夏の土用中のタコは親にも食べさせないで、つい自分が食べてしまうほど、非常においしいという意味。
実際、夏のタコはうまい。ちょうど夏はタコの産卵期にあたり、うまい時季で、俗に「麦藁ダコ」と言い、古来「麦藁ダコに祭りハモ」と言えば、味ののっているしゅんものと言う意味に使われてきました。
蛸壺《たこつぼ》やはかなき夢を夏の月 芭蕉
タコの仲間は、日本の近海に五〇種ぐらいいますが、そのどれもが食用になっているわけではありません。マダコ、ミズダコ、イイダコ、テナガダコなどが、市場に顔を出します。このほか、ヤナギダコ、クモダコも漁獲の対象になっています。ミズダコは一名オオダコと言い、メスをマダコ、オスをミズダコという漁師もいますが、これは正しくありません。
一般にタコは、タコ壺を海底に沈めておき、タコがその中に潜むのを待って、順次に手繰《たぐ》り上げて獲《と》ります。そのほか、ヤスで突いたり、釣鉤《つりばり》で引っかけたり、底曳網でも捕獲します。
寛政十一年(一七九九)板の『日本山海名産図会』に「章魚《たこ》」の章があり、
「諸州にあり、中にも播州明石に多し、磁壺《やきものつぼ》二つ三つを縄にまとひ、水中に投じて、自《みづ》から来り入るを常とす、磁器是を鮹壺と称して市中に花瓶《かびん》ともなして用ゆ、鮹は壺中に付て引出すにやすからず、時に壺の底の裏を物をもつて掻撫《かきなづ》れば、おのづから出て、壺を放るること速《すみやか》なり」
と、見えております。関東市場には、房州以北の太平洋岸のものが入荷し、中でも三陸産がうまい。日本ダコのうまさは世界に冠たるものですが、ちょっと難を言えば、かたいことです。近頃、入荷がグンと増えているアフリカダコは、日本近海産のものに比べると、味はアッサリしていて、物足りない面はあるものの、肉質がやわらかで、お年寄りでも、楽に食べられます。ほとんどが冷凍品として入荷し、地方へ発送するにも便利で、アフリカ産のタコを使ってこの頃、各地方でゆでダコ生産は活発になっています。
関東市場では主にゆでダコが陳列され、関西市場では生ダコが並びます。『日本山海名産図会』にも記されていたように、昔から明石ダコをはじめ、おだやかな瀬戸内海で獲れるタコは味が最高で、生きたタコをよく塩もみして、粘液を取り、調味汁の中で、長時間じっくり煮込みます。これがいわゆる「桜煮」で、やわらかに煮上がってうまいものですから、ついゆでダコで試みようと思いますが、こればかりは逆にかたくなるばかりで、どうもいけません。タコをやわらかに煮ようとするなら、やはり、生からでないといけません。東京でも生からユックリ煮込んで「やわらか煮」を看板とする店はあるものの、関西、とりわけ大阪に比べたら、微々たるものです。
三杯酢、おでん、すし、大根などとの煮つけにして賞味するのは、ご存知のとおり。
油断すな柚の花|咲《さき》ぬいその蛸 支考
実際、夏のタコはうまい。ちょうど夏はタコの産卵期にあたり、うまい時季で、俗に「麦藁ダコ」と言い、古来「麦藁ダコに祭りハモ」と言えば、味ののっているしゅんものと言う意味に使われてきました。
蛸壺《たこつぼ》やはかなき夢を夏の月 芭蕉
タコの仲間は、日本の近海に五〇種ぐらいいますが、そのどれもが食用になっているわけではありません。マダコ、ミズダコ、イイダコ、テナガダコなどが、市場に顔を出します。このほか、ヤナギダコ、クモダコも漁獲の対象になっています。ミズダコは一名オオダコと言い、メスをマダコ、オスをミズダコという漁師もいますが、これは正しくありません。
一般にタコは、タコ壺を海底に沈めておき、タコがその中に潜むのを待って、順次に手繰《たぐ》り上げて獲《と》ります。そのほか、ヤスで突いたり、釣鉤《つりばり》で引っかけたり、底曳網でも捕獲します。
寛政十一年(一七九九)板の『日本山海名産図会』に「章魚《たこ》」の章があり、
「諸州にあり、中にも播州明石に多し、磁壺《やきものつぼ》二つ三つを縄にまとひ、水中に投じて、自《みづ》から来り入るを常とす、磁器是を鮹壺と称して市中に花瓶《かびん》ともなして用ゆ、鮹は壺中に付て引出すにやすからず、時に壺の底の裏を物をもつて掻撫《かきなづ》れば、おのづから出て、壺を放るること速《すみやか》なり」
と、見えております。関東市場には、房州以北の太平洋岸のものが入荷し、中でも三陸産がうまい。日本ダコのうまさは世界に冠たるものですが、ちょっと難を言えば、かたいことです。近頃、入荷がグンと増えているアフリカダコは、日本近海産のものに比べると、味はアッサリしていて、物足りない面はあるものの、肉質がやわらかで、お年寄りでも、楽に食べられます。ほとんどが冷凍品として入荷し、地方へ発送するにも便利で、アフリカ産のタコを使ってこの頃、各地方でゆでダコ生産は活発になっています。
関東市場では主にゆでダコが陳列され、関西市場では生ダコが並びます。『日本山海名産図会』にも記されていたように、昔から明石ダコをはじめ、おだやかな瀬戸内海で獲れるタコは味が最高で、生きたタコをよく塩もみして、粘液を取り、調味汁の中で、長時間じっくり煮込みます。これがいわゆる「桜煮」で、やわらかに煮上がってうまいものですから、ついゆでダコで試みようと思いますが、こればかりは逆にかたくなるばかりで、どうもいけません。タコをやわらかに煮ようとするなら、やはり、生からでないといけません。東京でも生からユックリ煮込んで「やわらか煮」を看板とする店はあるものの、関西、とりわけ大阪に比べたら、微々たるものです。
三杯酢、おでん、すし、大根などとの煮つけにして賞味するのは、ご存知のとおり。
油断すな柚の花|咲《さき》ぬいその蛸 支考