まみちがねは、その美しい着物を着、りっぱな馬に乗って、南の方をさして、村を出ていきました。どんどん行きますと、ながさ千里、幅一里の、大きな川に出ました。上《かみ》にも行けず、下《しも》にも行けず、しばらく、どうしようかと、思案《しあん》しているようでしたが、やがて、まみちがねが、
「まみちがねの馬の、飛びかたを見よ。」
と、大声にいって、馬にひとむちあてますと、馬は、みごとに、一里の幅の川を、飛びこしてしまいました。
それから、また、どんどん行きますと、白雲におおわれた、大きなイバラの山に、出会いました。右へも行けず、左にも行けず、そこで、また、まみちがねは、
「なんのこれしきの山、まみちがねの馬の、飛びかたを見よ。」
と、ひとむち、馬にくれると、馬は、高くいななきました。二むちくれると、馬は、みごとに、山も、飛びこしました。
それから、また、どんどん行きますと、長い鬚をはやしたおじいさんが、アワ畑の草とりをしているところへ来ました。まみちがねが、たずねました。
「おじいさん、おじいさん、この村に、人をやとってくれるところは、ないだろうか。」
おじいさんが、いいました。
「西の村はずれの家に、三十五人のやといのうち、ひとり死んで、きょうは、七日目になる。その家で、ひとり、いるはずだが、あんたのような、そんな身なりをしている人は、やとうとはいわないだろう。」
「では、おじいさん、あなたの着ているそのしごと着と、わたくしのこの着物と、とっかえてはくれませんか。」
「そんなりっぱな着物ととっかえて、自分が、それを着たら、ばちがあたる。しごと着は、あんたにあげましょう。」
「そういわずに、おじいさん、どうか、とりかえてください。それができないなら、おじいさんの家の箱《はこ》を、一つ、貸《か》してください。わたくしの衣装《いしよう》を、その中にしまっておきます。」
「はい、はい。おやすいご用です。」
おじいさんは、こころよく、箱を貸してくれました。
そこで、まみちがねは、おじいさんのしごと着を着て、これまで着ていた着物と、馬のくらとを、箱の中にしまいました。馬は、近くの、まわり一里もある竹山に、はなし飼《が》いにいたしました。そして、おじいさんにつれられて、西の村はずれの長者《ちようじや》の家に行きました。
「どうか、わたくしを、やとってください。」
そういって、たのみますと、すぐに、やとってくれましたので、まみちがねは、そこで働くことになりました。