むかし、むかし、あるところに、五人の兄弟《きようだい》が住んでいました。おとうさんも、おかあさんも、なかったのです。おじさん、おばさんも、なかったのです。それで、たがいに仲よくして、みんな、助けあって暮らしていました。にいさんが、林へ鳥をとりにいけば、弟が、沼《ぬま》へ魚をとりにくだりました。春になると、みんなで、たんぼに稲《いね》を植え、秋には、それを刈《か》りました。
ところで、その春のことです。みんなで、たんぼへ出て、田植《たうえ》をやっておりますと、すえの弟が、たんぼのそばに、日やけた道の上にころがっている、二つの小さなタニシを、見つけました。かわいいタニシだったので、弟は、それを家へ持って帰り、台所のながしのすみにおきました。そこは、いつも水にぬれていて、タニシにすみよいところと思われました。それで、
「タニシ、タニシ、ここにおいで。外にはいでて、サギやカラスに、とられるな。」
そう、ちいさい声で、いっておきました。あくる日、たんぼに行くときも、同じことをいいました。その晩のことでありました。その弟は、みんなよりすこし早く家に帰って、ごはんの用意にとりかかりました。ところが、ふしぎなことに、ちゃんと、ごはんの用意ができていました。お茶わんがならんで、おいしいお菜《さい》も、なべに、湯気《ゆげ》をたてていました。そのへんには、ほかに、家一軒《いつけん》あるでなく、人も住んでいなかったのに、まったく、ふしぎなことでありました。しかし、そのあくる日、その日も、弟は、ごはんの用意に、早く帰ってきてみますと、あらもう、ごはんの用意ができております。おぜんの上に、五つの魚が、おさらにのせて、ならべてあったのです。そのあくる日——、やはり同じで、ごはんが、ホクホク、おいしく煮《に》えておりました。
あまりのふしぎさに、そのあくる日、弟は、いつもよりずっと早く、もう、お昼すぎには帰ってきました。そして、家の近くの木に登り、そこから、家の中をながめていましたが、晩《ばん》が近く、日がかたむきかけたとき、台所のながしのほうから、話し声が聞こえてきました。
「ねえさん、ねえさん、そろそろ、ごはんのしたくをしましょう。」
「そうだ、そうだ。ここは、すみよいところなので、つい、うっかりと、寝すごした。」
そういったかと思うと、もう、台所には、美しい娘《むすめ》がふたり、立っていて、お米をといだり、菜《な》っぱを切ったり、忙しく働きはじめていました。そして、おかまが、ブツブツ湯気をふきだすと、美しい声で、歌などうたいだしました。この歌が、あまりきれいな声なので、弟は、つい、それに聞きいって、ごはんの用意がすんでしまうまで、木の上に腰《こし》をかけたままでおりました。歌がすんだとき、弟は、やっと気がつき、大急ぎで、木から飛びおり、
「もしもし、娘さん、娘さん。」
そうよびながら、台所へはいっていきますと、もう、そこには、娘のかげも形もなく、おぜんに、五つの茶わんがならび、ごはんやお菜の、おいしいにおいがしていました。どうも、ふしぎなことであります。
あくる日、こんどは、五人の兄弟が、みんなで、早く帰ってきて、木に登って見ていることに、相談《そうだん》しました。
「おねえさん、おねえさん、ごはんの用意をしましょうか。」
晩《ばん》が近くなると、前の日のような話し声がしてきました。そして、同じように、美しい娘がふたり、台所で働きはじめました。
これを見ると、五人の兄弟は、そろりそろりと、木からおりて、おかってと玄関口《げんかんぐち》の両方から、台所にはいっていきました。
娘たちが、かくれるまもなく、五人は、ふたりをかこんでしまいました。それから、
「あなたたちは、どこのどなたで、どうして、台所をしてくれますか。」
こう、聞きました。
すると、娘が、いいました。
「わたしたちは、じつは、山の向こうの村にいた姉と妹なのですが、おとうさんや、おかあさんに、わがままで、そのいいつけを、聞きませんでした。それで、ある日、タニシの殻《から》に入れられて、道の草のなかに捨《す》てられました。それを、また、一羽《わ》のワシが、口にくわえて、こんなところに持ってきました。どうなることかと心配していると、ここの親切な人に、拾われました。その親切のうれしさに、こうして、毎日、ごはんの用意をしていました。」
これを聞いて、みんなは、この姉妹《しまい》を、大へんかわいそうに思い、それからは、ふたりを、みんなの姉や妹として、いっしょに、ますます仲よく、暮らしていきました。