むかし、むかし、たいそう貧乏《びんぼう》なおじいさんとおばあさんとがありました。ところが、そのおとなりに、これはお金持のおじいさんとおばあさんとがおりました。
お正月が近くなりました。お金持のおじいさんおばあさんのうちでは、おもちをついたり、ごちそうをつくったり、にぎやかにお正月の用意をしておりました。しかし貧乏なおじいさんとおばあさんのほうでは、おもちどころではありません。
「となりのモチツキ、音は高くても、口にははいらん。」
そんなことをいって、ふたりはお正月のおかざりを町へ売りに出かけました。
「おかざりやあ——。おかざり——」
そうよんで歩いて行きました。やっとおかざりを売ってしまうと、海ばたの岩に腰《こし》をおろして、ふたりはやすんでおりました。すると、岩にくだける波の中から美しいお姫《ひめ》さまが出て来ました。それは海の底にある竜宮《りゆうぐう》の乙姫《おとひめ》だったのです。
「おじいさん、おばあさん、どうですか。竜宮へ来て見る気はありませんか。」
乙姫さまがいいました。おじいさんも、おばあさんも、びっくりしましたが、しかしこんなうれしいことはありません。
「どうぞ、おつれになってくださいませ。」
そういって、たのみました。
「それでは——」
といって、乙姫さまは手をたたきました。すると、もうそこに三びきの大きなカメが、波の上にういて来ました。乙姫と、おじいさんとおばあさんは、そのカメに乗りました。そして波をわけて、海の底の竜宮城へ行きました。
竜宮は、それこそ、見たこともなければ、聞いたこともないほどの美しい御殿《ごてん》で、おじいさんおばあさんは、歌を聞いたり、おどりを見たり、日にちをわすれてくらしました。毎日毎日おもしろおかしく、日がたちました。
それでも、ある日のこと、日本のことを思いだして、おじいさんがおばあさんにいいました。
「おばあさん、そろそろ、おいとまして、帰《かえ》らせていただこうか。」
それからふたりして、乙姫さまの前へ出ていいました。
「乙姫さま、いろいろありがとう存じました。それでは、日本へ帰らせていただきます。」
すると、乙姫さまがいいました。
「名ごり惜《お》しいが、お帰りならば、おみやげにカメを一ぴきさしあげます。小さいけれど、金《きん》をうむカメですよ。」
おじいさんおばあさんは、かわいらしいそのカメをもらって、大よろこびで、日本へ帰ってきました。そして教えられたとおりに、戸だなの奥《おく》へ入れて、毎日アズキ五合《ごう》で飼《か》っておきました。するとカメは、戸だなの中へ毎晩《まいばん》、チリン、チリンと音をさせて、いくつもいくつもお金《かね》のようにまるい金《きん》をうむのでありました。おじいさんもおばあさんも、チリンチリンというその音を聞いていると、とてもうれしくなり、
「もう三枚《まい》うんだ。いや、四枚めだ。」
そんなことをいったりしました。
ところが、これを聞いたのが、となりのお金持のおじいさんと、おばあさんです。
「あんたのところには、金をうむカメがいるそうだね。一晩、うちに貸してくれないか。」
そういってたのみました。貧乏なほうのおじいさんとおばあさんは、
「乙姫さまからいただいた、これはうちのだいじなカメで——」
そういって、ことわりました。しかし金持のおじいさんおばあさんは、むりやりカメを借りて、自分の家に帰って行きました。そして戸だなの奥に入れ、アズキを一升も食べさせました。たくさんやれば、たくさん金をうむと考えたからであります。ところが、あくる朝、戸だなをあけて見ると、金は一つもうんでおらず、フンばかり、ドッサリおとしておりました。金持のおじいさんはハラを立てて、
「このクソガメッ。」
そういって、カメを石の上に投げつけました。貧乏なほうのおじいさんは、これを聞いて、ビックリして、とんで行きました。
しかしカメは、かわいそうなことに、もう死んでしまっておりました。そこで、おじいさんはカメを持って来て、おばあさんといっしょに、自分の家の庭にうずめてやりました。すると、まもなく、そこから一本のミカンの木がはえて来ました。木は見るまに大きくなり、花がいっぱいさきました。花はすぐもう鈴《すず》なりの実になりました。
「これはこれは、なんと美しいミカンだろう。」
そういって、おじいさんとおばあさんが、その実をとって、皮をむいて見ましたら、中はピカピカ、金のミカンだったのです。ふたりは大喜びして、何百というそのミカンをとり、皮をむいて見ると、みんな金のミカンでした。それでこの貧乏だったおじいさんおばあさんも、たいへんな大金持になりました。めでたし、めでたし。