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日本むかしばなし集188

时间: 2020-01-30    进入日语论坛
核心提示:ビワの実山の麓《ふもと》の藪陰《やぶかげ》に一人の木こりが住んでいました。名を金十と言いました。ある春の夜のことでした。
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ビワの実

山の麓《ふもと》の藪陰《やぶかげ》に一人の木こりが住んでいました。名を金十と言いました。ある春の夜のことでした。金十は窓の下でぐうぐうぐうぐうねていました。すると、夜中頃に月の光がその窓からあかあかと金十の上にさして来ました。金十はそれで目がさめました。目がさめると、ビワの実のことを思い出しました。
そのビワの実というのは桃くらいもある大きなビワの実でした。そして金色に光って、薄い粉がふいていました。それを今朝金十は山へ行く途中、朝日の輝く道端の草の中に見付けました。
「はて、何の実だろう。」
金十は驚いてしまって、一時は手にも取り上げず、首をかしげて眺め入りました。
「桃にしては色が違う。ミカンにしては皮が薄い。何か怖《おそ》ろしい山の鳥の卵とでもいうのではないだろうか。鳳凰《ほうおう》の卵というのはまだ見たことも聞いたこともないけれど、もしかしたら、こんな美しい木の実のようなものではないだろうか。そうででもなけりゃ、こんなところに、こんなものの落ちている筈がないじゃないか。」
金十は一人で考えました。
「が、待て待て。手にとってみるくらい構やしないだろう。卵などだったら、もとのところへ置いとくばかりだ。」
そこで金十はあたりを見廻して言いました。
「へい、ちょいと、見せて貰います。見るばかりです。盗《と》ったりなんどするのじゃありません。」
で、拾い上げて、目の前に持って来ました。鼻の前に持って来て、匂いをかいでもみたのです。いい匂いです。それに何て重いことでしょう。まるでほんものの金のような重さです。しかし尻のところを返してみると、ちゃんと果物についている|へた《ヽヽ》が喰っついておりました。
「やっぱり木の実だな。すると、この実のなる木がこの辺に、この山の中にあるという訳だ。もしないとするなれば、この実を喰わえて大きな鳥が、いや、小さい鳥なんかでこの実の喰わえられる訳がないから、それはどうしても鷹《たか》や鷲《わし》くらいの鳥が、これを喰わえて飛んで来た。いやいや、これも一つじゃないだろう。これが房のようになっている十も二十もの枝を喰わえて飛んでたろう。すると、丁度この上の辺で、その中の一つが何かの拍子で、ポロリと一つ落っこちた。これがそれ、この美しいこの実なのだ。とすると、この一つくらいおれが貰ったからと言っても罰はあたらない。放っておけば、他の鳥に喰われるか、それとも雨に打たれて腐ってしまうか、とにかくいいことになる筈はないのだから。」
こんなことを長々と金十は一人で考えました。そしてここ迄《まで》思いつづけると腰の手拭を引きぬきました。その端でその実をシッカリ包みました。包んだ上に一つの結目をつくりました。そしてこれをまた腰のところに結びつけました。
木を切るところに行ってからも、金十はその実を大切にして、手拭のまま近くの木の枝にぶら下げて置きました。間もなく、一本の木を切り倒して、一ぷくしようとして気がつきますと、大切な木の実の下げてある枝の上に、一匹の栗鼠《りす》がやって来て、しきりにチョロチョロ駆け廻っております。
「あれ、奴さん、何してやがる。」
こう言ったのですが、栗鼠はその手拭の結目を噛《か》み切ろうとしておりました。
「大変大変、そんなことさせて、堪るものかい。」と、金十は大急ぎで、その手拭を枝からはずし今度は長い竹の棒の上にくくり付けて、その棒を土の上に突き立てて置きました。
「どうだい。もう栗鼠が何べん来たって取れっこない。」
こんなことを言ったのでしたが、しばらくして気がつくと、今度はどうでしょう、沢山の、いや三羽ばかりの山雀《やまがら》が、その竿《さお》の上でバタバタ、バタバタやっておりました。やはり手拭からその木の実を取って逃げようとしているのでした。これを見ると、
「こうらあ、雀の馬鹿野郎。」
金十は大きな声をして、持っていた斧《おの》を雀の方に高く振りかざして見せました。
「どうもこりゃ油断ならん。」
金十は雀を追っ払らうと、今度は斧で土を掘って、その中に木の実を入れました。そしてその上に大きな石を手にして載せかけて置きました。そうしておけば大丈夫です。それから晩まで、仕事の切れ目切れ目に、金十は石をのけて覗き込みましたが、栗鼠も雀ももうそこ迄は力が及びません。
日暮れになったとき、金十は朝来たときのように斧をかつぎ、腰にはその実をぶら下げて上機嫌で、麓の藪陰の藁屋《わらや》の家に帰って来ました。
「まず斧をしまって、晩めしを食べて、それからゆるゆるこの木の実を食べるとしよう。」
金十はそう思って、それを大切に戸棚の中にしまいこみました。そして晩めしの仕度にかかりました。ところが、晩めしがすむと、どうしたことでしょう。もう眠くて眠くて、美しい木の実なんか、思い出しもしない程で、とうとう蒲団もしかないで、窓の下に横になってしまいました。そうすると、もうそれきりぐうぐう眠ってしまいました。
それが今、夜中頃に月の光がさして来るとふと目がさめて来ました。目がさめると、その不思議な木の実を思い出しました。
「おお、そうじゃ、あれを食べてみなくちゃ。」
こう言うと、跳ねるように起き上って、戸棚の戸を引き開けました。もしかしたら、鼠なんかに齧じられていはしないかと心配しましたが、やっぱり朝の通り、金色に光って、白い皿の上に、とてもいい匂いで載っかっておりました。
「あったぞ。あったぞ。」
金十はこれを皿ごと取出して、月の照らす窓のところへ持って来て、しばらくじっと眺めました。どうもそのまま食べてしまうのは、惜しいような気がしてなりません。
「だが、実は食べても、種をまいとけばいいだろう。そうだ。そうだ。」
自分で言って、自分で答えて、それから思い切って、金十はそれを口へ持って行きました。そして歯形を立てたか立てないに、もう口の内は果物の汁で一杯になりました。甘くて、酸っぱくて、そしていい匂いがして、ちょうどそれはビワの実のような味でした。それを金十はゴクリゴクリと飲みほしました。そしてまたその実を口に持って行くと、やはり歯形を立てるか立てないかに、もう口の内がおいしい汁で一杯になりました。一杯になった上、早く飲まないと、胸の方へ流れ落ちそうになりました。金十は息をする間もなく、それを何度飲みほしたことでしょう。十度も二十度も飲んだようにも思えれば、ほんのちょっと、いえ、たった一度飲んだようにも思えました。何にしても、そのおいしさは、くらべるものもありません。しかしそれが何と、見る間に種ばかりになってしまったのです。金十はそれでしばらくその種を皿の上に載っけて、その皿を窓の敷居の上に置いたままじっと考えつづけておりました。
「あああ、おいしかった。何にしても、おいしい果物だ。」
そんなことばかりを考えつづけたのです。しかしいつ迄もそうもしてはいられません。そこで皿の上にあった一つの種を手にとると、月の光に照らされた前の庭へ下りて行きました。そしてそこの真中の、ちょうど窓の前になるところに鍬《くわ》でもって土を少し掘って、その種を中に埋めました。埋めると、上の土をよく足で踏みつけて、それからまた窓の下に帰りました。
「もうこれでいい。明日ぐらい芽を出すかもしれないぞ。」
そんなことを思って、横になって目をつぶりました。ところが、少しするとどうでしょう。その種を埋めた土の上に、もう木の芽生えが小さい二葉をのぞけました。二葉がのぞいたと思うと、それはもうパッと四つの葉になりました。
四つの葉になったと思うと、今度は幹がすいすいと延び始めました。延びるに従って、何枚もの葉がパッパッと開きます。葉が開くにつれて、今度は枝がチョキン、チョキンとついて行きます。
いや、どうも不思議なことです。とうとうその木は見ている間に、見上げるような大木になってしまいました。大木になったばかりか、見ていると、それが一時にパッと空一面に花を開きました。白くそして桃色の、ちょうど桜の花のようでありました。
と、それが十分間とたたないうちに、ホロホロと、まるで雨が降るように散り始めました。花が散ってしまうと次にはサッと枝々に枝もたわむほど沢山のそして美事に金色のビワの実のようなその不思議な木の実がなりました。月の光を受けて、何百何千というその実がどんなに美しかったことでありましょう。金十はただもう息もつけずに、これをじっと眺めているばかりでありました。すると、そのときバタバタと音がしまして、一羽の鳥がその木の下へ飛んで来ました。
これが鳳凰というのでしょうか。お宮のお祭のときの御輿《みこし》の上についているあの飾りのような鳥でした。それが木の下をキラキラ光りながら歩き始めました。と、またバタバタと音がしました。また一羽の鳳凰が飛んで来たのです。
それが木の下に下りると、つづいてまた音がしました。そうして、鳳凰はとうとう二十羽ばかりも飛んで来ました。それが木の下を歩き廻る様子はこれこそ金屏風《きんびようぶ》に画かれた絵であるかと思われるようでありました。
ところが、その次にとんだことが起りました。その鳳凰が一時にバッとたち上ったのです。みんな木の上の、あちらこちらの枝の上にとまってしまったのです。そして急がしく首を動かせて、その金色の実を食べ始めたのです。どうしたらいいでしょう。と言っても、どうすることも出来ません。何しろ神様のように尊い見たこともない鳥のことです。金十はやはりじっと眺めているばかりでした。
金色の実は一つ一つ、しかも見る間に枝の上から消えて行きました。そしてそれが一つ残らず無くなってしまうと、バッと大きな、大風のような音がしました。一時に二十羽の鳳凰が飛び立ったのです。それは月の光の中をキラキラ光りながら、空の遠くへ金色の雲のようになって飛んで行ってしまいました。
後には大きな幹とその枝と、それからだらりと垂れたまばらな葉ばかり残りました。まるで夢のようなことでした。しばらく経って、
「もう一つもないのかしらん。」
金十はそう言って、初めて窓のところから立上りました。そして木の下へ行って、ぐるりをぐるぐる廻りながら、その枝や葉の間を見上げて歩きました。
「あれえ。」
金十は一ところで足をとめました。何だか一枚の葉の陰に小さな小さな豆のような小粒の実がまだ一つ残っているようです。
「違うかしらん。」
そう言っているうちに、あれあれ、それが次第に大きくなり始めました。もう桃ぐらいになりました。もう夏ミカンほどになりました。もう、西瓜《すいか》のようになりました。それにつれて、その細い枝が段々下にたわんで来ました。
これはこうしておれません。放っておくと枝が折れるか、実が下に落ちて来て、土の上でつぶれるか、大変なことになりそうです。
そこで金十は大急ぎで、家の中から長い杭《くい》と槌《つち》とを持って来て、その実の下に四本柱のやぐらのようなものを造りました。そしてその上に板を渡して、それで、その実を支えました。こうしておけば、実が樽《たる》のように大きくなっても大丈夫です。いやいや、それどころでありません。その実は、そのときもう樽のようになっておりました。樽も樽、四斗入の樽のようになっていました。そしてまだまだぐんぐんぐんぐんぐんぐんふくらまって行きました。
「や、どうも大変なことになってしまった。」
金十はうろたえました。今にやぐらが金色のまん円い家のような実の下で押しつぶされてしまうかも知れません。と言ったところでもう今となっては、どうすることも出来ません。
それを見上げて、はあー、はあーと大息をついているばかりです。ところがまた不思議なことが起りました。大人三人で、やっと抱えられるくらいの大きさになったときでした。その実はふと大きくなるのを止《や》めました。
「ああ、やれやれ。」
金十はやっと安心しました。安心すると、一時に疲れが出て来ました。そこに立っておれないほど、身体がだるくなって来ました。そこで、
「何もかも明日のことだい。」
そんなことを言って、また家の中の窓の側に帰って行きました。そこで横になって眠ろうとしたときであります。ドシーンと大きな音が外でしました。びっくりして覗いてみると、おやおや、今度は大きな大きな蟇《がま》が一匹、金の実の下に大ように両手をついて、目をパチクリやりながらひかえております。
「ハッハハハハ。」
金十はつい笑い出してしまいました。蟇の様子が何としてもおかしいのです。しかし蟇はニッコリともせず、両手は両方に拡げてついたまま、すまし返って動きません。どうしようと言うのでしょう。あの大きな口を開けて、金の実をパクリと一口にやってしまおうというのでしょうか。いえいえ、そうではありません。そのとき例の藪陰から一匹の大狐がピョンと一跳ね飛んで出て、金の実のやぐらの上に跳ね上りそうにいたしました。と、これを見た蟇が、ワッと大きな口を開けました。狐の十匹も入りそうな大口です。や、これを見た狐が一方どんなに驚いたことでしょう。キャンと啼声《なきごえ》を出すと一緒に、また元の藪の中へ大急ぎで跳ね入ってしまいました。
狐が入ると、今度こそというのでしょうか、三メートルもある一匹の大蛇が蟇の後ろからそろりそろりと這《は》い寄りました。すると今度は蟇がよちよちと向きを変えて、蛇の方に向いたと思うと、やはり大きな口をパクッと開けました。蛇もまた驚きました。起していた鎌首を宙に高く立てましたが、それと同時に、やはり元来た方へ、飛びつくように跳ね入りました。
つまり蟇は何処から来たのか、この金の実の番を引受けることになったのです。
これを見ると、金十は一層疲れがまして来てもう立ってもいてもいられなくなり、とうとうそこに横になり、月の光に照らされながら、ぐうぐうぐうぐういびきをかいて、深い眠りに入りました。
ところで、どうでしょう。今迄のことはすべて金十の夢ではありますまいか。夢でなければ、目がさめても、その金の実がある訳ですが。
あるでしょうか?
ないでしょうか?
どっちでしょうか?
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