むかし、むかし、天の神さまから、世界じゅうの動物どもにおふれが出ました。
「こんど、動物の中から十二ひきえらんで、一年間ずつ、人間の世界を守らせることにした。さきについたものから、じゅんにきめていく。はいりたいものは、一月十二日に、わたしのところに集まれ。」
というのであります。これを知った動物どもは、(自分こそ一番に行って、順番の第一になるぞ。)と、いきおいこんで、その日のくるのを待っていました。ところが、ネコという動物は、へいぜいから忘《わす》れっぽかったとみえ、つい、その日が何日か忘れてしまいました。こまっていると、ちょうど道でネズミに出あいました。それで、これはさいわいと、
「ネズミさん、ネズミさん、あのおふれにあった、われわれが集まるという、あの日は、あれはいつだったかね。」
こうききました。するとネズミは、そのころけっしてネコと仲《なか》が悪かったわけではないのですが、自分こそ早く神さまのところへ行って、順番の一番になろうと思っているものですから、
「あれは一月十三日です。」
と、一日おそい日を教えてやりました。そして、
(まずこれでネコにだけは勝つことになったが、しかし、まだゆだんはならない。)
と、考え考え、自分のうちへ帰って行きました。ネズミの家というのは牛小屋の天じょううらにあったそうですが、帰ってみると、牛がもう出発の用意をしております。
「牛さん、牛さん、もうお出かけなんですか。」
と、きいてみますと、牛のいいますことは、
「いや、おれは足がのろいのでなあ、今夜のうちにたたんと、まにあわないのじゃ。」
これを聞くと、ネズミはまたずるいことを思いつきました。小さなからだですから、そっと、牛の荷物の中にしのびこんだのです。牛はそんなこととはすこしも知らず、夜どおし歩きつづけて、やっと神さまの御殿《ごてん》にやってきました。見ると、まだだれも来ておりません。(やれうれしや、これで一番になれた。)と、ほっと大息をついて、これから神さまの前へ出ようとしますと、そこへ、とつぜん荷物の中からネズミがとびだしました。そして、
「第一番はネズミでござる。」
と、名のりをあげました。牛がどんなにらくたんし、どんなに腹《はら》をたてたことでしょう。
しかし、それよりもまだ腹をたてたのは、ネコであります。ネズミに教えられた十三日、ネコは息せききって神さまのところへかけつけました。見ると動物は一ぴきも来ておりません。
(しめたっ、このおれさまが第一番。)
そう思って門の中へかけこもうといたしますと、
「これこれ。」
と、神さまの御殿の門番にとがめられました。そして、
「順番をおきめになる日は昨日だった。順番は、ネズミが一番、それから、牛、トラ、ウサギ、竜《たつ》、ヘビ、馬、ヒツジ、サル、ニワトリ、犬、イノシシの順にきまった。寝ぼけていないで、よく顔を洗いなさい。」
といわれました。そこではじめて、ネコはネズミにだまされたと知ったのです。そして、
「おのれ、にくいネズミのやつ、このうらみはらさないでおくものか。」
と、にわかにキバをみがき、つめをとぎはじめました。
ネコは、それ以来、ネズミさえみればとびかかって、これをつかまえるようになりました。また、つばをつけては、いつも顔を洗うのは、神さまの御殿の門番に、「ねぼけていないで、よく顔を洗いなさい。」と、いわれたからだそうでありますよ。