むかし、むかし、奥州《おうしゆう》のいなかに、おじいさんとおばあさんとが住んでおりました。おばあさんは、ちゃんと目が二つありましたが、おじいさんのほうは片目でした。左の片目がつぶれていました。
さて、ある晩のこと、おそくなって、おじいさんが外から帰《かえ》ってきました。
「おばあさん、おばあさん、今、帰ったよ。」
そういって、帰ってきました。
「お帰んなさい。こんなにおそくなって、さぞ、おつかれでございましょう。」
おばあさんが、そんなことをいって、出むかえましたが、そのとき、ふとおじいさんの顔を見ると、おばあさんはびっくりしました。右の目だけのおじいさんが、左目だけになっているのです。
(ははあ、これはキツネだ。キツネの化けたおじいさんだな。)
おばあさんは、すぐさまそう考えました。それで、そのキツネのおじいさんにいいました。
「おじいさん、あなたはまた、お酒によってきましたね。よってくると、いつものくせで、俵へはいろうというのでしたね。」
すると、キツネのおじいさんは、
「何をまたいうんだい。」
といって、そばにあった俵の中へ、ひとりではいりこんでしまいました。
それで、おばあさんがいいました。
「俵へはいると、上からなわをかけろというのでしたね。」
俵の中のキツネのおじいさんは、
「何をまた——」
といって、おとなしく、おばあさんになわをかけられました。
「なわをかけると、いつものくせで、火だなへあげて、いぶせいぶせというのでしたね。」
と、おばあさんがききました。キツネのおじいさんは、
「何をまた——」
と、あいかわらずいっていました。そして、いろりのたなの上の火だなへ、やはり、おとなしくほうりあげられ、下でおばあさんにどんどん火をたかれました。けれども、俵に入れられ、上からなわをかけられているものですから、どうすることもできません。おばあさんは、そこで、わざわざさかななどを焼いていいにおいをさせ、ひとりで、ごはんをおいしそうに食べました。そうしているうちに、右の目のほんもののおじいさんが帰ってきました。それで、火だなの上の左の目のキツネのおじいさんは、とうとうキツネ汁《じる》にされてしまいました。