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日本むかしばなし集176

时间: 2020-01-30    进入日语论坛
核心提示:    三 その夜、善太は笛を握って、蒲団《ふとん》にもぐった。蒲団を頭から冠《かぶ》っていると、深夜のような心持がして
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    三

 その夜、善太は笛を握って、蒲団《ふとん》にもぐった。蒲団を頭から冠《かぶ》っていると、深夜のような心持がして、いつか聞かして貰った探偵小説そっくりの光景が感じられた——夜が更けていた。と、何処からともなく笛の音が起って来た——この笛の音を心の中に描くのであった。そして蒲団の中で笛を口にあて、ソロソロと吹いてみるのであった。ヒューヒューと心細い音がした。それでも誰か聞いてはいないかと、蒲団から首を出して、四辺《あたり》を見廻したが、誰も注意してないのを知ると、また首を引っこめ、ヒューヒューとやってみる。こうして楽しんでる内、いつの間にか眠ってしまった。
それから何時間たったか知らない。彼は床の上に跳ね起きた。キョロキョロ周囲を見廻した。じっと物音を聞きすました。首傾けて考えてみた。今、激しい笛の音がしたんだ。それも枕もとでしたようなんだが——でも、誰も寝しずまっているのを見ると、善太はまた蒲団にもぐり、笛を手にして眼をつぶった。眼をつぶったままヒューヒュー小さい音をさせ、それからまた眠ってしまった。
また何時間たったか解らない。善太は床の上に跳ね起きた。こん度は、
「誰だ。」
というお父さんの声を聞いた。
「善太かっ。」
「ウン?」
「今、笛吹いたろう。」
「ウン?」
「笛吹いたのはお前だろう。」
どうも吹いたようにも、吹かないようにも思えるのだが、
「笛鳴った?」
「ビックリするじゃあないか、早くねろよ。」
次に眼がさめた時には、善太は床の上に立っていた。部屋には電燈が明々とついていた。家中のものが起きているのだ。みな床の上に座って、善太の方を見ている。前にはお父さんが立って、善太の手から笛をとろうとしているのだ。どうしたことか、善太は泣いている。
「馬鹿めが、何度ビックリさしやがるんだ。」
お父さんは怒っている。
「ほんとに恐かった。私、何事が起ったのかと思った。まだ胸がドキドキしてるわ。」
お母さんだ。
「そうだ。眠りかけりゃピリピリと来るんだ。何度飛び起きたか。」
しかし善太はおとなしく笛をお父さんに渡し、直ぐ床の上に横になった。お父さんお母さんの恐かったという話を聞き聞き直ぐまた眠ってしまった。
朝、飯台の周囲は昨夜の笛の話で賑《にぎ》やかだ。
「ほんとに夜中の笛の音って、とても気味の悪いもんね。」
これはお母さん。そしてとうとう笛は取り上げられ、どこか、タンスの抽出しの中へでも投げ込まれたようである。
午後、善太は笛を楽しみにして、学校から帰って来た。玄関を開けると、大声で聞いた。
「お母さん、笛。」
「あれ? あれは見ると気味が悪くなるんで、向いのケンチャンにやっちゃったよ。」
「フン——。」
と、云ったものの、善太にはその日が面白くないものになってしまった。家の内も外も灰色で、退屈なものになってしまった。ボンヤリ立ってると、向いの内でもう賑やかに笛の音がしてるではないか。やっぱり電車ゴッコをやってんのだろうな。
「新宿、新宿。」
やってる。やってる。三平も行ってるのか。笑声が聞えて来る。聞けば聞く程、何てみんな楽しそうなんだろう。笛って、あんなに面白いものなんだ。
そこで何度か考え直した末、思い切って、善太は机の抽出しから一丁の小刀を取出し、それを持って、玄関の処へやって来た。機会があったら、その小刀と笛と取り換えっこしようというのである。が、ケンチャン達台所でやっていて、中々玄関へやって来ない。それに今向いでは面白さが頂点に達しているのだ。善太は敷居の上に腰をかけ、いつ迄も彼等の出て来るのを待っていた。
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