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無花果少年と瓜売小僧13

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  13 磯村くんは、自分が一人暮しを始める理由を�一人でチャンとやって行ける修行をする為�という風に決めていました。お母
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 磯村くんは、自分が一人暮しを始める理由を�一人でチャンとやって行ける修行をする為�という風に決めていました。お母さんと、お兄さんの運転する車で冬枯れの多摩川の川原を見ながら走っている時、そういう風に思ったのです。
磯村くんの人生の第一幕は、磯村くんがその車から降りて不動産屋さんの前に立った時に終っていたのでした。後は、新しく始める第二幕の段取りをつける為の具体的な作業だけでした。第一幕と第二幕の間にある幕間《まくあい》は、だからドンドンとその為に進められて行ったのです。
 電話はどうするのか?
「ダメよ、それがなかったらあなた、こっちの方が心配よ」というお母さんの一声で、サッサと手続きがされました。
部屋は、どっちかといえば新築のアパートの方がいいとお母さんが言うのにも拘らず、磯村くんが「こっちの方がいい」というので�築二年�の、少しすすけているといえばすすけているけれど、でも見た目にはどうといって違いのないような、六戸建のアパートの一階になりました。
磯村くんは、新しい部屋がこわかったんです。まだ誰も住んでない部屋を見た時、どうやってその部屋に住んだらいいのか自分はちっとも分らないでいることに気がついたのです。
どうやら磯村くんは、�そういう趣味�で、それが�ダサイ�というハンコを押されるということに縛られてしまったみたいなのです。
誰も住んだことのない部屋を「ここがいい」と言ってもいいのかどうか、磯村くんにはよく分りませんでした。それよりも、誰か前に人が住んだことのある部屋だったら、その部屋のダサさを、その、前に住んだことのある人間のせいに出来るかもしれないと思いました。
それよりも——でもそんなことよりも、�築二年�のアパートの方には縁側があって、庭とは言えないけれど少なくとも庭にも出来るような�空間�があって、そしてその向うの垣根越しに貧乏くさい�畑�があるのが目につきました。
しょぼしょぼと冬の菜ッ葉の生えている畑を見て、そしてその手前にある、少なくとも人が住んだことのある壁を見て、磯村くんは「ここなら耐えられる」と思ったのです。何に耐えられるのかといえば勿論�寂しさ�にですけれども。
 ダサいとかダサくないという問題を通り越して、磯村くんは、「人が恋しい」と思いかけていました。
学校に行って磯村くんは、「今度一人暮しするんだ」と、友達に言いました。
「ヘエーッ、どこ?」と訊かれて、「ウン、高幡不動」と言いました。
「あんなとこ住むのォ?」というのと、「近くていいじゃない」というのと、意見は二つに分れましたが、「ウン、いいでしょ」って言う磯村くんは、もういつものニコニコした磯村くんでした。
磯村くんは、もう頭の中で「平気だな」と自分に言いきかせて、一人暮しには平気の態勢を作り上げていました。でもまだ「うん、遊びにおいでよ」とは誰にも言えはしませんでしたけれども——。
 少なくとも一人暮しを始めてそしてそれに馴れるまでは、迂闊《うかつ》に人を呼んだりしてドンチャン騒ぎなんかやらない方がいいと思っていました。
磯村くんはシーンとして、「冷蔵庫はどうするの? テレビは持ってくの? ベッドはどうするの? 持ってくの? 置いてくの? そうよ、別になくなったら帰って来た時困るものね。取り敢えずお布団持ってく? あなた家具だって少しいるんでしょ?」というようなお母さんの声の中で「分った」「ウーン、分んない」というような、曖昧《あいまい》な返事だけをしていました。
とにかく磯村くんには、一人暮しを始める時、具体的に何がどれだけいるのか、それがよく分りませんでした。とにかく大学はもう少ししたら冬休みに入っちゃうんだし、そうしたら帰って来るんだろうから、とりあえずは実験的に必要最小限度のものだけを持って行けばいいんじゃないかとお母さんに言われるまでもなく、磯村くんの頭には必要最小限度のものだけしか浮かびませんでした。
お母さんと一緒に選んだカーテンが掛けられて、お母さんと一緒に選んだ一通りの食器が運ばれて、家にあったお客さん用の予備の布団が運ばれて、新しいストーブと小さな冷蔵庫とトースターと、机と本箱とカセットテープとラジカセが運びこまれたら、もう荷物はそれだけでした。
引っ越しも、お兄さんが運転手になる筈だとお母さんは思っていたのですが、「日曜日二週も続けて運転手させられる身にもなってよ。第一、あの車じゃ荷物運べないよ」というお兄さんの発言と、「いいよ。そんな、親子揃っての引っ越しなんて、小学生じゃあるまいしィ!」という磯村くんの発言で、引っ越し屋さんのトラックに磯村くん一人が同乗して行くだけになりました。
まるで一人息子がお嫁入りする時みたいな騒ぎ方をしていたお母さんですが、それも、引っ越し当日のトラックの上にある荷物の少なさを見て「これだったら別にどうってことないんだ」という安心をしました。
「お腹空いたら帰ってらっしゃいよ。ちゃんと御飯食べるのよ。それから、火だけは注意して頂戴よ、あなた一人なんだからね!」と、クドクドと言うお母さんに「分った」「分った」と言っていた磯村くんは、でもよく考えたら、それ以外はなんにも分らないでいたのでした。
引っ越して来て第一日目の晩、日が暮れる大分前に明日の朝御飯のパンと牛乳とティーバッグは買ってあったし、晩御飯は「ほっかほか弁当」を買って来てすませてあったし、当座の生活費として二万円は貰ってあったし、おばさんからは餞別《せんべつ》で五万円も貰ってあったしでなんの心配もなかったのですけれど、鳴らない電話とテレビのない空間を見つめているのはなんとなく寂しいもんだなと、それだけを磯村くんは思いました。
「ラジカセだけを頼りにして生きてるなんて、とっても大学生らしいな」と、磯村くんは、木川田くんの家に電話をした少し後で思いました。
 木川田くんは、留守でいなかったのです。
「電話番号は知ってるから、その内掛けて来るさ(いつかは)」と、磯村くんは思いました。
「そうだ、みんなに引っ越しの連絡をしなくっちゃいけないんだ。どうしようかなァ……」と思いました。
そう思ってズーッとしばらくして、「そうか、一人暮しってこういうもんなんだ」と思って、磯村くんはどうやら、落ち着いて自分の部屋の中を眺めることが出来るようになったのです。
庭に面したガラス戸のカーテンを少し開けて、内側についた露を少し手で拭いて、「外の畑が見えるかなァ」と思って磯村くんは暗い外を覗いてみましたが、見えるのは、暗いガラス戸に立ちふさがっている自分の影法師だけでした。
第一幕の幕を引くことだけを考えていた磯村くんは、でも、第二幕の演技も台本もなんにも知らないまんまでいる自分には、まだ気がつけないでいたのです。
「星が多いなァ」と思って、磯村くんは、静かに夜空を眺めていました。
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