それから、しかし何年という年月がたちました。王子はしだいしだいに大きくなり、もうまったくりっぱな青年になりました。王さまも年をとりました。その間、おりおり水の怪物との約束のことをおもいだしましたが、それでもしだいにそんなことはわすれて、みんな幸福な日をおくっておりました。
ところが、ある日のこと、王子は馬にのって猟に出ました。昔、王さまがやったように、あの広い広い野原のなかへ猟に出ました。すると、やはり王さまのように、のどがかわいてまいりました。そしてまた王さまのように、ひとりで林のあいだのあき地の|しばふ《ヽヽヽ》に、出てしまいました。あふれるような泉がわいておりました。そこで馬からおりて、その水を浮いている金のわんで、たらふく腹につめこみました。それから、
「ああ、うまかった。」
と、立ちあがって、馬に乗ろうとしますと、そこに、ひとりの老人が、立っていました。
「や、ミラン王子、こんにちは。」
老人はそうあいさつしました。しかし王子は、まったく見もしらない老人のことですから、ふしぎそうにして立っておりました。
「ながい間まったものだ。もう何年になるだろうか、いよいよ時がやってきた。わしのところに来るがいいぞ。」
老人は、こんなことをいいました。
「そういう君は、いったい何ものだ。名前をいえ、名前を——。」
王子がいいました。
「いや、いわなくってもわかっている。家にかえって、父の王にいうがいい。時がきた、約束によって、王子をもらうとな。で、きょうはこれでわかれる。すぐまたあおうぜ。」
老人はこんなことをいうと、ふっと煙のようにきえてしまいました。ふしぎなこともあるものだと、王子はあやしいことに思い思い、馬をじぶんの御殿のほうへと急がせました。
さて帰って、父の王さまにこのことをはなしますと、王さまがどんなに悲しんだことでありましょうか。かおを土色にかえてもうしました。
「王子よ、王子よ、時がきたのだ。まったく老人のいうとおりだ。私はお前がうまれる前、お前をやると約束したのだ。しかし、今さら、どうしてお前がやれるだろう。」
そして王子の手をとって、王さまは涙をながしました。
「いえいえ、おとうさま。」
この時、王子はいいました。
「けっしてご心配なさいますな。私に一頭の馬をください。私はいっても、かならずぶじに帰ってまいります。」
そこで王さまは、王子に金の馬具をおいた、たくましい一頭の馬と、一振りの刀をやりました。また、おかあさんの王妃は、金の十字架をやりました。王子はその馬にのり、金の十字架をくびにさげ、腰には刀をつるして、とても勇ましく出て行きました。
ところが、ある日のこと、王子は馬にのって猟に出ました。昔、王さまがやったように、あの広い広い野原のなかへ猟に出ました。すると、やはり王さまのように、のどがかわいてまいりました。そしてまた王さまのように、ひとりで林のあいだのあき地の|しばふ《ヽヽヽ》に、出てしまいました。あふれるような泉がわいておりました。そこで馬からおりて、その水を浮いている金のわんで、たらふく腹につめこみました。それから、
「ああ、うまかった。」
と、立ちあがって、馬に乗ろうとしますと、そこに、ひとりの老人が、立っていました。
「や、ミラン王子、こんにちは。」
老人はそうあいさつしました。しかし王子は、まったく見もしらない老人のことですから、ふしぎそうにして立っておりました。
「ながい間まったものだ。もう何年になるだろうか、いよいよ時がやってきた。わしのところに来るがいいぞ。」
老人は、こんなことをいいました。
「そういう君は、いったい何ものだ。名前をいえ、名前を——。」
王子がいいました。
「いや、いわなくってもわかっている。家にかえって、父の王にいうがいい。時がきた、約束によって、王子をもらうとな。で、きょうはこれでわかれる。すぐまたあおうぜ。」
老人はこんなことをいうと、ふっと煙のようにきえてしまいました。ふしぎなこともあるものだと、王子はあやしいことに思い思い、馬をじぶんの御殿のほうへと急がせました。
さて帰って、父の王さまにこのことをはなしますと、王さまがどんなに悲しんだことでありましょうか。かおを土色にかえてもうしました。
「王子よ、王子よ、時がきたのだ。まったく老人のいうとおりだ。私はお前がうまれる前、お前をやると約束したのだ。しかし、今さら、どうしてお前がやれるだろう。」
そして王子の手をとって、王さまは涙をながしました。
「いえいえ、おとうさま。」
この時、王子はいいました。
「けっしてご心配なさいますな。私に一頭の馬をください。私はいっても、かならずぶじに帰ってまいります。」
そこで王さまは、王子に金の馬具をおいた、たくましい一頭の馬と、一振りの刀をやりました。また、おかあさんの王妃は、金の十字架をやりました。王子はその馬にのり、金の十字架をくびにさげ、腰には刀をつるして、とても勇ましく出て行きました。