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日本むかしばなし集178

时间: 2020-01-30    进入日语论坛
核心提示:    五 善太はいいことを思いついた。電車だ。停留場だ。あそこでは乗場で車掌さんが笛を吹くと、ほんとうの電車が発車して
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     五
 
 善太はいいことを思いついた。電車だ。停留場だ。あそこでは乗場で車掌さんが笛を吹くと、ほんとうの電車が発車している。あの笛を善太が善太の笛でやってみたら——。車掌さんの吹く前、ピリピリと鳴らしてみたら——きっと電車はぽうっと出て行くに違いない。面白いぞ。でも、出るだろうか。出ないだろうか。だって同じ笛なんだもの、出ないってことないだろう。
「ピリピリ。」
おお、つい善太は自分の笛を吹いてしまった。机の前で、また笛を一人でいじっている時だった。善太は笛に長い紐《ひも》をつけていたのだ。
堪らなくなって、善太は笛につけた紐を首にかけると、笛を懐ろ深く挿《さ》し込んで、急いで家を駆け出した。停留場で車掌さんが笛吹く処を見てくるだけと、自分で自分に云い訳して停留場へ行く道を、駆けたり歩いたりしたのである。
停留場の乗場の前の柵の処にやって来ると、それに寄りかかって、線路のこちら側から、直ぐ前に着く電車を眺めていた。それは非常な勢いでシューッとつくと、間もなくポーッガタンとゆるやかに発車した。何度もそれを眺めた後、善太は車掌さんの真似を始めた。家で電車ゴッコするため、それをよく習っておかねばならない。車掌さんが手を上げる時は、善太も手を上げ、笛鳴らす時は、善太も口でピリピリをやった。どんなにそれが面白かったか。何度やっても飽きなかった。その内、笛を口に喰わえてみたくなって来た。そうだ。喰わえるだけだもの。鳴らしさえしなければ構わない。そこで笛を喰わえてやり始めた。とても面白い。ついニコニコしてしまうではないか。気がつけば、乗場の人がこちらを見てる。見て、ニコニコ笑っている。一寸恥ずかしいが、嬉しくもある。嬉しさに善太は得意になって来た。得意と共に大胆になって来た。思わず笛がピリピリ——と鳴った。何と華やかな音だろう。周囲が一時に明るくなったようだ。さあ始めるぞ。善太は本気で電車の来るのを待った。もう車掌さんになったような気がするんだ。
シューッと大変な勢いで電車がやって来た。電車は乗場の向う側へついた。だから善太の処から車掌さんがよく見える。善太は一生懸命にそれを見つめる。一寸でも見のがしてはならない。さあ、車掌さんが電車から出て来た。
「目白、目白。」
車掌さんは呼んで歩く。その間に乗る人が戸口に押合いをする。
「お早く願いまあす。」
乗る人が入ってしまうと、右手を上げる、笛を吹く、戸がしまる。善太も遅れてはならない。車掌さんにつれて、右手を上げる、笛を吹く。そして電車へ乗る代りに、善太は前の柵の上に足をかけて登り上る。それから電車が遠くなる迄見送っている。ところで、気がつくと、乗場にまた三四人の人が集まって善太の方を眺めている。善太が見ると、その人達声を上げて笑った。
「旨いぞ、少年車掌。」
その中の一人の大学生が声をかけた。と、丁度そこへ友達の宮田君がやって来た。そこで善太は益々愉快になり、二人で代る代る吹くことにした。宮田君は恐々《こわごわ》小さく笛を吹いたが、善太はとても大きな音で、それも長々と吹き鳴らした。
「今の電車、僕の笛で動いたんだよ。」
そんなことを云ったりした。だから善太はもう電車がつくと吹くのであった。何でも車掌さんが吹く前吹いて、自分の笛で電車を動かさなくては——。余り面白くて、電車を待つ間柵を叩いて歌を謡った。
ところで、その時善太は柵の横木の上に乗っかり、身体《からだ》を前に乗り出して、手を高く上げて笛を吹いていた。笛の音が小鳥のように空に舞い上っていた。すると、尻の処に障る手があるので、宮田君かと思って、片手でそれを払いのけた。だって大切な時なんだもの。と、こん度はそれが肩の所をがっしり掴《つか》んだ。振返ってみると、停車場の人ではないか。帽子に赤い筋が入ってる。
「何してる。」
強い調子でその人は云った。善太は顔から血が引いて行くように思った。それでどうしていいか解らず、柵から下りて下を向いて立っていた。身体が震えて来て、何も云わないのに、ドモリの口がモグモグした。
「黙っておれば、いつ迄だってやってるじゃあないか。電車に事故でも起きたらどうするんだ。」
その人は手を前へ突き出して、笛を寄こせという格好をした。が、善太は笛をシッカリ握った。
「笛を出すんだ。」
善太はいよいよシッカリ笛を握って、一生懸命下を向いていた。
「笛を出すんだよっ。」
ポロポロと善太の頬を涙が流れ落ちて来た。すると、暫《しばら》くそれを眺めた後、その人は云うのであった。
「ほんとに、仕方のない奴だ。先生に云いつけてやる。」
そしてそれなり彼方《むこう》へ歩いて行った。
「笛をとられなくてよかったねえ。」
暫くして宮田君が云うのであった。これに気持を引き立てられ、善太はそこをバタバタと駆け出した。ちらっと見た乗場の人の視線が善太には恥ずかしかったので、
「宮田君、早く行こう。」
と、宮田君を急がせた。
停留場を離れて、二人が歩き出した時、
「この笛君にやらあ。」
と、善太が云い出した。
「どうして?」
「ウン、僕、いらないや。」
善太は、駅の人が先生に云いつけると云ったのが恐くなった。それで笛を宮田君の手の中に握らせた。
別れる時、宮田君はもう笛を吹き——駆けて行くのであった。その音は善太が家に入る迄聞えていた。それから善太はしょんぼり机の前に立っていたが、いつ迄も宮田君の笛の音が聞えるような気がして、遠くに気をとられていた。
「人が持つと、あんなに面白いものが、自分が持つと、何でこんなに困ることばかり起るんだろう。」
そんなことが思われ、善太は不思議でならなかった。
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