もっと軽いものに、いわゆる書《しよ》痙《けい》がある。一人で自室にいるときはなんでもないが、他人の目の前では文字が書きづらい。手指の硬直や痛みが、それほどひどくはないにしても存在する。当然、文字はミミズがはったようにへたになる。葬式や、結婚披露宴の芳名簿に文字がうまく書けない。デパートの店員で、客の前で、注文書類をうまく書けないという人もいる。
この種の人に共通する特徴は、一〇〇パーセント完全主義者で、人前で、書道の先生のように、みごとでりっぱな文字が書けなくては恥ずかしい、という思いが強いことだ。「個性のある文字を書けばけっして恥ずかしいことはない」と説得することが、私の治療のコンセプトだ。武者小路実篤さんの文字など、書道の先生から見ればそれほどうまいものではない。しかし、氏の文字に人気があるのは、いかにも氏らしい個性がにじみ出ているからだ。
この種の人に共通する特徴は、一〇〇パーセント完全主義者で、人前で、書道の先生のように、みごとでりっぱな文字が書けなくては恥ずかしい、という思いが強いことだ。「個性のある文字を書けばけっして恥ずかしいことはない」と説得することが、私の治療のコンセプトだ。武者小路実篤さんの文字など、書道の先生から見ればそれほどうまいものではない。しかし、氏の文字に人気があるのは、いかにも氏らしい個性がにじみ出ているからだ。