二
ビックリして、王さまが水の底を見ますと、底の底のほうで、大きな手がシッカリと、王さまのひげをつかんでおります。
「何がほしいんだ。」
王さまがいいました。と、水の底から、またおそろしい声が、聞えてきました。
「今までは何も、ごぞんじないもの。あなたが御殿に帰って、きょうはじめてごらんになるもの。それが私はほしいのだ。」
王さまはちょっと考えてみましたが、王さまの御殿で、王さまのしらないものなんか、一つだってありません。
「なあんだ。そんなものか。それなら望みにまかせるぞ。」
王さまがそういうと、ひげがスーッと水からあがってまいりました。
「やれ、やれ。」
王さまはかがんでいて、いたくなった腰をのばしました。それから、馬にとびのると、また全速力でかけてかえりました。途中でちょっと水の中の怪物のいったことが気にかかりましたが、まったく、御殿でしらないものは、一つだってありません。まあ、てんじょう裏のねずみの子か、それとも、庭の木の上の小鳥くらいのものでしょう。そんなものなら、いくらだってやると、また馬をはやく走らせました。
さて、こうして王さまがたくさんの家来と、たくさんのえものをあとに、王さまの御殿に帰ってきました時、玄関に王さまをまっていたのは、はたしてどんなものでありましたろう。それは、今日、しかもさっき生れたばかりの、かわいい王さまの子供だったのです。
「あなたが、ごぞんじないもの。きょうはじめてごらんになるもの。」
水の底の怪物のいったのは、ああ、まったくこの王子のことだったのです。
「王さま、おめでとうございます。」
「王子さまのおたんじょうでございます。」
玄関におむかえにでた家来たちが口々にこういったのも、今は王さまの耳にはいりませんでした。
「王子さまを、ごらんくださいませ。」
こういって、ひとりの老女中が王さまの目のまえに王子をだいてまいりました。が王子のほうを見ると、王さまの目は、クラクラくらむようなこころもちがいたしました。
「ああッ。」
王さまは、部屋にはいると、おもわず両手でかおをかくし、涙を滝のように流しました。
「あのかわいい王子を、わしは一ぱいの水と、とりかえっこをしたのだ。」
王さまは心のなかでおもいました。しかし口にだしては、だれにもいいませんでした。
「何がほしいんだ。」
王さまがいいました。と、水の底から、またおそろしい声が、聞えてきました。
「今までは何も、ごぞんじないもの。あなたが御殿に帰って、きょうはじめてごらんになるもの。それが私はほしいのだ。」
王さまはちょっと考えてみましたが、王さまの御殿で、王さまのしらないものなんか、一つだってありません。
「なあんだ。そんなものか。それなら望みにまかせるぞ。」
王さまがそういうと、ひげがスーッと水からあがってまいりました。
「やれ、やれ。」
王さまはかがんでいて、いたくなった腰をのばしました。それから、馬にとびのると、また全速力でかけてかえりました。途中でちょっと水の中の怪物のいったことが気にかかりましたが、まったく、御殿でしらないものは、一つだってありません。まあ、てんじょう裏のねずみの子か、それとも、庭の木の上の小鳥くらいのものでしょう。そんなものなら、いくらだってやると、また馬をはやく走らせました。
さて、こうして王さまがたくさんの家来と、たくさんのえものをあとに、王さまの御殿に帰ってきました時、玄関に王さまをまっていたのは、はたしてどんなものでありましたろう。それは、今日、しかもさっき生れたばかりの、かわいい王さまの子供だったのです。
「あなたが、ごぞんじないもの。きょうはじめてごらんになるもの。」
水の底の怪物のいったのは、ああ、まったくこの王子のことだったのです。
「王さま、おめでとうございます。」
「王子さまのおたんじょうでございます。」
玄関におむかえにでた家来たちが口々にこういったのも、今は王さまの耳にはいりませんでした。
「王子さまを、ごらんくださいませ。」
こういって、ひとりの老女中が王さまの目のまえに王子をだいてまいりました。が王子のほうを見ると、王さまの目は、クラクラくらむようなこころもちがいたしました。
「ああッ。」
王さまは、部屋にはいると、おもわず両手でかおをかくし、涙を滝のように流しました。
「あのかわいい王子を、わしは一ぱいの水と、とりかえっこをしたのだ。」
王さまは心のなかでおもいました。しかし口にだしては、だれにもいいませんでした。