むかし、あるところに、孝行《こうこう》むすこがおりました。孝助《こうすけ》というのです。ところが、欲《よく》ばりのおじさんがいて、名を権造《ごんぞう》といいました。
さて、その孝行むすこの孝助のおかあさんが、病気になり、どうしても、お金のいることができました。それで、孝助は、おじさんのところへ、無心《むしん》をいって、お金を借《か》りに行きました。
ところが、そのお金がかえせないうちに、また、お金がいるようになりました。そこで、また、おじさんのところへ行って、
「おじさん、おじさん、おかあさんの病気が、また悪いので、どうか、また、すこし、お金を貸《か》してください。」
そういって、たのみました。すると、おじさんは、
「おまえのように、お金を借りるばかりで、かえさんやつには、貸すことはならん。どうしても、貸すわけにはいかん。」
といって、ことわりました。むすこは、困《こま》りましたが、どうすることもできません。
帰るとちゅう、お宮のところで、どうしたものかと、考えているうちに、つい、うとうとと、寝《ね》てしまいました。
すると、夢《ゆめ》の中で、ひとりの老人が、やってきました。まるで、お宮の神主《かんぬし》さんのようなようすをしております。
「もしもし、おまえさんは、なんで、そんなに困ってるんだ。」
その老人が、いいました。
むすこが、こうこう、こういうわけで、と、わけをはなして、
「お金がなくて、困っております。」
そう、いいました。
すると、老人は、一本歯《いつぽんば》のげたを出して、むすこにいいました。
「このげたをはきなさい。しかし、歩きにくいから、すぐ、ころぶ。ころぶと、ふしぎに、小判が一枚出てくる。しかし、あんまりゴロゴロころんでいると、おまえのせいが、そのたびごとに、低くなる。いいか、入用《にゆうよう》な以上にころんで、小判を出すでないぞ。」
そういったところで、むすこは、夢からさめました。見ると、そばに、ちゃんと、一本歯のげたがおいてありました。
——老人のいったことは、ほんとうなのだろうか。ひとつ、ころんでみてやろう。
と、そのげたをはいて、歩きかけますと、コロンと、ころびました。すると、チャリンと音がして、一枚の小判が、土の上にころがっていました。むすこは、大喜びで、その金を持って家へ帰り、おかあさんのおくすりを買《か》ったり、滋養《じよう》になる魚《さかな》を買ったり、お米を買ったりいたしました。
ところが、何日かたつと、おじさんがやってきました。
むすこは、おじさんに、お礼をいって、借りていたお金をかえし、ついでに、例の、一本歯のげたの話をしました。
これを聞いたおじさんは、
「今まで、おまえに貸してあったこのお金は、かんべんしてやるから、かわりに、その一本歯のげたをよこせ。」
と、いいだしました。むすこは、
「そのげたばかりは、ごようしゃください。」
といって、ことわりましたが、権造おじさんは、聞きません。むりやりに、げたをとりあげて、どんどん、逃げていきました。
おじさんは、家に帰ると、門の戸をしめきって、庭に大ぶろしきをしいて、その上で、げたをはいて、コロコロ、コロコロ、ころびました。見るまに、小判が、チャリン、チャリン、チャリ、チャリ、チャリと、出てきました。しかし、ふしぎなことに、おじさんのからだが、だんだん、だんだん、小さくなりました。
それでも、おじさんは、小判さえ出ればいいのですから、そういうことは気にもかけず、コロコロ、コロコロ、チャリチャリ、チャリチャリ、おきてはころび、おきてはころび、げたをはいて、何十ぺん、何百ぺんと、ころんでいました。
ところが、そのとき、孝行むすこの孝助は、おじさんが、どうしているだろうかと、おじさんの家をたずねて、やってきました。戸がしまっているので、そのすきまから、中を見ますと、小判が、山のようにつまれております。それなのに、おじさんの姿《すがた》が見えません。そこで、むりに戸をこじあけ、中にはいって、あっちこっちと、さがしてみました。すると、庭のすみの方に、小さな虫のようなものが、おきてはころび、おきてはころびしておりました。それが、おじさんだったのです。
いまでも、権造虫というのは、この欲ばりおじさんが、なったものだということです。
その山のような小判と、それから、一本歯のげたとは、とうとう、孝行むすこのものになったということです。
欲ばりをしてはいけません、というお話です。