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日本むかしばなし集195

时间: 2020-01-30    进入日语论坛
核心提示:谷間の池今から四十年も昔、明治の頃の話であります。ある夏の日の朝早く、岡山の町から三キロばかり離れた草深い田舎の田圃《た
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谷間の池

今から四十年も昔、明治の頃の話であります。
ある夏の日の朝早く、岡山の町から三キロばかり離れた草深い田舎の田圃《たんぼ》道を、おじいさんと子供が歩いておりました。おじいさんは、竿《さお》をかつぎ、子供は籠《かご》をさげておりました。二人はこれから山の彼方の谷間の池に鯉《こい》や鮒《ふな》を釣りに行くところであります。
さて、道が二つに分れているところに来ました。すると、先に立っていた子供がききました。
「おじいさん、どっちへ行くんならな。」
おじいさんが言いました。
「まて、まて、こういう時こそ、じいさん、ばあさんをやってみにゃならん。のう、そうじゃろうが、ハッハハハ。」
そして二つの道を指でさしさし「じいさん、ばあさん、どっちの道にしようかなあ。そうれは、われの勝手にしゃらんせい。」と言いました。すると指が右の方に止りました。
「ほほう、右の方へ行けえと、じいさん、ばあさんがおっしゃるぞ。さあ、金太郎、右へすすめっ。」
おじいさんはまたこんなじょうだんを言いました。金太郎というのは子供のことです。
「だけど、おじいさん、右でええのかな。道を間違えりゃせんのかな。」
「ええとも、ええとも。ほんとうは、どっちの道でも行けるんじゃ。右は山道、左は野道、な。山道は近いが、えらい。野道はらくじゃが、遠い。」
「そんなら、近い方がええわ。」
金太郎はどんどん、その山に向って道を歩きました。間もなく道は山を上り始めました。赤土の砂まじりの、急な坂です。金太郎はサッサと登りましたが、おじいさんは、五六歩あるくと止り、八九歩あるくと、腰をのばして休みました。休むたびに、
「ああ、やれやれ山道は近いがえらい。」と言いました。すると、金太郎が、
「ああ、やれやれ、野道の方はらくじゃが遠い。」
と、あとをつけ、ハッハと二人で笑い合いました。しかし、十分もたたないうちに二人は山の上に登りつくことが出来ました。そこには割合広い道があって、峰伝いに山奥の方にウネウネと続いておりました。その道の両側には大きな松が立っていて、風がその枝を鳴らしておりました。おじいさんはその道に出ると、すぐその松の下の一つの石に腰をおろしました。
「やれやれやれ。」
おじいさんはそのやれやればかり言うのでした。曇り日で、しかも朝早くでしたから、まだ日はさして来ませんでした。しかしおじいさんは疲れたらしく、石の上に腰をおろしたまま、なかなか動こうとしませんでした。金太郎は腰もかけず、おじいさんの立上るのを待っていましたが、おじいさんがじっとしているので、ソロソロさいそくを始めました。
「おじいさん、早く行かんと、鯉も鮒も逃げてしまうぞな。」
「ウム、行く行く。しかしもうすぐぞ。向うの岩、なあ、あの大きな岩のところを下れば、谷に三つの池が見える。そこが鯉や鮒の住みかじゃ。だから、ここでもう少し休んで行こう。」
こう言って、おじいさんは腰から煙草入れなどぬき出して、パッパと煙草の煙を立てました。そしてじっと耳をすましたり、その辺を見まわしました。おじいさんは疲れてもいましたが、実は色々のことを考えてもいたのです。だって、側に立っている松の幹には白いコケが生えていましたし、彼方の松の枝にはツタやカズラがかかっていました。そして、耳をすませば、何ともいえない松風の音が聞えて来ました。その松風の音が、何か昔のことを語っているように、おじいさんには思われたのであります。おじいさんはその時もう七十に近く、明治も三十幾年で、岡山にも汽車も通っていましたし、電信というものも出来ていました。そんな世の中になっていましたが、松風の音ばかりは、おじいさんが幼い頃、そうです、明治の前二十年の昔に聞いたのと、少しも変らぬ調子で鳴っておりました。それにこの辺の景色が、またその昔と少しも変らぬ景色でありました。だからおじいさんは耳をすまし、あたりを何度も見まわしたのです。その末、とうとうおじいさんは感心して言いました。
「なるほどなあ。」
これを聞くと、金太郎がたずねました。
「おじいさん、何がなるほどなんで。」
「ウーン、金太郎にはわかるまいが、この辺が少しも昔と変らんのじゃ。な、見なさい。松があって、岩があって、松の上には雲が浮んで、な、山は幾つもそこら中に立っていて。おじいさんは見ていると、あちらの岩陰にお鷹匠《たかじよう》がコブシに鷹をのせて隠れているような気がして来る。」
「え、おたかじょう。おたかじょうって、なになんです。」
「お鷹匠か。お鷹匠というのは、大きな鷹をならしてな、それに雉《きじ》や山鳥をとらしたものだよ。五十年も昔には、村にその鷹匠さんが住んでいて、おじいさんはお供をして、この辺によく雉や山鳩をとりに来た。目に見えるようじゃがなあ。」
「ヘーエ。」
金太郎はわからないまま、こんなことを言っておりましたが、おじいさんは一人で感心していて、またも煙草を吸いつけました。そこで金太郎は仕方がないので、側の岩に登りました。一メートルばかりの小岩でしたが、それに登ると、山の下の一軒の家が眼にはいりました。小さな藁屋《わらや》ですが、竹藪《たけやぶ》に囲まれていて、前に乾庭《ほしにわ》がありました。そこへ二人子供が出て、隅の井戸端で顔を洗っておりました。これを見ると、金太郎はフトおじいさんに聞いた、山姥《やまんば》の話を思い出しました。それで、岩の上からおじいさんに声をかけました。
「おじいさん、その時分、この辺には山姥がおったんかな。」
「フムフム、山姥。山姥はもうおらなんだなあ。」
「へえ——、それじゃ、山父《やまちち》はな。」
「ハッハハハ、山父もおらなんだな。」
「へえ——。」
金太郎は少し物たりない気持がしました。ところで、山姥の話はきっと皆さんも知っておられると思いますが、山父というのはどうですか。おじいさんが煙草を吸っている間に、その話をちょっと私がいたしましょう。
山父というのは一つ目で一本足という恐ろしい怪物であります。ある時|桶屋《おけや》が外に出て仕事をしておりました。きっと金太郎が山の下に見ている藁屋の乾庭のようなところでありましょう。そこで桶にタガをはめておりました。そこへその一つ目一本足が山の方から下りて来ました。これを見ると、桶屋さんは恐ろしさにビックリしながら、これが話にきいていた山父というものだな、と思いました。すると、桶屋の前に立って、じっと桶屋を見ていた山父が言いました。
「おい桶屋、これが山父というものだな、と今思ったな。」
これを聞くと、桶屋はまた思いました。これは大変だ。こちらの思ってることをすぐ言いあてる。すると山父は、
「おい桶屋。これは大変だ。こちらの思ってることをすぐ言いあてる、と思ったろう。」
と言うのでした。それで桶屋は、何を思ってもすぐさとられるので、ただもうふるえるばかりで、一生懸命に仕事をしておりました。すると、寒い日なので、かじかんだ手がすべってタガの竹のはしがはねて、山父の顔をパチンと打ちました。山父はこれには驚きました。だって桶屋が思ってもいないことをしたのですから。それで、人間というやつは時々思ってもいないことをするから油断できない。ここにいると、どんな目にあうかも知れないと言って、一本足でどんどん山の方へ逃げてってしまいました。
これが山父の話であります。しかしこの山父も、その金太郎がおじいさんに話を聞いた頃はもういなかったのだそうですし、またおじいさんが幼い頃、その辺に鷹匠がいた頃にも、もういなかったそうであります。では仕方がありません。おじいさんをせき立てて、早く谷間の池へ行きましょう。そこで、
「おじいさん——。」
と、金太郎が大きな声で呼びました。
「おっととととと。」
と、おじいさんは腰を上げました。金太郎は、岩の上から飛び下り、先に立って走りました。谷の方に下りる岩のところにはすぐ来ました。見れば、なるほど、そこで細道が左に分れ、それが山の中腹を谷に沿うて曲り曲り下りております。谷はあちらの山と、こちらの山との間に大きく開け、その中に池が三つ、上から、小、中、大、と三段になって鏡のように光っておりました。一番上の小の池は松の林の中に埋もれて、その枝の中から光る小さい鏡でした。中の池はまわりをグルリと水草でふちどった、中くらいの鏡でした。一番下の池は、これは大きくて、蒼々《あおあお》とひろがり、時々波さえ立っていました。昔、鷹匠のいた頃は、この谷に雁《がん》や鴨《かも》がたくさん下りたのだそうであります。鶴や鷺《さぎ》も遊んでいたのだそうであります。それをその岩陰から鷹匠が鷹を飛ばせて捕ったというのであります。けれども今はそんな鷹も飛んでいなければ、鶴も鷺も舞うてはおりません。ただ、そこで金太郎が、
「オーイ、谷の池の鯉や鮒——。」
と呼びましたら、遠くの山彦が、
「オーイ、タニノイケノ、コイヤ、フナー。」
と答えました。それでもう一度金太郎が呼ぼうとしました。
「さあ、急いだ急いだ。」
そこで金太郎は籠を肩にかけて、それを背中でおどらせ、その道を下へかけ下りました。
さて、金太郎とおじいさんは一番下の大池で釣ることとなりました。大きな松林を後ろにして、南に向って、岸の草の上に腰を下ろしました。前には叉になった木の枝を立て、それに竿をのせかけました。竿は五メートルもあり、それにやはり五メートルの糸がついておりますから、ウキはずいぶん遠くの方へ投げこまれました。おじいさんのウキは白黒まだら。金太郎のは白と赤のまだら。えさはミミズ。ところで、おや、もう金太郎のウキが動き出しました。チョイチョイチョイ、ウキは上下しながら横の方へ動いてゆきます。
「ひいとる。ひいとる。金太郎、これは鮒だよ。そら、上げた。」
おじいさんの声で、金太郎は竿を上にあげました。大きな鮒、十五センチもあるような鮒がピンピンはねながら、金太郎の目の前にブランコをして飛んで来ました。それをつかまえて籠に入れますと、
「さあ、こんどはおじいさんの番だ。」
と、おじいさんが言って、竿に手をかけました。ウキがチョイチョイチョイとうれしそうに面白そうにおどっております。それがグッと引きこまれたところで、
「そーれ、来た。」
と、おじいさんは竿を上げます。
「おや、こいつは大きいぞ。」
おじいさんは言いましたが、魚がなかなか水の上に浮んで来ません。糸を引いて、あっちへゆき、こっちへ行きします。時々水を煙のように、上にもり上げます。きっと大きなその尾っぽで跳ねているのです。竿が中ほどから円くしなっております。
「こーれは大きい、鯉かも知れんぞ。網がいるよ。」
そういって、おじいさんは竿をしなわせたまま、側の網を片手で引寄せました。その時魚がやっと水の上に現われて来ました。まだ鯉か鮒かわかりません。そこで魚は一はねして、大きな音を立てて、水のしぶきを飛ばせました。また水中にもぐり入ろうとしたのです。しかしもう力がなくなり、頭だけを水の上に出して、糸にぶら下ったような形になりました。そこをおじいさんはスーと手もとに引寄せて、すぐ網ですくい取りました。
「鮒だ、しかも大きな鮒だなあ。」
網の中であばれる鮒を金太郎の方へ見せながら、おじいさんが言いました。それは二十五センチもあり、籠に入れても、水音を立て、勇ましく跳ねていました。
「そら、もう来たぞ。金太郎さん。」
おじいさんは自分の鉤《はり》にミミズをつけながら、金太郎のウキを見て言いました。ほんとにもう金太郎の赤白ウキが動いております。金太郎はこんどは二十センチ近い鮒をつりました。金太郎が釣ると、おじいさんも釣りました。おじいさんが釣ると、金太郎も、という工合で、二人は夢中でいそがしく立働きました。とった魚を鉤からはずして籠に入れ、はずした鉤にはミミズをつけて、池の中に投げ込みました。竿をふって、そのミミズのついた糸を池の中に投げ込む時、ヒュッという音がしました。ヒュッヒュッ、ヒュッヒュッ、その音がつづきました。いつの間にか空が晴れ、日が明るくあつく、二人の上に照って来ました。その頃、池の上に少し風が出て来て、小さな波が立ち出しました。ウキが鮒に引かれておどることも少なくなりました。おじいさんも煙草入れを出して、煙草を吸い始めました。そこで金太郎はウキを見つめるのをやめて、籠を水から引上げて、中の魚をのぞきました。すると、そこではバタバタ、バタバタ、鮒が大さわぎではねました。しかし、もうその大きな籠に半分以上も鮒やハエ、タナゴなどがとれていました。
「おじいさん、もう何匹ぐらいおるじゃろうなあ。」
金太郎がさげるのに重いくらいの籠を、おじいさんの前へ持って行って見せました。
「さあ、七八十もおろうか。」
「ずいぶん、とれたなあ。」
「そうじゃ、大りょうじゃ。」
「だけど、一つもウキを引かんようになったなあ。」
「ウン、まあ一休みじゃ。三時頃までは、こんなものかな。」
そこで金太郎は籠をもとのところにつけ、ウキはおじいさんに見てもらうことにして、池の岸を歩きました。七八メートルも行くと、大きな木が水の上に枝をさし出しているところに来ました。その下の水ぎわには太い木の切株があって、ちょうど腰をかけるのにいいようになっていました。そこは風もソヨソヨと吹き、木の下の水も枝をもれる日光をうつして、美しく澄んでいました。金太郎は大息をついて、そこで帽子をとり、その切株に腰をかけました。胸をあけるようにして、風を入れました。それから草履《ぞうり》をぬいで、池の水に足をつけました。
「ああ、すずしい。」
思わず、そう言いました。
「おじいさん、ここはすずしいぞな。さあ、来てみられい。」
おじいさんにも声をかけました。
「ウム、そうかあ。それじゃ、このへんでおべんとうにしようか。」
おじいさんも竿を捨てておいて、風呂敷包みを持って来ました。二人はそこの木の下で、竹の皮包みのおにぎりを開きました。おにぎりの中には、梅干がはいっております。おにぎりを食べながら、金太郎が聞きました。
「おじいさん、この池にはぬしはおらんのかな。」
「そうじゃな、昔はおったかも知れんがな、今はもうそんなものはおらんようになった。」
「へえ。それで、昔はどんなぬしがおったんで。」
「さあこの池のは知らんがな。大ていは大きな亀の子とかな、大きな|おろち《ヽヽヽ》とかな。」
「フーム。おろち言って、何ならな。」
「大蛇のことじゃ。」
「へえー。河童《かつぱ》はな。」
「河童も昔はおったが、今はもうおらんようになった。」
「フーム。それでは水蜘蛛《みずぐも》はな。」
「水蜘蛛。水蜘蛛はおる。」
「えッ水蜘蛛はまだおるんかな。」
「おるとも。」
これには金太郎はビックリしました。
「この池にでもおるかな。」
それで、そう聞いてみました。
「おるとも。」
そう言って、おじいさんは立上り、切株に近い、木の下の水の上をのぞきました。
「それ、ほら、そこに水の上を歩いている足の長い蜘蛛がおるじゃないか。あれが水蜘蛛じゃ。」
そう言われれば、二三匹の大きな水蜘蛛が水の上をあっちへゆき、こっちへゆき、歩いておりました。
「なーんだ、あれかな、ちょっとも恐いことはないなあ。」
金太郎はそう言いましたが、みなさんは水蜘蛛を御存じですか。夏になると、川や池の水の上を足の細い、大きな蚊のような虫が歩いております。あれが、水蜘蛛というものです。しかし、何で金太郎はその水蜘蛛を恐ろしそうにいったのでしょう。それにはまた一つのお話があります。それは金太郎がおじいさんから聞いていた話であります。それをちょっと、ここに書いてみることといたします。
むかし奥州の半田山《はんだやま》の沼で、夏の頃ある人が釣りをしていました。珍しくその日はたくさんの魚が釣れて、わずかな間に魚籠《びく》一ぱいになりました。暑い日だったので、その人ははだしになって、足を沼の中につけました。すると、一匹の水蜘蛛が来て、その足の指に糸を引っかけてゆきました。そして間もなく又来て、同じところに糸をかけました。不思議に思って、その糸をそっとはずし、そばの大きな楊《やなぎ》の株にまきつけておきました。すると、やがて沼の底で、大きな声が聞えました。
「次郎も来い。太郎も来い。みんな来い。」ビックリしていましたら、魚籠の魚が一度にみんなはね出して逃げて行ってしまいました。そのうちに沼で大勢のかけ声がし始めました。
「えんとえんやらさあ。」それと共に、その蜘蛛の糸を引き始め、見ている前で太い株が根元からポッキと折れてしまいました。それから後、この半田山の沼へは、一人も釣りにゆく者がなくなりました。
と、こういう話であります。だから金太郎は水蜘蛛を恐がったのであります。だからまた金太郎はおじいさんに言いました。
「おじいさん、水の中へ足をつけてみようかな。水蜘蛛が糸をかけに来りゃせんじゃろうか。」
「ウムそうじゃな。ありゃ昔の話だからな。今はもうそんなことはない。しかし、話にあることを何でもためしてみたりするもんじゃないぞ。もしかあったら大変だからな。」
そう言われてみると金太郎は何か気味が悪く、足をつけるのを思い切りました。
ところで、三時頃が来ると、また大りょうとなりまして、二人はいそがしく竿をヒュッヒュッ鳴らしつづけました。そして五時頃には籠が一ぱいになるほどになりました。それでもう大満足して、余り一ぱいにしては、籠が重くて、持って帰れなくなりますので、二人は腰をあげました。こんどは、代りばんこに籠をかついで、もと来た道を坂を登り、坂を下り、草深い田圃道を歩いて、岡山に近い村の二人の家へ帰って来ました。今から四十年も昔の明治の頃であります。
ところで、その時から十年ばかりたった時でありました。もうおじいさんはこの世におりませんでしたが、金太郎は、この谷の上の峰伝いの道を、通ったことがありました。その時、その道から、その谷間を眺めましたら、十年昔と少しも変らず、三つの池はシーンとして、谷間に、松林の中に鏡のように光っていました。そしてその上の空に二羽の白い鳥が見えました。一羽は翼を上下して飛んでおり、一羽は静かに輪をかいて舞うていました。
それからまた十年たち、こんどは金太郎は薬屋になって、薬の荷物を負うて、その道を通りました。谷間の景色は少しも変りませんでしたが、谷へ下りる岩のところでその岩陰のくぼみの中に、二匹のガマのいるのを見つけました。一匹は大きく、一匹は小さく、二匹並んで、いつまでも両手をついて、谷間の方を見つめていました。
その後金太郎は用事がなくて、そのへんを通ることもありません。
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