お爺さんの|くに《ヽヽ》は何日《いくか》も汽車に乗って行く、遠い遠い野原のかなたの方にありました。もっとも昔は野原であった|くに《ヽヽ》の村も、今では大へんにぎやかな町になっていると聞いておりました。
しかし、いよいよ楽しみにして来た|くに《ヽヽ》の町へついてみますと、もうどこもかしこも変ってしまって、お爺さんの家どころか、村のあったところさえ分りません。そこら一面が大きな大きな工場と、たくさんの人や自動車が、道を横ぎる暇もないほど往来している大きな町になってしまっていました。
それでも、せっかく来たのだからと、お爺さんは町の役場に行って、昔の家をさがしてもらいました。ところがどうでしょう。あの樫の樹のあった家のところには大きな大きな紡績の工場が出来ていました。それは何千人というたくさんの職工のいる会社で、コンクリート造りの工場は何町四方ともいうような大きなものでした。
その中ではガチャガチャと話し声も聞えないほど、たくさんの機械の音がしておりました。
それに空にそびえて、突き立っている大煙突からは黒雲のような恐ろしい煙が吐き出されておりました。このとき、
「お爺さん——。」
と、正太が心細そうな顔をしました。すると、お爺さんは、
「いいや、これはところがちがってるんだ、どこかに、きっとあの樫の樹はあるにちがいないんだ。」
と、言いました。けれども、とうとう分らなくて、二人はまた自分の家に帰って来ました。
それから幾年か後のこと、正太は樫の樹の下を掘っておりました。正太もそこへ色々のものを埋めて置こうというのであります。が、正太がお爺さんになる頃には、この正太の家もどんなところと変っていることでありましょう。何分お爺さんの小さい頃は紡績さえもなかったのですが、正太がお爺さんになる頃には、飛行機の工場でも出来るでしょうか。けれども、そんなこともなくて、正太がその埋めたものを、また掘り出して、
「何だ、こんなもので遊んでいたのか。」と、自分の小さい頃を面白がって思い出すことが出来るようでしたら、正太もどんなに幸福なことでありましょう。
けれども、世の中というものは変りやすいものですから、ほんとうにどうなるか、それは分ったものではありません。
しかし、いよいよ楽しみにして来た|くに《ヽヽ》の町へついてみますと、もうどこもかしこも変ってしまって、お爺さんの家どころか、村のあったところさえ分りません。そこら一面が大きな大きな工場と、たくさんの人や自動車が、道を横ぎる暇もないほど往来している大きな町になってしまっていました。
それでも、せっかく来たのだからと、お爺さんは町の役場に行って、昔の家をさがしてもらいました。ところがどうでしょう。あの樫の樹のあった家のところには大きな大きな紡績の工場が出来ていました。それは何千人というたくさんの職工のいる会社で、コンクリート造りの工場は何町四方ともいうような大きなものでした。
その中ではガチャガチャと話し声も聞えないほど、たくさんの機械の音がしておりました。
それに空にそびえて、突き立っている大煙突からは黒雲のような恐ろしい煙が吐き出されておりました。このとき、
「お爺さん——。」
と、正太が心細そうな顔をしました。すると、お爺さんは、
「いいや、これはところがちがってるんだ、どこかに、きっとあの樫の樹はあるにちがいないんだ。」
と、言いました。けれども、とうとう分らなくて、二人はまた自分の家に帰って来ました。
それから幾年か後のこと、正太は樫の樹の下を掘っておりました。正太もそこへ色々のものを埋めて置こうというのであります。が、正太がお爺さんになる頃には、この正太の家もどんなところと変っていることでありましょう。何分お爺さんの小さい頃は紡績さえもなかったのですが、正太がお爺さんになる頃には、飛行機の工場でも出来るでしょうか。けれども、そんなこともなくて、正太がその埋めたものを、また掘り出して、
「何だ、こんなもので遊んでいたのか。」と、自分の小さい頃を面白がって思い出すことが出来るようでしたら、正太もどんなに幸福なことでありましょう。
けれども、世の中というものは変りやすいものですから、ほんとうにどうなるか、それは分ったものではありません。