むかし、山家《やまが》に、ひとりのおばあさんが住んでいました。
夜もふけたある晩《ばん》のこと、いつものとおり、ひとりで、ブーン、ブーン、ブーンと、糸車《いとぐるま》をまわして、糸をつむいでいました。
すると、どこからか、ひとりの小男がやってきました。小さな、四角ばった男で、きちんと、はかまをはいております。
「こんばんは、おばあさん、さびしいだろう。わしが、ひとつ、おどってみせましょう。」
そういって、すぐもう、おばあさんの前で、おどりだしました。
ちいちいはかまに
木脇差《わきざし》を差《さ》いて
こればあさん ねんねんや
この歌を、とてもおもしろくうたい、チョコチョコと、何度も、おどってみせました。そのうちに、ふっと、どこかへきえて、いなくなりました。いくらそのへんを見まわしても、どこにもおりません。おばあさんは、おかしいやら、きみが悪いやら、とうとう、その夜は、ねむれませんでした。
あくる日、夜があけてから、あっちこっちと、家の中をさがしてみましたが、なんの変わりもありません。しかし、縁《えん》の下の方をさがすと、小さなふるいようじが一本、出てきました。今ごろの歯ブラシのことです。むかしは、かねといって、黒い染料《せんりよう》で、歯をそめる習慣《しゆうかん》がありました。ようじは、そのかねをつける道具《どうぐ》だったのです。それが、いかにも、こましゃくれていて、ゆうべ出てきた小男に似《に》ていました。おばあさんは、
——もしかしたら、このようじが、化《ば》けてでたのかもしれない。
と思って、さっそく、それを、いろりにくべて焼《や》き捨《す》てました。すると、その晩は、なんのふしぎもおこりませんでした。待っても待っても、小男は、出なかったのです。
むかしから、かねつけようじのふるくなったものは、焼き捨てるもの、と、つたえられております。きっと、そのせいだったのでしょう。