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日本むかしばなし集199

时间: 2020-01-30    进入日语论坛
核心提示:ひるの夢よるの夢ボクは夢を見た。家で、おとうさんおかあさんたちといっしょに御飯を食べてる夢だった。おとうともいたし、いも
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ひるの夢よるの夢

ボクは夢を見た。家で、おとうさんおかあさんたちといっしょに御飯を食べてる夢だった。おとうともいたし、いもうともいた。御飯は白メシだった。お茶碗につけると、ユゲがモヤモヤあがった。おつゆだってユゲが立っていた。おつゆの実はおとうとの好きなナッパが入っていた。それでおとうとはまだおとうさんに、「頂きます。」をしないで、その中にハシを入れてかき廻し、
「ハ、ナッパだ。」
なんて言っていた。そこへおとうさんが洋服を着て出て来られ、みんなはハンダイのまわりに坐った。ボクは、
「頂きます。」
と言った。みんなもそう言った。
おかずはおつゆの他に干イワシがついていた。イワシのやける匂いはとてもいい匂いだった。ボクはイワシが大好きだから、何本も何本もつぎからつぎへ食べた。食べるごとに、おとうとが、
「一つ——二つ——三つ——。」
と、勘定した。ボクは勘定されるのがイヤで、
「オイ、よせよ。かあさん、よさせてよ。」
そう言った。すると、おとうとは、
「だって、にいちゃんもう四つも食べるんだもの。」
そう言った時、門の方で自動車の音がブウブウ聞えた。
「さあ、自動車が来ましたよ。早く食べて行きなさい。」
おかあさんに言われて、ボクは直ぐ御飯をすまして、背おいカバンを背中にかけた。その時、おかあさんが、
「おひるにはパンを焼いといてあげますからね、早く帰っていらっしゃい。」
そう言われた。おとうともその時急いでカバンを背中にかけた。そしておとうさんについて、玄関を出た。二人はキョウソウで自動車の方にかけてった。自動車はいつものようにピカピカ光っていた。運転手の三田さんがドアをあけて待っててくれた。ボクは早くとびこんで窓の側に腰をかけた。勢いよく腰かけたもんで、ピョンとボクははねあがった。おとうともボクのマネをしてピョンピョン何度もはねあがっていた。直ぐおとうさんが来られて、自動車はスーッと動き出した。通りに出て、いつもの橋の処に来ると、自動車がとまって、ボクは外に出た。おとうともおりると思って待ってたら、自動車の戸がバタンとしまって煙のように自動車が行ってしまった。
「アレッ。」
ボクは全くおどろいた。しばらく立っていて、フト、
「そうだ。おれは浮浪児だ。だから、おとうさんもおとうともボクをすてて行ってしまったんだ。」
そう気がついた。ボクは自動車を追いかけたいと思った。しかしもう自動車の影も形もなかった。ボクはうろたえて、家の方にかけ帰った。途中の通りにも町々にもヨソの家があったか、無かったか覚えていない。とにかく、ボクの家の処にイッショウケンメイかけてってみた。だけど、ボクの家はなかった。焼跡には草がボウボウ生えていた。
いつの間にそうなったのか、ボクはフシギでならなかった。それでもボクは、一言、
「おかあさん。」
と呼んでみた。その声でボクは目がさめた。目がさめても、ボクはまだフシギで、家へ行ってみようかと考えていた。そしてボクはホントウに浮浪児なのかしらんと考え考え、いつまでもウトウトしていた。

ボクは夢を見た。いつ見た夢か、もう忘れてしまった。とにかく、入江のようなトコロだったよ。海の入江か、もしかしたら湖の入江かもしれない。彼方に山がたくさんあった。山の上には雪が白くつもっていた。波は立っていなかった。ピシャ、ピシャと岸をなめるような小波《さざなみ》が来るばかりだった。
柳の木が一本あった。その下で遠山くんが釣りをしていた。ボクは側に尻をすえて、それを見ていた。すぐウキが動き出した。
「おッ、動いている。遠山くん引いているぞ。」
ボクは教えてやった。しかし遠山くんは、ボクに返事もせず、スーッと竿《さお》をあげた。ピンピンはねてハヤがあがって来た。
「や、大きいぞ。ハヤだ。ハヤだ。遠山くんおれがはずしてやる。」
そういったら、遠山くん、ボクの方を見て、変な顔をした。
「遠山くんどうしたんだい。」
一番仲よしの遠山くんだったから、ボクはきいてやった。しかし遠山くんは返事もせず、竿を倒し、空でおどっていたハヤを、草の上におろしてしまった。そして自分でハリからハヤをはずした。ボクがそばに行って、
「大きなハヤだ。よかったねえ。」
のぞきこんでそういったけれども、やはり遠山くんは何もいわなかった。ボクはどうも変でならなかった。それでも、やはりそこに尻をすえて、遠山くんの釣りを見ていた。遠山くんはサッサとミミズをハリにつけて、直ぐ水の中に糸を投げこんだ。ボクは、遠山くん何か怒ってるんだなと思ったから何ももういわなかった。間もなくウキが動き出したけれども、今度は黙っていた。すると、遠山くんは、また大ハヤを釣り上げて、これをハリからはずしにかかった。と、これをはずし、はずし、ボクの方も見ないで、ヒトリゴトのように遠山くんがいった。
「お前、浮浪児だろう。」
「えッ。」
ボクはビックリした。でも、直ぐ、
「そうだ。浮浪児だった。」
と気がついた。とても淋しかったよ。どうしていいか解らなかった。しかしまた直ぐ遠山くんに腹が立って来た。そこで、
「浮浪児だったら、どうしたんだい。」
そう遠山くんにいってやった。だけども、遠山くんはもう何もいわない。返事もせず、直ぐミミズをつけて、また糸を水に投げこんだ。ボクはまたウキを見つめた。見つめたけれども、もう見ているのがチョットもおもしろくなくなった。何だか、涙が出て来そうになった。でも、一方では遠山くんにとりかかって行って、とっくみ合いをしようかと考えた。ホントに腹が立ってならなかったよ。一番仲よしの遠山くんまでそんなことをいうんだもの。それで気がついてみたら、
「ボクが浮浪児だったら、どうしたんだい。」
そういって、涙を流して泣いていた。
そこでボクは目がさめた。目がさめた時、いつもそうなんだが、どこにねているのか解らなかった。少したったら、やっぱり川岸の柳の木の下にねていた。草の中にねていた。三日月が柳の枝の葉の上の方で光っていた。ボクは起きて水のない川原に出て、そこの石を一つ拾って、遠くに光ってる水の中に投げてやった。水がわれてキラキラ光った。そこでボクは「バカッ」って大声でどなってやった。

これもボクの夢だ。いい夢だったよ。
ボクは学校の教室の中にいた。
遠山くんと列んでいた。算数の時間だった。先生が黒板に題を出された。初めタシザンで、大きな数字がとてもたくさん列んだ。それを十分間で計算するんだ。
「ハイ、始めて。」
先生がいわれた。ボクはズンズンやった。だって面白いほど早く、しかも、とても正確に出来るんだ。見る間にボクはやってしまった。そして手をあげた。先生はコックリをなさって、時計を見て、紙に何か書かれた。ボクがやった時間を書かれたらしかった。ボクは手をおろして、みんなのやるのを待っていた。みんなはズイブン時間をとった。それでも、二番目は遠山くんだった。三番目が岩川くんだった。それから手がドンドンあがった。
「ハイ、十分。」
先生がいわれた。それからボクが答えをいうことになった。問題は二十問もあった。だけど、ボクは一つも間違えていなかった。その上、時間がたった五分だった。
「よく出来ました。」
先生はほめて下さった。ボクは顔が赤くなるようだった。
次は、カケザンの問題が出た。これも十分で、大きな数字だった。それがボクにはエンピツも使わないで、暗算でスラスラ、スラスラ出来た。式の次に答を書きさえすればよかった。時間は五分とかからなかった。
「どうして、こんなによく出来るんだろう。」
ボクはフシギでならなかった。
「もうこれからは算数にクロウすることはないぞ。」
そう思うと、ボクはうれしくてならなかった。そのうちベルが鳴って、みんな校庭に出た。ボクも一緒に出た。すると、みんなはボクの処に集まって来て、
「野村くん、どうして、あんなに早く算数が出来たんだい。」
ときいた。
「ワケないよ。」
ボクはそういって、土の上に小石でさっきの問題の中のムズカシイのを一つ書いてセツメイしてやった。ボクはその時頭がすきとおってるようで、何でもかでもよくわかった。
「フーン、フーン。」
と、みんなはとても感心した。
それからみんなでドッジボールをすることになった。これでもボクはすばらしかった。ボクのとれないボールはなく、またボクの投げたボールで、相手にあたらないボールもなかった。ボクは一メートルからとびあがれたし、どんな強いボールでも、とても上手に身体をかわすことが出来た。面白かったよ。
ところが、そのドッジボールのサイチュウにベルが鳴った。すると、みんなは馳《か》けるようにして教室に入り、直ぐ荷物を持って帰り出した。ボクはおどろいて、
「どうしたんだい。」
ときいたが、誰も返事をしてくれない。みんなドンドン帰ってしまう。それでボクも荷物を持って教室を出た。教室を出たけれど、どうしたんだろう、ボクは帰る家がわからなくなってしまった。ナゼ家を忘れてしまったんだろうと思って、一生ケンメイ思い出そうとしたけれども、どうしても思い出せない。ボクはどうしようかと思ってうろたえた。そしてロウカを一人でアッチへ行ったり、コッチへ行ったりしていた。気がついたら学校はシーンとして、一人も人がいなかった。その時ボクはホントに淋しかった。だけど、これはボクの夢で目がさめたら、もっと淋しかった。

ボクはまた夢を見た。その夢のことを書いてみよう。
その時ボクは公園の桜の木の下のベンチの上にむしろをかぶってねていた。木には桜の花がマッ白に咲いていたよ。ボクはいいキモチだった。それで、そんな夢見たんだろう。とにかく、収容所の先生のような人が、その桜の花の下に机をおいて、イスに腰をかけていた。先生というのは、あの占師というのによく似ていた。机の上にはノートとペンを置いていた。その前にボクは立ち、他の友達は近くのベンチに列んで腰をかけていた。先生は連想検査というのをするんだといった。で、先生はいった。
「おれのいう言葉を聞いて、キミの頭に浮んだことを何でもいい直ぐいうのだよ。いいか。山といったら、川といってもいい。おとうさんといったら、いいおとうさんといってもいい。又は、おとうさんはこわいといってもいい。わかったか。」
「ハイ。」
「ではきくぞ。貰う。」
「え?」
「ものを貰うんだよ。」
「貰うの? 貰うの恥ずかしいな。」
「そうか。」
そういって、先生はノートにそのことを書きつけた。
「では、雪。空から降ってくる雪だ。白い雪だ。」
「雪はつめたいな。そうだ、ボクはこの冬、雪の中をハダシで歩いたことがあった。その時とてもつめたくて、足が痛かった。」
「ウン、それではケンカ。」
「ケンカ、ケンカはこわいや。ボクケンカ大嫌いだ。」
「よし、それではフトン。」
「フトン? フトンは温いね。ボクフトンの中にねたいよ。」
「では友達。」
「友達なら遠山くんだ。いい友達だった。どうしてるかと思うよ。あいたいな。やっぱりボクのように浮浪児になってるかしらん。だって、遠山くんの家もやけたんだよ。」
「よしよし、ではごはん。温いごはん。」
「ごはん! 温いごはんが食べたいよ。おかあさんがいつもよそってくださった。」
「よしよし、おかあさんはやさしいからな。では、本はどうだい。」
「本? 本もよみたいよ。いつか、おかあさんに童話の本を買って貰ったよ。」
「フーン、では、かゆい。」
「そう、ボクいつもカラダがかいいんだ。シラミやノミがとっついてるんだ。おかあさんが前はよく洗濯して下さったから、ノミもシラミもいなかった。」
「そうか、そうだったんだね。では白い。」
「そうだ。おかあさんの手は白かったよ。やさしい柔い手だった。」
「今度は星。空の星だ。」
「星ね。ボク、星を見るといつもおかあさんのことを思い出す。」
「そうか。何でもかでもおかあさんのことを思い出すんだね。」
先生はそういって、ボクの番はすんだ。次には北山が先生の前に行った。それから原田が行った。順々にみんな行った。ボクはベンチの上にねて、ウトウトしながら聞いていた。他のことは聞えなかったが、みんな何でもおかあさん、おかあさんっていってるようだった。ボクは「おかあさん、おかあさん」って一晩中聞いてるような気がして、子守歌を聞いているようにうれしくて、とても温かに眠った。花がチラチラ散っていい晩だった。
「おかあさんの処へ行きたいか。」
その人がいった。ボクは、
「行きたいです。」
と答えた。すると、
「では、つれてってやるから、ついて来い。」
その人はそういうのだ。ボクはフシギでならなかった。だって、おかあさんは三年も前センサイでなくなっているのだから。
「でも、ボクはおかあさんはいないんですよ。」
そういうと、
「いるよ。」
その人はそういう。
「じゃ、どこにいるんですか。」
「ヤマヤマケン、タニタニグンのモリモリムラのガケシタという処にいる。」
「へえー。」
ボクは考えた。どうも聞いたこともないような県だ。
「これはいったい何処《どこ》にあるんですか。」
とたずねた。
「すぐ近くだよ。行きたければつれてってやるよ。」
その人にいわれて、
「ホントかなあ、ホントかなあ。」
と、何度もいってみたけれど、その人は、
「ホントだよ。ホントだよ。」
という。それでトウトウついて行くことにした。
その人はとても早く歩く。ボクはおくれてはならないと思ってフッフかけるようにしてついて行った。気がついたら何処を見ても山ばかりの山の上を歩いていた。
「そうか、ここがヤマヤマ県なんだな。」
とボクは思った。でも、何百とニョキニョキ立っているのがみんなハゲ山ばかりで、木は一本もなかった。少し行くと、今度は谷ばかりの処へ出た。あれは台地というのだろうか。高原というのだろうか。大きな山のテッペンに原っぱのような処がつづいていた。そこには岩がたくさん、それも大岩がゴロゴロころがっていた。その中に、土がわれて四方八方が谷になり、これが深く大きく下の方へ広がっていた。
「ここがタニタニ郡だ。」
その人は教えてくれた。それからまた少し行くと、そんな谷いっぱいに森の茂っている処へ来た。森の上を大きな鳥が舞っていた。
「もうモリモリ村だな。」
ボクは思った。すると、その台地の端っこへ出た。そこは高い崖《がけ》になっていた。崖は切り立った一ツの大きな岩だった。下まで何百メートルあるかわからなかった。でも、その下にも森は一面に茂っていた。村もなければ、人間なんかすんでいるようにも思えなかった。
「あそこがガケシタという処だ。」
その森の方をむいて、その人は教えてくれた。
「おかあさん、あそこにいるんですか。」
ボクが聞いた。
「そうだ。」
その人がいった。
「あそこへはどう行ったらいいんですか。」
そういったら、その人はキノドクそうな顔をした。
「ここからトビ下りるんだな。仕方がない。元気を出せ。」
そういうんだ。
「ここからですか。」
ボクにはとてもトベそうに思えなかった。
「目をつぶってとべば恐くないよ。」
ボクは目をつぶった。
「ソラッ。」
そういって、その人はボクをつきとばした。
「アッ。」
といったら、ボクは目がさめた。おそろしかったのか、ドウキがドキドキ打っていた。

とても寒くなったので、気がついてみたら、ボクはいつの間にか、雪の中に立っていた。どこも、かしこも一面白い雪の世界だ。しかも見渡す限り山ばかりだ。遠い山、近い山、みんなおサトウの山のようにマッ白だった。でも、ボクは雪をフトンの綿のようにかぶった一本の大木の下に立っていた。
ボクの側にはリョウシのおじさんがいた。おじさんはスキー帽をかぶり、肩から網袋をカバンのようにぶらさげていた。その中に捕った鳥やケモノを入れるんだそうだ。足にはワラ靴をはいていた。ボクはどんな風をしていたのか、わからなかった。しかしとにかく寒かったから、やっぱりパンツとシャツぐらいでいたのか知れない。
「では、ウサギのとり方を教えてやる。」
おじさんがいった。おじさんはリョウシなのにテッポウは持っていなかった。その代り、手に一本の長い木の枝を持っていた。それはマッスグで、釣竿《つりざお》のように長かった。
「見てろ。」
そういって、おじさんはその棒をビューッ、ビューッと振り廻した。
「これは、タカが空から下りて来る羽根の音だ。これをきくと、下にいるウサギは恐ろしさに縮みあがり、身動きが出来なくなってしまう。そこをスバヤク両手でおさえ、この網の中に入れてしまうんだ。いいか、わかったか。では、やってみよう。」
おじさんが先に歩き出した。ボクは後について行った。百メートルばかり行くと、もう雪の上にチョンチョン小さいウサギの足跡がついていた。おじさんはそれをジッと見て、小さい声でいった。
「見ろ。これは今歩いたばかりの足跡だ。二十メートルとは行っていない。」
おじさんは手でアイズをした。ボクにそこで待ってろというらしい。ボクはそこに立止っていた。と、おじさんはソロソロ歩いた。ムコウに一本の大きな木があった。その根元に枝ばかりの茂った低い木が雪をかぶってヤネのようになっている。おじさんはそこへ目をつけているらしい。ソロリソロリ十メートルばかり歩くと大廻りをして、今度はその茂った木の後ろの方へ歩いた。ボクはキンチョウして寒さも忘れ、目をサラのようにして見ていた。おじさんは木の後ろで立止り、そこで枝を高く振上げた。やるな! と思う間もなく、
「ビューッ。」
恐ろしい音がした。と、同時におじさんは枝をすてて、雪中にとびこんだのだ。雪が水のシブキのようにはね散った。小枝がピンピンして、雪をはね飛ばしたのだ。しかしもうおじさんはその雪の中から一匹の白ウサギを両手でつかんで胸のところに抱えていた。ボクはそこへ馳けてって、いった。
「おじさん、うまいねえ、とてもじょうずにとるじゃないか。」
「フン。」
おじさんはそういって、ちょっと口をゆがめて笑った。それから肩の網を前に回して、ウサギをその中に入れた。ウサギはその中でアオムケになったまま足をちぢめて動かなかった。
「おじさん、ウサギもう死んじゃった?」
ボクは聞いてみた。
「ウム、今、首をしめたんだ。」
「かあいそうだなあ。」
「だって、生かしといたら大変だ。網の中であばれて、とても提げてなど行かれるものでない。」
 おじさんはもういなかった。ボクはホラ穴のある大きな木の後ろにかくれて待っていた。ホラ穴の中へウサギがヒルネにやって来るのを待っていた。ヒルネではない。もう日暮れだったからヨルネという方がいいね。
風も吹かない静かな晩だった。やがて月が出て来た。冷たい光の月だった。しかしマンまるくてよく光った。その辺ヒルマのように明るかった。すると、間もなくウサギがやって来た。ピョンッ、ピョンッと、とんでやって来た。一ピキ。大きなウサギだったよ。初めはまるい白い影のように見えていた。それが直ぐ、ハッキリして来て、まず黒い目が見えた。次に長い耳が見えた。これが十メートルばかりのところで立止り、前足を立てて、尻をすえて、あたりをちょいと見廻した。ボクは竿を立てたまま、辛いのもこらえて待っていた。
誰もいないと安心したのか、ウサギはまたピョンッ、ピョンッとやって来た。ボクは木の陰から首をのばして、よく見ていた。ウサギはホラ穴の口で立止り、暗い穴の中をやはり首をのばして見ているようだった。それから今度は後ろ向きになって、穴の方に尻を入れ外に首を出して、その辺を見廻した。そこで、ボクは竿をそーッとさしあげた。
「ビューッ。」
ウサギはブルッと身体をふるわせたようだった。二本の長耳も後ろに倒し、首を縮めてすくんでしまった。それをつかまえるのに少しの苦労もいらなかった。ボクはラクラクと、両耳をもってぶらさげた。それでもウサギはじっとしていた。おとなしさはまるで飼いウサギとかわらなかった。
木の陰の方に、大分はなれたところに、雪に埋めて、一つの箱がおいてあった。その中にボクはその大ウサギをつれてって入れた。そして上から板のフタをして、その上に石の重しをおいた。ウサギはちょっとジッとしていたが、直ぐあばれ出した。中でとんでるのかはねているのか、方方で頭を打ってるような音をさせ、それからガリガリ引っかくような音もさせた。ボクは、
「おとなしくしていろよ。」
そういって、また元の木の陰に来て身体を隠して待っていた。
「来たぞう。」二、三十メートルばかり先にまたもや影のような白い円いものが、見え出した。ピョンッ、ピョンッとやって来たのだ。
「おや一ピキではないらしい。」
どうやら小さい子供のウサギが二三ビキ、道についてとんでいる。
「ハ、来るぞ。来るぞ。」
「ピョンッ、ピョンッ。」
途中でキョロキョロしたり、穴をのぞきこんだり、穴の前に尻をすえて、一時外を眺めていたり、みんな前のウサギと同じことをやる。そこを見すまして、またボクは竿を振る。
「ビューッ。」
ウサギは親ウサギも小ウサギもみんなで五ヒキ列んだまま耳をふせ、首をちぢめてすくんでいた。そこをボクは耳をつかんでぶらさげ、片手に三ビキ、片手に二ヒキもって、雪の中の箱のところへ運んだ。そして箱の中にポンポンほうりこんで、前と同じにフタをして、重しを置いた。
「どんなもんだい。もう白ウサギ六ピキだ。」
ボクは嬉しくてならなかった。
 またボクは木の陰にかくれた。木の枝の棒は考えてみれば魔法の杖《つえ》のようなものだ。ビューッと音を立てさえすれば、ウサギがとれるんだ。そこでボクは考えた。
「もしかしたら、この竿でシカやイノシシや、キツネやタヌキがとれるかもしれない。そうだ。今度シカやイノシシが来たら、ビューッとやってみよう。」
しかし、そうだ。ウサギの箱はもう一パイになっている。もしシカやイノシシがとれたら、どうしよう。その時ソバの木を見たら、何本も藤のツルが上から下からブラさがったり、はいのぼったりしていた。
「これだ。これでイノシシをしばってやろう。」
ボクは藤ヅルを引っぱり、それを切って、何本も綱をつくった。もういい。これなら何ビキのシカ、イノシシが来てもいい。というくらい綱が出来た。そこで、ボクは木の陰に忍んで待っていた。
「来い来い。早く来い。シカとイノシシと、キツネとタヌキ。」
間もなくやって来た。二十メートル先を、何だか知れない犬のようなものが、くびをさげて、雪道をかぎかぎ馳けて来る。フンフンいうそのはなをならす音が聞える。
「はてな。こいつ何だろう。もし狼《おおかみ》や山犬なんかだったら困るな。」
ボクはくびを傾けた。しかし近よったところを見ると、そんなに大きな動物ではない。まあ小犬ぐらいだ。トットと馳けている。
「よし来た! 元気にやろうぜ。」
ボクは竿をあげた。木の前に来たところでそれッ、ビューッと来た。一たまりもない。その小犬のような奴がキュッと首をすくめ、雪の上にちぢこまってしまった。そこをとび出して行って、藤ヅルでガンジガラメに、首から胴をしばりあげた。そして、これを引きずって、大分離れた木のところにいき、その幹にツルのハシをくくり付けた。その時よく見たら、どうもソイツはタヌキらしかった。とてもヘンチキリンな顔をしていた。
大分おもしろくなって来た。ボクはまた木のところに帰って来てその後ろに隠れていた。今度は何が来るだろう。もしクマなんかが来たら、どうしたらいいだろう。今迄クマについては考えていなかったので、そう思うと、ボクは俄《にわ》かにおそろしくなった。タヌキが来た以上、クマも来ると考えられないことはない。さて、どうしたら——と考えていると、あれ、もう何かやって来た。ここはケモノの通り路になっているらしい。キット、やつらの国道筋なんだ。だが、今度来たヤツは、そうだ背の高い足の長い首も相当に長いケモノだ。トットと軽快に走って来る。月の光の中で、頭をガムシャラに振るのが見える。
「何だろう。」
そうだ。シカだ。今光った枝のように見えたのは、あれはツノだ。サッサッ、トットッ走ってくるぞ。首を振り振り、おう、もう木の前に来た。大シカだ。ツノの形の立派で、勇ましい大シカだ。どうしよう。どうしよう。ええい! 元気を出せ。そこで、ボクは魔法の竿をビューッ、ビューッと二回も振った。どうだ。どんなもんだ。その大シカが雪の上に膝《ひざ》を折って、小さくすくみこんでしまったではないか。
こうしてボクは、ウサギ、タヌキのほかにシカをとり、イノシシをとり、キツネをとりした。みんな雪の中の杉の木にくくりつけたのち、町へ仲間を呼びに行った。仲間は何十人と来た。これらの仲間とボクはそれらのケモノを綱で引きつれて、町へ行列をつくって入って行った。町は黒山の人だかりだった。
これはボクの夢だ。ホントウはヒルに見た夢なんだ。
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