味わいにあり、一度、湿気てしまうと、香りも味も、もう元にはもどりません。また、移り香の早いものですから、匂いのある品物と同じ所に置かないようにすることも大切です。そこで、湿気ないよう、移り香のつかないような保存の容器が必要になります。これには錫《すず》製の壺《つぼ》がいちばんよいのですが、ブリキ缶《かん》でも結構です。紙袋に入れ、さらにビニールの袋に入れて、口を十分に閉めておくことも一つの方法です。お茶の香りは大変微妙なものですから、面倒でも、必要な分量ずつ買い求めるほうが、うまいお茶がいただけます。
新緑の五月には、八十八夜の茶摘みが始まり、新茶が出回り始めます。このころに摘んだものを一番茶と言い、お盆前後に摘むのを二番茶、八月下旬ごろを三番茶と言います。宇治あたりでは一番茶、時に二番茶までしか摘みません。静岡ものでは三番茶まで摘む茶畑もあります。
お茶がいちばんうまいのは八十八夜新茶の時季と言われ、この新茶は、お茶そのものの味よりも、香りと、色のよさ、口に入れて、やわらかみのある味が特徴です。しかし、お茶がほんとうにうまくなるのは、やはり、その年の新茶が、それぞれのお茶屋でブレンドされ、銘茶として売り出される九月以降です。蔵出し茶とか口切り茶と呼ばれるこれらのお茶には、新茶にはないうま味があると、かえってお茶通たちはよろこびます。そうは言っても、新茶のもつ独特の高い香りと色味を十分生かすことができれば、それこそ他人様《ひとさま》から憎まれるほどのものになります。さりとて、淹《い》れ方に心遣いが足りないと、新茶の新茶らしい味わいは望めません。
そこで、新茶のうまい淹れ方ですが、お客五人として、急須《きゆうす》を使って、新茶の分量及びお湯の温度を考えてみましょう。少し質のよい新茶、または玉露茶を七グラムほど取って急須に入れます。お湯は一度沸騰させてから、大体七五〜八〇度Cぐらいになったころを見計らって、急須に七分目ほど注ぎ入れます。これを静かに一碗から五碗まで、少しずつ、三回ほど往復するように注ぎ分け、お茶の色がみな均等になるようにします。急須の中にお茶の湯が残らないよう、よくしぼります。こうすれば、新茶の香り、色、味も十分味わえると思います。
また、番茶の場合は土びんなり、やかんなりにお茶の葉を入れて熱湯を注ぐのと、熱湯の中にお茶の葉を後から入れるのと二通りできますが、新茶の場合は後のほうが香りがよいと思います。いずれにせよ、番茶にはぬるいお湯を使わないことが肝要です。
「砂糖買いに茶を頼むな」とは福島県相馬地方に伝えられていることわざですが、お茶は湿気をきらうので、このように言います。
お茶の生命は香り、色、味わいにあり、一度、湿気てしまうと、香りも味も、もう元にはもどりません。また、移り香の早いものですから、匂いのある品物と同じ所に置かないようにすることも大切です。そこで、湿気ないよう、移り香のつかないような保存の容器が必要になります。これには錫《すず》製の壺《つぼ》がいちばんよいのですが、ブリキ缶《かん》でも結構です。紙袋に入れ、さらにビニールの袋に入れて、口を十分に閉めておくことも一つの方法です。お茶の香りは大変微妙なものですから、面倒でも、必要な分量ずつ買い求めるほうが、うまいお茶がいただけます。