ミソサザイという小鳥は、たいへんな苦情屋《くじようや》で、いつも、舌《した》うちばかりしています。なにがそんなに気に入らないのでしょう! 鳥の王さまになれなかったからだそうです。むかし、鳥の王のワシと競争《きようそう》したことがあったのです。あるとき、
「村にいる、イノシシをとってみろ。」
ワシにいわれて、そのとき、やぶの中で昼寝をしているイノシシの耳の中に、ミソサザイは、飛びこみました。そして、耳の中をつつきました。
イノシシは、耳のいたさに、めくらめっぽうかけめぐり、岩に頭を打ちつけて、とうとう、死んでしまいました。
つぎには、ワシの番になりました。
「むこうにいる、シカをとってこい。」
ミソサザイにいわれて、木の下に寝ている二ひきのシカにとびかかり、ワシは、いちどに、両方の背中《せなか》をつかんで、飛びたとうとしました。
シカは、おどろき、右と左に逃《に》げだしました。それで、ワシは、つめをはがれて、いたい、いたいと泣《な》きました。
「どんなもんだい。いよいよ、ぼくが王さまだ。」
ミソサザイは、いいました。けれども、どうしたことでしょう。あんまり小さなミソサザイを、王さまといってくれるものは、ただの一羽《わ》もなかったのです。ワシに勝っても、ミソサザイは、王さまになれなかったのです。
それから、ミソサザイは、大へんな苦情屋になりました。そして、いつも、チッチ、チッチと、舌打ちばかりしているようになりました。