さて、長者の方では、一日のひまをやったのに、三日たっても、まみちがねが、帰ってきませんので、どうしたことかと、心配しておりました。
しかし、娘は、
——きっと、まみちがねは、クワの実を食べたにちがいない。
と思って、しじゅる水《すい》という、死んだ者を生かす水をいれたかめを用意して、まみちがねをさがしに出かけました。
山道を通って、まみちがねが、一日かかったのを、半日で、まみちがねのおとうさんの家の門前に、つきました。門をたたいて、
「まみちがねの家は、ここでしょうか。」
と、聞きますと、おとうさんが出てきて、
「そうです。」
と、こたえました。
「まみちがねのからだを、見せてください。」
そう、娘がたのみますと、
「知らない人に、わが子のからだを、見せてやることはできません。」
「知らない人ではありません。まみちがねは、わたくしの夫《おつと》です。結婚《けつこん》して四日目に、まみちがねは、馬に乗って出かけました。そのまま、三日たつのに、帰ってきません。ぜひ、まみちがねに、会わしてください。」
「そりゃあ、わしが、悪かった。早く見てください。」
おとうさんは、そういって、酒だるから、まみちがねの死がいを出して、見せました。みると、まるで、昼寝《ひるね》でもしているようなようすです。
娘は、さっそく、死がいに水をあびせ、それから、しじゅる水《すい》で、まみちがねのからだじゅうを、ふいてやりました。
すると、まみちがねは、ぱっと、目をひらいて、
「朝寝をしていたのかな、昼寝をしていたのかな。」
と、つぶやきました。
娘が、
「あなたは、朝寝をしていたのではありません。昼寝をしていたのでもありません。食べてはならぬクワの実を食べて、死んでいたのです。わたしが、しじゅる水で、からだをふいて、いま、生きかえらしたところです。さあ、家に帰りましょう。」
そう、いいました。
すると、そばにいたおとうさんは、
「これは、わしのひとりむすこです。よそにやることはできません。」
と、いいました。
「それなら、おとうさんも、わたしの家にいらっしゃい。」
娘が、そういうのを聞いて、まみちがねが、おとうさんに顔をむけて、申しました。
「わたくしは、ふたりの父を、やしなうことはできません。おとうさん、お金はおくりますから、どうか、よい養子をむかえて、家をたててください。わたくしは、命をすくってくれた妻の家で、働きます。」
やがて、ふたりは、父親にわかれをつげ、長者の家に帰っていきました。それから、すえながく、よい暮らしをしていたということであります。
めでたし、めでたし。