長火鉢や囲炉裏《いろり》が私たちの生活の周囲から遠ざけられ、炭火が縁遠くなってしまった現在、焼きもの料理が徐々に姿を消しつつあるのは残念でなりません。
魚は刺身で食べる以外は、焼いて食べるのがおいしく、壱岐《いき》地方のことわざにも「一焼き二なます、捨てようより煮て食え」と言い、焼きものはうまい調理の筆頭にあげられております。
ふつう焼きものの火かげんは、「強火の遠火で炎を立てぬ」のが理想とされています。わけても直火《じかび》で焼くときは、火かげんがたいせつで、熱源としては木炭がいちばんです。その木炭の中でも、木炭の内部に湿り気が少なく、ホテリが強く、火力にムラのないうえに、火持ちのよい備長炭《びんちようずみ》が最高です。風味をたいせつにする焼きものでは、焦げ味を作るために表面はわずかの時間で焼き上げ、でんぷん質のようなもので糊化《こか》させなければなりません。そのためには強火で、肉質や厚味に応じて、ほどよい火熱をとおし、食品のうま味を引き出すためには、遠火にして肉質の内部があまり乾きすぎないようにします。炎を立てずというのは、遠火の火かげんと同じく、焼くものの表面をいちどに早く炭化させず、また必要以上に焦がさないための方法です。
一般家庭で用いるガスの炎は、八○○度から一〇〇〇度C近くもあり、直火焼きには不向きな熱源です。焼きものの温度は、二〇〇度から二五〇度Cが適温で、水気の多い食品でもせいぜい三〇〇度Cくらいにとどめないといけません。もっと詳しく言えば、内部温度は肉類で七〇度〜七五度C以内、植物性食品では一〇五度〜一一〇度Cぐらいになるのが適温です。
ガスの炎のような高温では、表面が真黒焦げになり、うま味をふくんだ肉汁が不必要に外に流れ出てしまい、せっかくの焼きものがまずくなってしまいます。ですから、やむを得ずガスで焼きものをする際には、石綿つきのガス用網器かあるいは山型の鉄板の張ってある網器で、ガスの炎をいったん受けて、間接焼きにします。
網焼きをするときは、あらかじめ網を油でふいて、よく|から焼き《ヽヽヽヽ》してから焼くものをのせると、魚の皮や肉の表面が網につかないで、仕上がりがきれいになります。熱源との距離を調節して遠火にするには、ガス器具のわきに、レンガを置くなどして高さをあんばいします。焼けぐあいをたしかめるために、何度もひっくり返す人がおりますが、あまり|しつこく《ヽヽヽヽ》何度もやると身崩れを起こし、形が醜くなります。まず表を七割ぐらい焼いてから裏返し、表裏それぞれ一回ぐらいで焼き上げるのが、うまい焼き方と言えましょう。なお、直火焼きには下ごしらえの仕方によって、塩焼き、照焼き、付焼き、雲丹焼き、松風焼き、田楽など、いろんな名称があります。
このように焼きものは火かげんのよしあしで、うまいまずいが決まるものだけに、焼きはじめたら、ほかの仕事はいっさいやめて、焼くことだけに専念しましょう。ふしぎなもので、焼きざかななど、じっと目を放さずに見つめていると、なかなか焼けない。それなのに、ちょっとよそ見をすると急いで焦げたがる——ものだからです。
魚は刺身で食べる以外は、焼いて食べるのがおいしく、壱岐《いき》地方のことわざにも「一焼き二なます、捨てようより煮て食え」と言い、焼きものはうまい調理の筆頭にあげられております。
ふつう焼きものの火かげんは、「強火の遠火で炎を立てぬ」のが理想とされています。わけても直火《じかび》で焼くときは、火かげんがたいせつで、熱源としては木炭がいちばんです。その木炭の中でも、木炭の内部に湿り気が少なく、ホテリが強く、火力にムラのないうえに、火持ちのよい備長炭《びんちようずみ》が最高です。風味をたいせつにする焼きものでは、焦げ味を作るために表面はわずかの時間で焼き上げ、でんぷん質のようなもので糊化《こか》させなければなりません。そのためには強火で、肉質や厚味に応じて、ほどよい火熱をとおし、食品のうま味を引き出すためには、遠火にして肉質の内部があまり乾きすぎないようにします。炎を立てずというのは、遠火の火かげんと同じく、焼くものの表面をいちどに早く炭化させず、また必要以上に焦がさないための方法です。
一般家庭で用いるガスの炎は、八○○度から一〇〇〇度C近くもあり、直火焼きには不向きな熱源です。焼きものの温度は、二〇〇度から二五〇度Cが適温で、水気の多い食品でもせいぜい三〇〇度Cくらいにとどめないといけません。もっと詳しく言えば、内部温度は肉類で七〇度〜七五度C以内、植物性食品では一〇五度〜一一〇度Cぐらいになるのが適温です。
ガスの炎のような高温では、表面が真黒焦げになり、うま味をふくんだ肉汁が不必要に外に流れ出てしまい、せっかくの焼きものがまずくなってしまいます。ですから、やむを得ずガスで焼きものをする際には、石綿つきのガス用網器かあるいは山型の鉄板の張ってある網器で、ガスの炎をいったん受けて、間接焼きにします。
網焼きをするときは、あらかじめ網を油でふいて、よく|から焼き《ヽヽヽヽ》してから焼くものをのせると、魚の皮や肉の表面が網につかないで、仕上がりがきれいになります。熱源との距離を調節して遠火にするには、ガス器具のわきに、レンガを置くなどして高さをあんばいします。焼けぐあいをたしかめるために、何度もひっくり返す人がおりますが、あまり|しつこく《ヽヽヽヽ》何度もやると身崩れを起こし、形が醜くなります。まず表を七割ぐらい焼いてから裏返し、表裏それぞれ一回ぐらいで焼き上げるのが、うまい焼き方と言えましょう。なお、直火焼きには下ごしらえの仕方によって、塩焼き、照焼き、付焼き、雲丹焼き、松風焼き、田楽など、いろんな名称があります。
このように焼きものは火かげんのよしあしで、うまいまずいが決まるものだけに、焼きはじめたら、ほかの仕事はいっさいやめて、焼くことだけに専念しましょう。ふしぎなもので、焼きざかななど、じっと目を放さずに見つめていると、なかなか焼けない。それなのに、ちょっとよそ見をすると急いで焦げたがる——ものだからです。