わさびはいつ、どこで採れた、どのくらいの大きさのものがいいというようなことを知っているのが、いかにも料理通のように思われていますが、どんなわさびおろしで、どのようにおろすのか、知っている人は、くろうとの料理人ですら存外少ないものです。
カン入り粉わさびの普及で、生わさびは家庭料理から縁遠くなったとは言え、鮮魚の洗いや刺身、じゅんさいのわさびじょうゆなどには欠かせぬ薬味です。
デパートの台所用品売場で扱っているおろし金をみると、辛味も香りも台なしにせずにはおかないような荒い目の粗悪なものばかりです。これではいかに値段の高いよいわさびでも、半分の効きめすら発揮できないでしょう。
専門の金物屋さんで、どっしりしたあか金の、目の細かなおろし金を求めましょう。
ふつう、生わさびをおろすとき、やや荒目のおろし金を使って、サッと手早くおろして、包丁の背でトントンとたたく方法と、目の細かなおろし金を使って、ねばりが十分出るようにわさびを回しながらおろす方法とがあります。前者はわさびの香りと辛味を出させ、後者はわさびの辛味と刺激を出させるところに|ねらい《ヽヽヽ》があります。
このことわざは、どちらかと言えば後者のおろし方のコツをいったものですが、いずれにしても、力いっぱいおろすことと、手早くおろすことだけは両者に共通しています。
わさびでも芥子でも、力を抜いてのろのろやっていては、特有の辛味は生み出せません。
ところで、そのおろし方ですが、まずおろし金を俎板の上に水平か、ややななめになるくらいに置き、しっかりと動かないように固定させて使います。わさびは茎の部分を切り落とし、落としたほうをおろし金に垂直にあてて、おろし金の目の先端を撫《な》でるような気持ちで、ウズを描くように同方向に回しながらおろします。
そのとき、おろし金に垂直に立てたわさびの軸が、前後左右にゆれ動かないように、わさびを持つ手には力をこめますが、わさびとおろし金の触れ合う部分は、いくぶん浮かせ気味にします。摺るのではなく、練るのだという呼吸は、この間の消息を言うので、こうしておろしますと、粘り気のある、粒子の細かなおろしわさびができ上がります。
わさびはおろしてもすぐ使えません。容器に入れて逆さまに俎板の上に置くか、ふたをしてそのままにして置きませんと、苦味の強い、舌に残るいやな味が出てきます。商売人はこれをサバリンと言っていますが、こうした手続きを経ることによって、深山《みやま》の渓流《けいりゆう》を思い起こさせるわさび特有の香気と、上品なうま味が出てきます。
わさびは根茎のままでは、さのみ辛くありませんが、以上のようにすると、シニグリンの分解によってできるアリルカラシ油によって辛味がでてきます。新鮮なわさびは風味のよいわりに、辛味が持続しないので、使う分だけおろしましょう。
カン入り粉わさびの普及で、生わさびは家庭料理から縁遠くなったとは言え、鮮魚の洗いや刺身、じゅんさいのわさびじょうゆなどには欠かせぬ薬味です。
デパートの台所用品売場で扱っているおろし金をみると、辛味も香りも台なしにせずにはおかないような荒い目の粗悪なものばかりです。これではいかに値段の高いよいわさびでも、半分の効きめすら発揮できないでしょう。
専門の金物屋さんで、どっしりしたあか金の、目の細かなおろし金を求めましょう。
ふつう、生わさびをおろすとき、やや荒目のおろし金を使って、サッと手早くおろして、包丁の背でトントンとたたく方法と、目の細かなおろし金を使って、ねばりが十分出るようにわさびを回しながらおろす方法とがあります。前者はわさびの香りと辛味を出させ、後者はわさびの辛味と刺激を出させるところに|ねらい《ヽヽヽ》があります。
このことわざは、どちらかと言えば後者のおろし方のコツをいったものですが、いずれにしても、力いっぱいおろすことと、手早くおろすことだけは両者に共通しています。
わさびでも芥子でも、力を抜いてのろのろやっていては、特有の辛味は生み出せません。
ところで、そのおろし方ですが、まずおろし金を俎板の上に水平か、ややななめになるくらいに置き、しっかりと動かないように固定させて使います。わさびは茎の部分を切り落とし、落としたほうをおろし金に垂直にあてて、おろし金の目の先端を撫《な》でるような気持ちで、ウズを描くように同方向に回しながらおろします。
そのとき、おろし金に垂直に立てたわさびの軸が、前後左右にゆれ動かないように、わさびを持つ手には力をこめますが、わさびとおろし金の触れ合う部分は、いくぶん浮かせ気味にします。摺るのではなく、練るのだという呼吸は、この間の消息を言うので、こうしておろしますと、粘り気のある、粒子の細かなおろしわさびができ上がります。
わさびはおろしてもすぐ使えません。容器に入れて逆さまに俎板の上に置くか、ふたをしてそのままにして置きませんと、苦味の強い、舌に残るいやな味が出てきます。商売人はこれをサバリンと言っていますが、こうした手続きを経ることによって、深山《みやま》の渓流《けいりゆう》を思い起こさせるわさび特有の香気と、上品なうま味が出てきます。
わさびは根茎のままでは、さのみ辛くありませんが、以上のようにすると、シニグリンの分解によってできるアリルカラシ油によって辛味がでてきます。新鮮なわさびは風味のよいわりに、辛味が持続しないので、使う分だけおろしましょう。