まみちがねは、一日のひまをもらって、親をたずねて行くことになりました。そのとき、娘が、
「あなたは、海ぞいの道を行かれますか、それとも、山ぞいの道にされますか。海ぞいの道は、三日、山ぞいの道は、一日かかります。しかし、山道を行くと、馬のくらの前に、クワの実が落ちてきます。いくらのどがかわいても、それを食べてはなりません。それを、あなたが食べると、ふたりは、もう、会うことができなくなります。」
そう、申しました。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」
まみちがねは、そういって、山道を通っていきました。
すると、娘がいったように、馬のまえくらに、クワの実が落ちてきました。あれほど、食べるな、と、いわれたのですから、はじめのあいだは、がまんしておりましたが、だんだん、のどがかわいてきて、もう、どうにも、しんぼうできなくなりました。そして、つい、ひとつぶ、食べてしまいました。
すると、すぐに、まみちがねは、息たえてしまって、馬の首に、からだをふせてしまいました。馬は、死んだまみちがねを乗せたまま、坂を登るときは、まえ足を折り、坂をくだるときは、あと足を折り、まみちがねを、背中《せなか》からおとさないよう気をつけながら、とうとう、まみちがねの生まれた家の門の前まで、たどりついて、ヒヒン、ヒヒン、ヒヒンと、三度、いななきました。
まみちがねのおとうさんは、それを聞いて、おかあさんに、
「あれは、いつか、まみちがねにやった馬の鳴き声だが、おとうさんとよぶ声もしないし、ただ、馬に、三度、鳴かせるとは、へんだな。おまえ、行って、見てきなさい。」
と、いいました。
おかあさんが、門をあけにいきますと、馬があばれて、おかあさんを、ひとかみにかみころしてしまいました。つづいて、おとうさんが、行ってみますと、馬は、しずまりましたが、馬上のまみちがねは、死んでおります。
「生きて帰らず、死んで帰るとは、どうしたことだ。」
と、なげきながら、おとうさんは、まみちがねを、馬からおろして、酒だるの中に入れて、ふたをしました。