むかし、一ぴきのカメが、小さな池のなかにすんでおりました。夏が来て、水が、だんだんなくなってきました。
カメは、心配して、どうなるかと、毎日毎日、空をあおいで、雨のふるのを待っていました。
しかし、いつまでたっても雨はふりません。
そこで、ある日のこと、池のほとりへ飛んできたツルに、相談《そうだん》してみました。
「ツルさん、ツルさん。これは、いったい、どうしたことかね。こんなに水がなくなっては、おれは、生きていくことができなくなるんじゃないかと、毎日、心配でならない。」
すると、ツルのいうことに、
「そうだな。この池は小さいから、ちょっと雨がふらないと、すぐもう、こんなに水がひからびて、底《そこ》がかわいてしまう。もっと大きな池へひっこすんだな。」
「しかし、ツルさん。そういう大きな池が、どっか、この近くにでもあるのかね。」
「そりゃあるさ。むこうの山をこえていくと、大きな大きな、この池の五倍も十倍もある池があって、そこには、きみたちの仲間が、十ぴきも二十ぴきも、ういたりしずんだり、池を泳ぎまわって、ゆかいそうに遊んでいるよ。まったく、そりゃあ、いいところだぞ。」
「行きたいな、そういうところへ、おれは行きたい。しかし、なにぶん、こんなに短い足で、あの山をこえて行くとなると、十日や二十日じゃ、行けそうにもない。それに、もし、とちゅうで、いたずらっ子などに会ったひにゃ、まるでひどいめにあうからね。そのうえ、おれには、その池がどのへんにあるのか、けんとうもつかないときている。」
「なあに、心配ないさ。きみが、ほんとに行く気があるなら、おれたちで、あの山をこえて、運んでやる。」
カメは、たいそう喜びました。
「そうか、ツルさん、そうしてくれるか。それでは、たのむ。ぜひ、その大池へ運んでくれ。」
すると、ツルは、空へ向かって、
クワァー クワァー
と、鳴きました。ツルの仲間をよんだのです。やがて、向こうの山をこえて、一羽《わ》のツルが飛んできました。
これを見ると、ツルは、そのへんにあった棒《ぼう》をくわえてきて、カメの前におきました。
「さあ、カメくん。この棒のまんなかをくわえて、しっかりと、ぶらさがるんだよ。ぼくたちが、棒の両はしをくわえて、その大池へつれてってやる。さあ、いいかい。」
カメが、棒にくわえついたのを見ると、ツルは、両はしをくわえて、バタバタバタッと、飛びたって、空へ舞《ま》いあがりました。
そうして、向こうの山をさして、飛んでいきました。
ところが、そのとちゅう、ある村の上を飛んでいるときのことです。村の子どもたちが、二羽のツルが、棒にぶらさがったカメを運んでいるのを見て、
「やあーい、カメが、あんなことをしてやがらあ。」
と、カメをゆびさし、大声をあげて、カメのかっこうを笑いました。
これを聞くと、カメは、腹《はら》をたてて、
「小僧、だまれ。」
と、やりかえしました。
しかし、そういったとたんに、口があいて、からだが棒からはなれてしまいました。ストーンと、大地におっこちて、いやというほど背中《せなか》を打ちつけました。
カメの背中のこうらに、模様《もよう》がはいっているのは、そのときできたひびだということです。