南部領(盛岡藩)の人間は、サケの鼻が曲がっているように、性根が曲がっているというたとえ。江戸時代、南部領の人たちをそしっていう悪口の一種。
鼻の曲がっているのは雄サケの特徴でなにも南部のサケに限ったものではなく、四年ぶりに川をさかのぼるころの雄サケは、沖合いで獲《と》れたものでも、あごの先端が下方に曲がり、下あごの先端は上方に鉤《かぎ》のように折れ曲がって、鼻曲がりといわれるようなドギツイ顔になっています。このことわざは必ずしも真相を伝えてはいず、南部の人たちにとっては、とんだ濡衣《ぬれぎぬ》というわけです。一説によれば、南部の鼻曲がりサケを江戸市中にひろめたのは、南部藩の御用船をつとめる前川善兵衛だと言われ、この男、商才に長《た》けていて、江戸へサケを売り込むキャッチ・フレーズとして「鼻曲がり」を意識的に使い、大いに|あてた《ヽヽヽ》ということです。
サケは北洋にすみ、種類としてはシロザケ・ベニザケ・カラフトマス・マスノスケ・サクラマスなどがあり、国内ではシロザケが主でカラフトマス・サクラマスなどがこれにつぎます。分布は利根川以北の太平洋岸から日本海岸では信濃川辺を南限として棲み、日本海岸で獲れるのは、おもにサクラマスです。北洋でわずかに獲れる巨大なマスノスケは一名、キング・サーモンと呼び、脂肪分も多く、味もサケの王様。
川でかえった稚魚は、四センチぐらいになると外海へ出て、北洋で成長し、四年ほど経つと再び生まれ故郷の川へ産卵のため、遡ってきます。これをサケの母川回帰性といいます。
産卵期は九月から翌年の一月ごろまでで、メスが河床の小石や砂利を掘って産卵すると、待ち構えていたようにオスは乳白色の精液をかけ、砂利で覆い隠し、種族保存の役目を果たし終えると、親ザケは力つきて死んでしまいます。
産卵場に向かうころのサケのからだには、脂肪分がたくさん含まれていますが、いったん川を遡りはじめると、餌をほとんど食べず、からだの脂は抜け、たんぱく質も少なく、水分が多くなり、産卵後のサケはまずくて食えません。一般に味のよいのは、川ザケより海ザケで、もっとも味のよいのは川にはいりたての、いくぶん脂が減ったころ合いのサケです。正月用の食品としておなじみの新巻ザケも、この時季に作られたものが最上品です。
日ごろ、お世話になった人にお歳暮として新巻を贈るならわしも、サケが川に生まれ、海で育ちまた再び元の川にもどる習性から、恩に報いるという縁起にちなんで生まれたものです。
また、アラマキということばは、むかしサケを塩蔵する際に、ワラヅトにしたため、ワラマキが訛ったものだといわれ、古くは荒巻、あるいは苞苴という字を当てています。同じアラマキでも新巻のほうは、南部地方で秋、川を遡ってきたサケを薄塩にし、新ワラで編んだムシロで巻いて、形が崩れないように保存したことから生まれたことばだと聞きます。
鮭の簀の寒気をほぐす初日哉 左柳
鼻の曲がっているのは雄サケの特徴でなにも南部のサケに限ったものではなく、四年ぶりに川をさかのぼるころの雄サケは、沖合いで獲《と》れたものでも、あごの先端が下方に曲がり、下あごの先端は上方に鉤《かぎ》のように折れ曲がって、鼻曲がりといわれるようなドギツイ顔になっています。このことわざは必ずしも真相を伝えてはいず、南部の人たちにとっては、とんだ濡衣《ぬれぎぬ》というわけです。一説によれば、南部の鼻曲がりサケを江戸市中にひろめたのは、南部藩の御用船をつとめる前川善兵衛だと言われ、この男、商才に長《た》けていて、江戸へサケを売り込むキャッチ・フレーズとして「鼻曲がり」を意識的に使い、大いに|あてた《ヽヽヽ》ということです。
サケは北洋にすみ、種類としてはシロザケ・ベニザケ・カラフトマス・マスノスケ・サクラマスなどがあり、国内ではシロザケが主でカラフトマス・サクラマスなどがこれにつぎます。分布は利根川以北の太平洋岸から日本海岸では信濃川辺を南限として棲み、日本海岸で獲れるのは、おもにサクラマスです。北洋でわずかに獲れる巨大なマスノスケは一名、キング・サーモンと呼び、脂肪分も多く、味もサケの王様。
川でかえった稚魚は、四センチぐらいになると外海へ出て、北洋で成長し、四年ほど経つと再び生まれ故郷の川へ産卵のため、遡ってきます。これをサケの母川回帰性といいます。
産卵期は九月から翌年の一月ごろまでで、メスが河床の小石や砂利を掘って産卵すると、待ち構えていたようにオスは乳白色の精液をかけ、砂利で覆い隠し、種族保存の役目を果たし終えると、親ザケは力つきて死んでしまいます。
産卵場に向かうころのサケのからだには、脂肪分がたくさん含まれていますが、いったん川を遡りはじめると、餌をほとんど食べず、からだの脂は抜け、たんぱく質も少なく、水分が多くなり、産卵後のサケはまずくて食えません。一般に味のよいのは、川ザケより海ザケで、もっとも味のよいのは川にはいりたての、いくぶん脂が減ったころ合いのサケです。正月用の食品としておなじみの新巻ザケも、この時季に作られたものが最上品です。
日ごろ、お世話になった人にお歳暮として新巻を贈るならわしも、サケが川に生まれ、海で育ちまた再び元の川にもどる習性から、恩に報いるという縁起にちなんで生まれたものです。
また、アラマキということばは、むかしサケを塩蔵する際に、ワラヅトにしたため、ワラマキが訛ったものだといわれ、古くは荒巻、あるいは苞苴という字を当てています。同じアラマキでも新巻のほうは、南部地方で秋、川を遡ってきたサケを薄塩にし、新ワラで編んだムシロで巻いて、形が崩れないように保存したことから生まれたことばだと聞きます。
鮭の簀の寒気をほぐす初日哉 左柳