「家のつくりやうは夏をむねとすべし」と兼好法師は『徒然草』に書き記していますが、日本では汗の出る季節がもっともくらしにくく、住まいも着物も、古来、夏を基準に設計されてきました。夏をむねとする住まいの設計の基本は、いかに風通しをよくするかということで、間仕切りには、フスマや障子などというまことに便利なものを発明し、蒸し暑い季節には取りはずしがきき、風通しをよくして、室内に湿気や熱気がこもらぬようにくふうしています。こうした日本の住まいの中でも、いちばん涼しく、気持ちのよいところは縁側。気の張らない親しい人を招いておもてなしをするときは、夏ばかりは風通しの悪い奥座敷の上座より縁側のほうが喜ばれます。ルームクーラーの発達した今日でも、自然の涼風はなによりのごちそうで、テーブルなども縁側に近いところへ移しておもてなしをするのが、主婦の思いやりと申せましょう。
ところで、夏座敷のそれとひっかけ、共によいというカレイの縁側とは、どの部分をさすのでしょう。カレイの縁側とは、上下のヒレの付け根にならんでいる骨、その間にはさまっている柱状をした肉のことです。この部分は身がしまっていて、脂肪分も多く、肉の他のどの部分よりもおいしく、俗にカレイの|かくし《ヽヽヽ》味といわれ珍重されています。煮魚にした石ガレイでもムニエルの舌ビラメでも、おれは縁側しか食べないなどと、イキがる向きもあるくらいです。
カレイ・ヒラメの類は、平べったいからだを半分砂にうずめ、全身は砂地の色に合わせてカムフラージュし、餌となる小魚や好物の貝、エビなどが近づくと、上下のヒレを動かし、尾ビレを強く振って、ヒラリと飛び上がり、一気に丸呑みします。
鳥の手羽、牛豚のもも……と言った具合に、総じて運動のはげしい部分の肉はおいしく、横着者のカレイやヒラメも、いちばん運動のきつい縁側は、やはり、おいしい。
カレイは種類が非常に多く、地方によっては、ヒラメと混同していることもあります。種類によって、しゅんもちがいます。石ガレイは、比較的に広く分布していて、体長四〇センチもあり、夏も冬もよく獲《と》れます。数多いカレイの中でも、石ガレイの煮つけはおいしく、肉が淡白なので、病人食としても好適だし、じょうぶな魚で、夏は活《い》けのまま入荷するので、洗いにすると、とりわけおいしい。石ガレイの小さいのは、メイタガレイと同じように、ヌメリと石(カレイ板)を取って、丸のまま、素揚げにすると美味です。
マコガレイ(マガレイ)は、肉が厚く口が小さく、東北あたりではクチボソの名で呼びます。クセがなく、おいしい魚で、秋田では冬がしゅんです。大分県|日出《ひじ》のいわゆる�城下カレイ�は、マコガレイのことで、刺身にすると、たいへんおいしく、土地っ子の話によれば、湾内から出る湧水と、それによって繁殖するエサのためだと言います。刺身には梅酢で作った三杯酢が合います。城下ガレイの味どころと言えば、頭東身(頭部筋肉)と眼球、頬肉がまず第一。これらの部分は煮ものか吸いものにもよく合うようです。また、縁側も城下カレイの食通に好まれるところ。
ところで、夏座敷のそれとひっかけ、共によいというカレイの縁側とは、どの部分をさすのでしょう。カレイの縁側とは、上下のヒレの付け根にならんでいる骨、その間にはさまっている柱状をした肉のことです。この部分は身がしまっていて、脂肪分も多く、肉の他のどの部分よりもおいしく、俗にカレイの|かくし《ヽヽヽ》味といわれ珍重されています。煮魚にした石ガレイでもムニエルの舌ビラメでも、おれは縁側しか食べないなどと、イキがる向きもあるくらいです。
カレイ・ヒラメの類は、平べったいからだを半分砂にうずめ、全身は砂地の色に合わせてカムフラージュし、餌となる小魚や好物の貝、エビなどが近づくと、上下のヒレを動かし、尾ビレを強く振って、ヒラリと飛び上がり、一気に丸呑みします。
鳥の手羽、牛豚のもも……と言った具合に、総じて運動のはげしい部分の肉はおいしく、横着者のカレイやヒラメも、いちばん運動のきつい縁側は、やはり、おいしい。
カレイは種類が非常に多く、地方によっては、ヒラメと混同していることもあります。種類によって、しゅんもちがいます。石ガレイは、比較的に広く分布していて、体長四〇センチもあり、夏も冬もよく獲《と》れます。数多いカレイの中でも、石ガレイの煮つけはおいしく、肉が淡白なので、病人食としても好適だし、じょうぶな魚で、夏は活《い》けのまま入荷するので、洗いにすると、とりわけおいしい。石ガレイの小さいのは、メイタガレイと同じように、ヌメリと石(カレイ板)を取って、丸のまま、素揚げにすると美味です。
マコガレイ(マガレイ)は、肉が厚く口が小さく、東北あたりではクチボソの名で呼びます。クセがなく、おいしい魚で、秋田では冬がしゅんです。大分県|日出《ひじ》のいわゆる�城下カレイ�は、マコガレイのことで、刺身にすると、たいへんおいしく、土地っ子の話によれば、湾内から出る湧水と、それによって繁殖するエサのためだと言います。刺身には梅酢で作った三杯酢が合います。城下ガレイの味どころと言えば、頭東身(頭部筋肉)と眼球、頬肉がまず第一。これらの部分は煮ものか吸いものにもよく合うようです。また、縁側も城下カレイの食通に好まれるところ。