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無花果少年と瓜売小僧10

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  10 おばさんの会社に電話をした磯村くんは、夜になってからおばさんの家に行きました。おばさんは、四年前にということは磯
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  10
 おばさんの会社に電話をした磯村くんは、夜になってからおばさんの家に行きました。おばさんは、四年前に——ということは磯村くんが高校一年の時に——お母さんが亡くなってから、ズーッと一軒家に一人住いでした。
磯村くんは、おばさんに向ってこんなことを言いました——「学校が遠くてサ、毎日通うのがやんなっちゃうんだよね。うんざりするしサ、余分なロスだってあるじゃない? だからサ、落着いて勉強したいから一人で住みたいんだよね。一人でだってなんだって出来るしサ。そういう風に�子供�じゃないんだよね。アルバイトだって、やれって言えばやるしサ、生活費ぐらい稼げる自信はあるんだよね。でもサ、なかなか�ウン�て言ってくれなくって、|家の人《みんな》は。だからメンドクサイからサ、金貸して? 絶対返すから」
「バイトして?」
おばさんは言いました。
磯村くんも「うん」と言いました。
「この子の言ってることには甘いとこもある」と、おばさんは思いました。「矛盾してるとこもある」と、おばさんは思いました。「でも、そんなことは大したことじゃない」と、やっぱりおばさんは思いました。「問題があるとしたら、それはこの子がせっかちすぎるというだけで、他には別に大した問題もない」と、おばさんは簡単に見抜きました。だって、おばさんは別に磯村くんの保護者でもないから、磯村くんの未来に対して、なんの責任も取る必要はなかったから、そんなことぐらい簡単に分れたのです。
おばさんはすごく楽でした。「つまるところはこの子に少しばかりのおこづかいをやればいいんだ」と、自分の役割がはっきりしてしまったら、楽でした。親子だって、ホントはその程度のことでいいんですけど、親子は他人じゃないからそうすっきりと事が運ばないという、それだけのことでした。
自分のやるべきことの分ったおばさんは、「それはそれとして、分りきったことはほっといて、その前に少しこの子をからかってやろう」と思いました。「それでダメならダメだもの」と、管理職でもあるおばさんははっきりとしていました。
「でもサァ」
おばさんは言いました。
「あんた一人で下宿して、それでアルバイトなんてしたら、今なんかよりズーッと勉強する時間なくなっちゃうんじゃないの?」
ホントだったら磯村くんにとって、これは痛い質問のはずでした。お父さんやお母さんにこう言われたら、絶対にムキになって「そんなことないよ」って意地を張るのに決まっている御下問でした。
でももう、言うべきことを一通り言っちゃった磯村くんは、そんなことどうでもよかったんです。表向きの一通りの筋の通った話が出来れば、それはそれでよかったんです。表向きの話がキチンと出来なかったら気持悪いけど、でも、表向きの話だけにキチンと辻褄《つじつま》を合わせたって窮屈な思いをするだけだっていうことぐらい、�大人�の磯村くんは、もう知っていました。
とりあえず言いたいことを言っちゃったら、残っているのは�ホントのこと�だけなのですから——。
「うん、そうなんだよね」
磯村くんは、おばさんの�鋭い質問�に素直に答えました。そして、ホントのことを言いました。
「だって、もう、なんか、メンドくさいんだもん。なんか、メンドくさくってサ、一人で住みたい」
磯村くんはそう言いました。
おばさんは黙って、なんとも言いようのない顔をしました。
「ねェ、そういうの、だめ?」
磯村くんははっきりと、ここへ来て甘えました。
「別にダメとは言わないけど」
おばさんは、物分りのいいところを見せました。「この子が一人暮しをしたいのはホントで、この子はホントに一人暮しをやっていけるだろう」と、おばさんはそう思いました。
「この子がこんなに平気で�メンドくさい�って言うんだから、それは本物なんだ」と、おばさんはそう判断したのです。表面だけの辻褄より、そういう�感情�の方が実生活ではどれほど役に立つかということを、女のおばさんは知っていたのです。
 別にダメとは言わないけどなんにも言わないおばさんを見て、磯村くんは少しだけ、不安になりました。なりましたけど、でもそれはホントに少しだけです。何故かと言えば、そう言ったきり黙ってしまったおばさんの顔は、「全然ダメじゃないよ」と、明らかに言っていたからです。
磯村くんは、もう更にどうでもよくなりました。うっかりホントのことを言ってしまったら、ドンドン�ホントのこと�が見えて来たのです。
「ねェ、もうサ、メンドくさいからここに置いてくんない? 俺、もう一人だったらどこでもいいや」
磯村くんはそう言いました。結局、磯村くんが一番したかったことは公然と大っぴらに逃げ出したいという、それだけのことでした。
何かからは分らないけども、ともかく�何か�は磯村くんのことをメンドくさくさせて、律義な磯村くんはそのことに真面目に付き合って、理屈ばっかり増えて一向にはっきりしない事態から逃げ出しちゃったらセエセエすると、磯村くんはそう思っていたのです。
�一向にはっきりしない事態�とは、今迄この本で縷々《るる》書いて来たようなそういう�事態�です。どうです、自慢じゃないけど、はっきりしないでしょう——()。
 磯村くんは、公然とおばさんに甘えました。ともかく誰かに甘えたかったのだということがはっきりしたからです。でも、磯村くんの「ここに置いてェ」という申し入れに対しておばさんは、即座に「だめよ」と言いました。
「どうして?」
磯村くんは言いました。
「どうしても」
おばさんは、少し笑って言いました。口の端で笑うというより、口の中で笑っているというような�秘密の笑い方�でした。
「だって、こんなに家広いじゃない」
四室と、更には庭まであるおばさんの一人住いの家を見回して、磯村くんは言いました。
「女の一人住いなんて、寂しくなァい?」
磯村くんはませた口をききましたが、おばさんは「子供みたいなことを言って」と思いました。
「あら、どうしてよ?」
おばさんはそう言いました。
「どうしてって?」
磯村くんもそう言いました。
「あたしだって、別にいつまでも一人じゃないかもしれないじゃなァい」
そう言うおばさんの顔は見物《みもの》でした。でも、それに対して「えーッ!!」と言った磯村くんの顔はもっと見物だったかもしれません。ともかく、その磯村くんの顔を見ておばさんは、「あら、やだ、あたし、言わなくてもいいことまで言っちゃったかしら」と思ったのですから。
 ともかく、その磯村くんの「えーッ!!」は、�訳知り�と�幼さ�が一体になった、ヘンテコリンな「えーッ!!」でした。
「この子、分ってんのかしら」と、おばさんは思いました。だから、「おばさん、結婚するのォ?」と磯村くんに訊かれた時、おばさんは「別にそういう訳じゃないんだけどサ」と、うっかり照れてしまったのです。
おばさんの「別にそういう訳じゃないんだけどサ」発言を受けて、磯村くんは「なんだァ、そうじゃないのォ」と言いました。
それを聞いておばさんは「なんだ、やっぱりこの子は�子供�なんだ」と思いました。
「結婚するとかしないとかっていうようなスッキリした関係じゃない関係だってあるのよ」って言いたいと思いましたが、おばさんの感覚に従えば、まだ未成年の男の子にそんな話をするのは少し�不道徳�でした。
 おばさんには�ひょっとしたら結婚することになるのかもしれないけどそれはまだ分らないわよね�という、七つ歳下の男の人がいました。ちょっぴり大っぴらにしときたいけど、ちょっぴり秘密にしときたい、そんな関係でした。「�大人の関係�なのよ」と言おうか言うまいかと、ちょっとおばさんは迷っていましたが、磯村くんはもうそんなことどうでもよかったのです。
「やっぱり一人暮しってそういうことなのかァ!」と分ってしまった磯村くんは、おばさんが「あたしだっていつまでも一人じゃないかもしれない」発言をした時に�全部�分ってしまったのです。「そうかァ、この家にそういう部屋数があるということは、そういう意味があったのかァ」と咄嗟《とつさ》に了解してしまった磯村くんは、その時にしっかりと、生臭い情景というものもキャッチしてしまっていたのでした。
「ねェ、お金貸して」と、うっかり磯村くんの前で�おんな�になってしまったおばさんに向って磯村くんは言いました。あんまり表沙汰に出来ない関係を持っている人間には、強烈なプッシュが一番効くことを、磯村くんは本能で知っていたのです。
おばさんは�よっこらしょ�っと重い腰を上げました。磯村くんのおばさんはお母さんに似て——それよりももう少しガッチリとしていましたが——やっぱり太っていました。
「お金もいいけど、あんた、お母さんに話してほしいんでしょ?」
おばさんは言いました。
「うん」
「どうでもいいけど、ここへ来れば話はうまくまとまるな」と思っていた磯村くんは、普段あんまり使うことのない天性のブリッ子を精一杯発揮しました。
「もうあんただって大人なんだから、出来るもんならサッサと一人立ちしちゃった方がいいのよ」などと言いかけて電話口の方に歩きかけたおばさんは「そうだ!」と思って急に振り向きました。
「ねェ、あんた誰かいるんでしょ?」
おばさんはそう言いました。
「え? いないよ」
磯村くんはそう素《す》っとぼけました。少なくともおばさんにはそう思えました。「子供だ子供だと思ってたら、この子ももう大人なんだわ、あたしも年を取る筈よ、やっぱりするんだったら、早いとこ形だけはつけといた方がいいのかもしれないわよね」などと、アサッテの方向に思いをそらせながら、磯村くんの一件に再び客観的な立場を取れるようになったおばさんは言いました。
「そうか、そうか」
「何が?」
磯村くんも言いました。
�別に女の子なんていないよ�——そのことだけは確かでした。
�別に、だからっていって、僕は男が好きな訳でもないよ�——そのこともやっぱり確かなことでした。
�だからといって、別にヤらしいことしないって言ってる訳じゃないんだけどサ�——これもまた確かなことではありました。
だから結論としては、「だって、一人暮しって、そういうもんなんでしょ、ねェおばさん?」ということでした。
別に磯村くんは、こんなことを口に出して言うほどのバカではありませんでしたから、黙って「何が?」とだけ言っておいたのです。そしてそのとぼけ方は正に、親にまだ言えないでいる女の子がいる男の子の、そのとぼけ方でしかありませんでした。少なくともおばさんはそう踏んだんです。
「いいけど、相手のこともチャンと考えて上げなさいよ、いるんだったら」
さすがにおばさんは、若い男の子の性欲に踏みにじられる女の子のことだけは気になって、そういう風に釘を刺しました。
「だからいないってェ」
何がいるともいないとも言ってなんかいないのに、ただ「いないってェ」を連発している磯村くんの様子を見て、「ああ、まだそういうとこまで行ってないんだ。今の子って存外しっかりしてるから」って、おばさんは思いました。
そうやって、磯村くんの人生の第二幕が始まることにはなったのです。
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