その日、子供たちは狐狩りというので、恐くてついてもいけず、ただ道ばたにかたまって、櫟林のある、西の方の空ばかりを眺めていました。すると、そちらの空の上を大鷹がクルリクルリと、輪をかいて舞っているのを、見て来たという人がいました。舞っているうちに、首をつッと下に向けて、まるで矢のように落ちていったと言います。それと一しょに犬がワンワンワンワンと、はげしく、なき立てたそうでした。
そのうちに、午《ひる》近くにはもうおじいさんが、鷹を肩にとまらせて帰って来ました。後には金十と権が、狐を二ひき、荒縄で首をしばって、棒につる下げてかついでいました。鷹はひどく苦闘したと見え、背中の羽毛をむしり取られていました。犬も、四郎は尾っぽの真中に血をにじませており、ときどき立ちどまっては、そこをなめるので、みんなからおくれおくれしました。
狐は割合小さな狐でしたが、首をつるされているので、からだが伸びて、ばかに細長く見えました。それが棒の下で、ぷらぷらと、たがいちがいにゆれました。やはり櫟林の塚にいた牡《おす》と牝《めす》の狐だったそうであります。その穴にはまだ子狐が二ひきいたのだそうです。が、親狐をとってる間に、その子狐の方はうっかり、逃がしてしまったのだそうであります。ところで、その晩のこと、おじいさんは変な夢を見ました。
家の土蔵の外の柿の木の根もとに、薄黄色い衣を着た小僧が二人すわって、土蔵の窓に向って手を合わせて、お経をあげております。おじいさんは夢の中で、はてな、と考えました。よく見ると、小僧たちの衣の尻のところに、小さな尾っぽの先がのぞいていました。
おじいさんはそれで目がさめましたが、まだどこからかお経の声が聞えるような気がして、もう眠れません。考えてみますと、土蔵の窓の下には今日とった狐が釘《くぎ》にぶら下げてあるのです。しかし、まさか狐の子が小僧に化けて来てはいないだろうとおもいながら、そっと便所へ立っていきました。
便所の窓からはその柿の木が見えるので、音を立てないように、のぞいてみますと、どうでしょう、ほんとに柿の木の下に小犬のような小さな狐の子が二ひき、ぽつねんとすわって土蔵の窓の方を見上げていました。沈みかけた三日月の光で、それが、かすかながら、ちゃんと見えました。
おじいさんは子狐を、しみじみかわいそうにおもいました。と、二ひきとも疲れて来たものか、急にころりと横になって、土を枕に眠りはじめました。これを見るとおじいさんは孫のねているのを見ているようで、蒲団でもかけてやりたいくらいに、いじらしくなって来ました。おじいさんは、その子狐をそっと生けどって、大事に飼ってやろうかとおもいました。そっと、ざしきへかえって、つぎの間に寝ているおばあさんを、こっそり、よびおこしました。
ほんとにいるんだよ、あすこに寝てるんだよと話して、また一人で便所の窓へ見にいきましたが、便所の入口で足をすべらして、どたんと板戸へぶつかりました。子狐はその音で、びっくりして、にげてしまったものか、いくら見さぐっても、もうどこにも姿が見えませんでした。
そのうちに、午《ひる》近くにはもうおじいさんが、鷹を肩にとまらせて帰って来ました。後には金十と権が、狐を二ひき、荒縄で首をしばって、棒につる下げてかついでいました。鷹はひどく苦闘したと見え、背中の羽毛をむしり取られていました。犬も、四郎は尾っぽの真中に血をにじませており、ときどき立ちどまっては、そこをなめるので、みんなからおくれおくれしました。
狐は割合小さな狐でしたが、首をつるされているので、からだが伸びて、ばかに細長く見えました。それが棒の下で、ぷらぷらと、たがいちがいにゆれました。やはり櫟林の塚にいた牡《おす》と牝《めす》の狐だったそうであります。その穴にはまだ子狐が二ひきいたのだそうです。が、親狐をとってる間に、その子狐の方はうっかり、逃がしてしまったのだそうであります。ところで、その晩のこと、おじいさんは変な夢を見ました。
家の土蔵の外の柿の木の根もとに、薄黄色い衣を着た小僧が二人すわって、土蔵の窓に向って手を合わせて、お経をあげております。おじいさんは夢の中で、はてな、と考えました。よく見ると、小僧たちの衣の尻のところに、小さな尾っぽの先がのぞいていました。
おじいさんはそれで目がさめましたが、まだどこからかお経の声が聞えるような気がして、もう眠れません。考えてみますと、土蔵の窓の下には今日とった狐が釘《くぎ》にぶら下げてあるのです。しかし、まさか狐の子が小僧に化けて来てはいないだろうとおもいながら、そっと便所へ立っていきました。
便所の窓からはその柿の木が見えるので、音を立てないように、のぞいてみますと、どうでしょう、ほんとに柿の木の下に小犬のような小さな狐の子が二ひき、ぽつねんとすわって土蔵の窓の方を見上げていました。沈みかけた三日月の光で、それが、かすかながら、ちゃんと見えました。
おじいさんは子狐を、しみじみかわいそうにおもいました。と、二ひきとも疲れて来たものか、急にころりと横になって、土を枕に眠りはじめました。これを見るとおじいさんは孫のねているのを見ているようで、蒲団でもかけてやりたいくらいに、いじらしくなって来ました。おじいさんは、その子狐をそっと生けどって、大事に飼ってやろうかとおもいました。そっと、ざしきへかえって、つぎの間に寝ているおばあさんを、こっそり、よびおこしました。
ほんとにいるんだよ、あすこに寝てるんだよと話して、また一人で便所の窓へ見にいきましたが、便所の入口で足をすべらして、どたんと板戸へぶつかりました。子狐はその音で、びっくりして、にげてしまったものか、いくら見さぐっても、もうどこにも姿が見えませんでした。