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無花果少年と瓜売小僧03

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  3「ねェ、木川田さァ」次に磯村くんが一人で住みたいと言い出した相手は、木川田くんでした。「僕、一人で住みたくって」磯
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  3
「ねェ、木川田さァ」
次に磯村くんが一人で住みたいと言い出した相手は、木川田くんでした。
「僕、一人で住みたくって」
磯村くんは言いました。
磯村くんは、まだ一人で物事を決めることが出来なかったのです。
「いいんじゃないの」
木川田くんは言いました。場所は、新宿の高層ビル街の喫茶店で、木川田くんはいつものように、気取って煙草をふかしていました。
「うん」
磯村くんは言いました。
「なんかサァ、一人で住んでみたいって、思うんだよねェ」
可哀想に、磯村くんは目の前に人間がいるのに、なんにも答えてもらえないで、ただ一人言を言っていたのです。
「そうだよなァ」
木川田くんも言いました。
「俺も一人で住みてェなァ……」
やっぱり木川田くんも、一人言しか言えなかったのかもしれません。
「あ、君ならサァ、一人でも住めんじゃないの」
木川田くんの言葉に、パッと胸の中に電灯がついたみたいな気のした磯村くんが言いました。
「どうして?」
自分の一人言の邪魔をされた木川田くんは、なんか、おもしろくもなさそうな顔をしてそう言いました。
「だってサァ、君だったら金持じゃない」
「こういうこと言うから、こいつはダセェんだよなァ」
木川田くんは、磯村くんの無邪気さを少し憎たらしく思いました。
「金なんかねェの」
木川田くんはそう言いました。
「フーン」
「木川田の�何か�を知ってると思ったのに、でももう自分の知ってる情報って、決定的に時代遅れになっちゃったんだよなァ」、そう思った磯村くんは、少しがっかりして黙りました。
「僕っていつも遅れてんだ」——そう思うと磯村くんは、いつも確実に、つらくなるのです。「自分てホントに、世間知らずだなァ」と思って。
磯村くんにしてみれば、あれだけ金遣いの荒い木川田くんなら——洋服だってバンバン買っちゃうし、タクシーだって平気で乗っちゃうから——絶対に、お金持だと思っていたのです。もしも自分があれだけお金を使えるのなら、自分は当然、その三倍ぐらいの貯金を持っている筈だ——そうじゃなかったら安心してお金は使えないって、磯村くんは思っていました。だから、なんの根拠もないのに磯村くんは、木川田くんのことを�お金持�だと思っていたのです。
「バーカ」——磯村くんは木川田くんにそう言われたみたいな気がしました。
「世の中はそんな風に出来てんじゃねェの。お前みたいのが知らねェことって一杯あんの。お前なんかなんにも知らねェの」——磯村くんは、木川田くんにそう言われてるみたいな気分になって来るんです。そして実際、磯村くんのことをそれに近い感じで木川田くんが思っていたということもあります。
ありますけども、磯村くんは「木川田はそんな風には思わないだろうけどサ」と思っていましたし、木川田くんは「こいつには絶対そういうことって分んねェんだよなァ」と思っていました。
ホントのことがいつだってストレートに伝わるとは、限らないのです。
「あーあ」
木川田くんが言いました。
「でもさ」
強化ガラスの窓の外を眺めている木川田くんに向って、磯村くんは言いました。「木川田はこういうとこの景色見ててもなんか感じんのかもしんないけど、でも僕はあんまり�都会の光景�なんか好きでもないもんなァ」——磯村くんはそう思っていました。
「僕——」
レモンスカッシュのストローを突っつきながら磯村くんが言いました。
「木川田が、どっかに住んでてくれたら、楽なんだけどなァ……」
「なんで?」
木川田くんが振り返って言いました。よくある、�無表情な顔�です。現実によくある�無表情な顔�ではなくって、芸能人がよくやる、ナウい�なんにも考えてないけど深い意味がある�というような、ハイテックな無表情です。
「うん……」
うつ向いて言いたいことを、パッと木川田くんに振り返られてしまったのでそうすることが出来なくなってしまった磯村くんは、少し困りました。それで、磯村くんはグラスの中にある透明な氷を眺めるしか出来なくなりました。木川田くんにそういう顔をされると、磯村くんは、なんか、自分の中にある�よく分んない部分�が見透かされるみたいで、いやだったんです。
「別に、深い訳がある訳じゃないんだけどサ……」
磯村くんは言いました。
「ふーん……」
木川田くんだって何か、磯村くんに�決定的なこと�を言ってもらいたかったのかもしれません。�決定的なこと�というのが何かは分らなくても、やっぱり木川田くんだって�すべてがこのまんまじゃヤだ�とは思っていたからです。
「たださ、やっぱりサ、なんかね」
磯村くんは言いました。「黙ってればうまく行くのに、でも黙ってるとやっぱり気づまりで、でも、口をきいた途端もっと気づまりになるな」って、口を開いてからそう思いました。
 もっと簡単にすべてがうまく行く人間関係だってあったっていいじゃないか!! なんだって僕たちはそういうことが見つけられないんだよォ!!
 意味もなく大きな字で、磯村くんの無意識は叫びました。
普通、無意識というのは誰の耳にも聞こえないことになっているので、誰もこういう字幕が出たことは知りませんでした。
誰も簡単なことを知らないでいるから、物語というものは煩雑《はんざつ》なものになって行くのです。
 磯村くんは、自分が作り出してしまった沈黙に耐えられなくなってしまいました。
「なんかサァ……まァね、僕……、やっぱり、君ン家《ち》に電話すんのって、いやなんだよね」
磯村くんは言いました。
「うん」
木川田くんも言って、二人揃って「行き止まりからやり直すしかないな」と、二人は別々にそう思いました。
大体、磯村くんは木川田くんが好きだったんです。そして、そもそもの初めを尋ねれば、誰でもいいから、磯村くんは誰かを好きになりたかったんです。誰かを好きになりたいのに、でも誰も、磯村くんが好きになれるようにしてはくれなかったんです。「みんな、こういうことで仲がいいのか」って思って、磯村くんは、あんまし面白くもなさそうな世の中全体を眺めていました。�親子�とか�家族�とか�兄弟�とか�学校�とか�友達�とか�その他いろいろ�とか。�女の子�というのは、ただ自分が好きになってもらえるのを待ってるだけで、好きになったからってちっとも�面白いもの�を磯村くんにくれたりはしませんでした。ほしくもないものばっかり山と積んであって、それで、「さァ、ここにあるのはあなたのほしいものばっかりですよ!」と大声で怒鳴っているバーゲン・セールのようなものでした——磯村くんにとっての�世の中�というものは。
そんな磯村くんにとって、ただ一人、木川田くんだけは�関係のない人�でした。だから磯村くんは、木川田くんを好きになったのでしょう。
他の人はみんな、磯村くんから�何か�を持って行きます。磯村くんにとって、他人との付き合いというのはそういうものでした。
いつも他人がやって来て、その他人という人は、磯村くんから見ればいつも�確固�としていて、その確固としている基準を元にして、磯村くんを「こっち来いよ!」と交友関係の中に引っ張って行くのでした。
別に�交友関係�に限らず、すべてにわたってそうでした。磯村くんは、いつだって受け身だったんです。
別に、磯村くんはいつだって受け身でいなくちゃならないほど臆病な人間ではなかったのですが、磯村くんがなんかしようとする前に、いつだって世の中は�出来上って�いたり�確固�としていたりしたもんだから、「ああ、自分の都合だけで人に迷惑をかけたりしちゃいけないな」と思って、磯村くんはいつも、受け身になっていたのでした。
中学生の時女の子にいたずらされたのだって、高校生になって松村くんに押しかけられて来たのだって、よく考えてみればみんなおんなじことでした。
「なんか、よく分んないけどみんなそうしてろって言うからな」って、磯村くんは思ってました。�そうしてろ�っていうことがどういうことなのかは分らないのですが、そうしてた内に、自分はなんにも出来なくなっていたんだっていうことに磯村くんは気がついたのです。木川田くんと付き合って、そういうことが分ってしまったのです。
木川田くんは、磯村くんにはなんにもしてくれませんでした。磯村くんになんにも要求しないかわりに、なんにもしてはくれませんでした。木川田くんは決定的にそっぽを向いていて、磯村くんのことなんか、相手にしてはくれなかったからです。
木川田くんは、ズーッと別の方ばっかり見ていました。木川田くんというのはそういう人なんだと、磯村くんは思っていました。だから、木川田くんと付き合っていれば、磯村くんは自分が自由になれると思っていたのです。
なにしろ木川田くんはそっぽを向いているのです。磯村くんが何をしようと、指図《さしず》がましいことは一切言いません。磯村くんが何かを相談すればその相談には乗ってくれますが、でも、木川田くんは、磯村くんとは全く関係がないんですから、別になんにもない時に一々磯村くんに何かを言う理由というのはなかったのです。
木川田くんは、�先輩�の滝上くんが好きでした。それだけで、それ以外は一切がどうでもよかったんです。
だから木川田くんは、自分がどんな風にして生きているのかなんてことは、少しも考えませんでした。滝上くんのいないところは�現実�ではないのですから、別に�生きる�もへったくれもなかったのです。
木川田くんは、ロマンチックな自分自身の妄想の中で生きていました。滝上くんがぼんやりしていてなんにも分らないでいたことが、木川田くんの妄想を増殖させるのに役に立ちました。何があろうと、木川田くんには�自分自身のロマンチックな砦�というものがありましたから、どんな悲劇でも、そこへ逃げこんでしまえば、つらくなる必要なんかはなかったのです。
そんな木川田くんは、曖昧《あいまい》でぼんやりしているくせに、どこかで断固として確固とした人間でした。だから、そんな木川田くんを前にすると磯村くんは——ほとんど想像を絶した比喩ですが、まるで�話の分る奔放なお母さん�と一緒にいるみたいな安らぎを感じられたのでした。
その�お母さん�はよその男の人と恋愛をしています。その�お母さん�の過剰な�母性愛�が男の子に降りかかって来る心配はありませんでした。よく考えたら、磯村くんと関りを持っている人はみんな、磯村くんにとっては�過剰な母性愛の人�だったのです。だから磯村くんは、「悪いな」と思って、受け身になっていたのです。
でも、木川田くんという変った�お母さん�は違いました。この�お母さん�はよその男の人と勝手な恋愛をしているので、男の子を盲愛する畏《おそ》れがなかったのです。この�お母さん�の子供である磯村くんにしてみれば、この�奔放なお母さん�は、奔放だからこそ初めて、�話の分る友達�でもありました。そして、この�お母さん�には�旦那さん�がいなかったのです。�旦那さん�がいなかったから、この�お母さん�は、よその男の人と勝手な恋愛をしていたのでした。
勝手な恋愛をしていて、時々うまく行かなくなると「ねェ薫、お母さんどうしよう?」って相談を持ちかけて来るような、そんな�子供みたいなお母さん�でもありました。
たとえ磯村くんが本当に�子供�であっても、一方的にお母さんから「ああしなさい! こうしなさい!」ばかりではいやになります。だから、磯村くんにとっては、木川田くんという�子供と対等になってくれるお母さん�というのは嬉しい存在だったのです。木川田くんが�ニコッ�と笑うと磯村くんがホッとしたというのは、実はそういう訳でした。
「お母さん、心配しなくていいんだよ。お父さんがいなくたってサ、僕達二人でチャンとやって行けるじゃない」——そう言って�お母さん�を励ましてあげられると、「僕だってチャンとした男の子だ!」っていう自信が磯村くんには生まれるのでした。
でも、この�お母さん�は——奔放な恋愛をして自由に生きていた(筈の)�お母さん�は——その男の人に、捨てられてしまいました。今まで�自由に生きてるお母さん�と二人だけだった明るい母子家庭は、暗い母子家庭に変ってしまいました。
これで�お父さん�がいてくれたらなんとかなったのに、でも、この�お母さん�には初めっから�お父さん�がいなかったのです。いなかったから、この男の子達二人は、�母子家庭�の比喩《アナロジー》で語られなければならなかったのです。
ここでいう�お父さん�がなんなのかは、よく分りません。まだ、よく分らないことにしておきます。ただはっきりしていることは、磯村くんと関係のある他のすべての�お母さん�達には、みんなお父さんがいたということです。
�お父さん�がいるのにも拘らず、その�お父さん�をほっぽり出して、�男の子�である磯村くんにだけ一方的な愛情を注ぐばっかりだから、それで磯村くんは、他の�お母さん達�がいやだったんです。
「�お父さん�はどうなるんだよ! そういうものほっぽらかして僕にばっかり向って来たって、�近親相姦�やる訳に行かないだろ!」
磯村くんは、そういう比喩をもし使えるのなら、そういう言葉を使って怒鳴っていた筈でした。そして、「そういう覚悟があるんならいいけどサ、でも、そんな気もないくせに�あら、いやらしいわね�ばっかりで、自分のベタベタした感情を隠そうとするんだ!」って、健全な�お母さん達�を憎んでいました。抱きしめんばかりに愛しているくせに決して抱きしめようとはしてくれない、健全な�お母さん達�を。
磯村くんにとって、木川田くんは本当に�お母さん�でした。「行くとこまで行ったっていいじゃないよ、愛してるんだから」って、平気で言ってくれちゃうような、そんな�奔放なお母さん�でした。
でも、やっぱり磯村くんだって�近親相姦�はいやだったんです。�お父さん�がいなくて孤独だからって、いつまでも自分のベッドの中で泣いているだけの�お母さん�はいやでした。磯村くんが好きだったのは、そんな�うっとうしいお母さん�ではなかったからです。
「行くとこまで行ったっていいじゃないよ、愛してるんだから」と平気で言えちゃうお母さんは勿論、そんなことをしようとは思わないお母さんでした。行くところまで行った時、磯村くんはそれに気がつきました。
磯村くんはズーッと、「僕は平気だ!」と思っていました。「僕は平気だ!」と思えない自分は、常識にとらわれているつまんない自分で、うっかり「困ったなァ……」と思いかけた時、磯村くんはそういう�つまんない自分�が自分の中にいたことを知ったのです。九月のある晩、道で木川田くんにキスされた時、磯村くんは一瞬「困ったなァ……」と思いかけたのです。
思いかけて、「僕は平気だ!」と思ったのです。他に誰もいない夜の道で、磯村くんは「僕が君を守ってやるからね」と、そっと一人で思ったのです。
でもよく考えたら、木川田くんは「守ってほしい」と磯村くんに言った訳でもないのです。ただ磯村くんには、木川田くんが全身で「僕のことを助けてよ」って、言ってるように思えたのです。
確かにその時木川田くんはそう思っていたのでしょう。そう言っていたことでしょう。でも、木川田くんがそのことを、はっきりと、磯村くんに向って言ったという訳でもないのです。
木川田くんは、自分以外の誰かに言いたくって言いたくって、それを言わせてくれたのがたまたまそこに居合わせていた磯村くんだった——という方が正解でしょう。
木川田くんは、磯村くんにただ「つらい」と言いたかっただけで、別に、磯村くんに助けてもらいたかった訳でもないのです。その時助けてくれる人がいたら、それは誰でもよかったというだけなのです。
磯村くんも、うっすらとそんなことは感じていました。感じていて、その方が好都合だと、どこかで思っていました。だって、男の木川田くんに百パーセント愛されちゃったら、磯村くんだって困ったからです。磯村くんは、別に男の人と愛し合いたいと思っていた訳ではないからです。
でも、別に男の人と愛し合いたいとは思っていなかった磯村くんだって、年頃の男の子です。別にセックスをしたくないと思っていた訳ではないのです。
電気がついてる時は明らかに相手が�男�ってことは分るけれども、電気が消えちゃったら、別に相手がなんだって分りゃしないサと、磯村くんだって男だから、そんな風には思っていました。勿論、男というものはみんなそういう風に思っているものですけれども、磯村くんにはそんな�常識�が存在するんだなんてことは知りようもありませんでした。
電気が消えて、なんだか分らないものが自分のそばにいて、なんだか気持のいいことをしてくれるんだったら、磯村くんは、なんの責任もとらないですむ訳ですから、こんなに楽なことはありません。磯村くんはそんな時、「ああよかった、木川田が別に僕のことを愛してるっていう訳じゃなくって」と、そんな風に思いました。磯村くんは、自分でセックスをするのがつらかったんです。
一人でなんかしてると、やっぱり、寂しくなっちゃうんです。寂しくなっちゃうから、一人で、なんかするのなんか、いやだったんです。だからと言って、女の子とするのもいやなようでした。女の人が嫌いという訳ではなくて、磯村くんが、自分の潔癖さを捨てる気にはなれなかったからです。
女の子が「いい」って言ってくれたら、磯村くんに「やらして上げる」って言ってくれたら、磯村くんは、その瞬間から�嘘つき�になるのです。
決定的に好きになれるような女の子は一人もいなくって、「ひょっとしたら好きになれるかもしれないなァ」と思えるような女の子は、(まァ目をつむってうるさいことを言わなければ)結構いて、でも、そんな女の子と�好き�になる前にやっちゃったら、自分は絶対にその女の子を好きになる筈がないと、磯村くんは、確信をもって、知っていたのです。「だって、バカな女とメンドクサイつきあいするよりセックスしてる方がズーッといいもん」——それが、一番正直な答というものだからです。
「一遍セックスしちゃったら、自分が嘘つきにならない為にも、絶対に嘘臭い�付き合い�を、その女の子と当分は続けるだろうな」
それが分っていて、それをする自分がバカの極みで許せなくて、「そういう自分でだけはありたくない。だってそんなウソクサイ男はゴマンといるもん」——磯村くんはそう思っていました。
早い話、嘘をつくだけの器量——能力といいましょうか——のなかった磯村くんは、潔癖になっているしかなかったのです。
そこら辺を女の子に突っつかれて「嘘つき!」なんて言われたら、今迄突っ張って来た自分の�一貫性�がぶっ壊れちゃうと思っていたのです。
早い話、�一貫性�なんかを問題にする、磯村くんの頭のよさがいけなかったのです。
磯村くんは、だからそこのところを、口を噤《つぐ》んで黙っていることにしました。口を噤むことは、みんなが揃ってやっていることです。
ヤバイのが確実だって言うような勝ち目のないことに対しては沈黙が最上なんだということぐらい、勿論、頭のいい磯村くんには分っていました。
だから、ベッドの中では訳知りになってしまう木川田くんは、磯村くんにとって、とっても都合がよかったのです。少なくとも木川田くんは、ベッドの中で「愛してる」なんてことを言い出すような、バカな女みたいな真似はしませんでした。たとえ木川田くんが「愛してる」なんて言ったとしたって、「まさかァ、男が男のことを�愛してる�なんてヘンだよォ」という健全さが、そんな言葉の持っている奇妙な信憑性《しんぴようせい》を払ってくれるから、磯村くんには、相手が男だということがとっても楽だったんです。
相手が男だったら、相手が木川田くんで、男だったら、いくらでもシラが切れるから、磯村くんは�嘘つき�にも�いやな男�にもならずにすめたから、とってもとっても楽だったんです。
だったらなんにも問題なんかないじゃないかと言われたら、それで一番困るのは磯村くんです。
自分のずるさも、潔癖さも、大胆さも知っている磯村くんでしたが、それでもたった一つだけ分らないことが磯村くんにはありました。「確かに分らないことがある。それがなんだか分らないから僕は悩んでるんだ」——磯村くんは、ただその一点で途方に暮れて、悩んでいるといえば悩んで、いたのでした。
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