むかし、むかし、安房《あ わ》の国(千葉県南部)に、神さまがいらっしゃいました。
その神さまは、世界じゅうの生きもののせわをなさるかたでしたが、そのころ、生きものは、まだ作られたばかりで、どれになにを食べさせるか、きまっていませんでした。
それで、生きものたちは、なんにも食べることができなくて、おなかがぺこぺこ、たいへん困《こま》っておりました。神さまのところへ行っては、
「どうか、早く、食べ物をおきめください。おねがいいたします、おねがいいたします。」
牛や馬や、ネズミやタヌキ、キツネ、オオカミ、こういうものから、鳥や、さかなや、虫にいたるまで、みんな、神さまへおねがいに行っておりました。
すると、神さまが、
「あすの朝、食べ物をきめてやるから、みんなで集まれ。」
と、そう、おっしゃいました。
生きものたちは、大へん喜んで、夜のあけるのを待ちかねて、ぞろぞろ、ぞろぞろ、神さまのところへ集まってきました。
その中に、一ぴきのヘビがおりました。ヘビは、あんまりおなかがすいていたので、できるだけのろのろと、土をはっていっておりました。すると、カワズが、あとから、ピョン、ピョンと、とんできて、ヘビに追《お》いついていいました。
「ヘビくん、きみは、どうして、そんなに、のろのろ歩いているのかね。もっと、げんきよく歩けないか。」
すると、ヘビのいうことに、
「いや、おれは、おなかがすいていて、とても、早くも、おそくも、歩くどころじゃないんだ。やっと、こうして、土の上を、あかんぼうのように、はいはいしていってるんだ。きみは、げんきなんだから、どんどん、先へ行ってくれ。」
これを聞くと、カワズは、ゲラゲラとわらいたてて、
「よろしい。それなら、あとからやってきて、おれの尻《しり》でもおなめなさい。」
そういって、先へ、ピョン、ピョン、行ってしまいました。
さて、生きものたちが、みんな、神さまの前に集まると、神さまは、じゅんじゅんによびだして、
「牛に馬か。おまえたちは、草を食べなさい。犬とネコは、人間にやしなってもらうんだな。モグラモチ、おまえは、土の中をさがし、虫をとって食べて、暮らせ。」
そんな調子で、つぎつぎにきめましたが、いちばんおしまいに、カワズが出てきました。神さまは、
「おまえも、虫をくって生きていきなさい。」
カワズは、喜んで、神さまに、ぺこぺこ頭をさげ、
「ありがとうございます。」
と、とんで行こうとしますと、神さまがよびとめました。
「待て待て。おまえは、ここへ来るとちゅうで、ヘビをからかったな。そして、尻でもなめろ、といったようだな。だから、ヘビには、おまえの尻をなめさせることにするから、そのつもりでおれ。」
こう、神さまは、いいわたされました。カワズは、びっくりして、
「神さま、どうぞ、それだけは、ごかんべんください。」
と、あやまりましたが、神さまが、いったんおきめになったことは、もう、変えることはできません。
それで、いまでも、ヘビは、カワズを見つけると、すぐ、お尻のほうから、パクッと、のんでしまうということです。