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無花果少年と瓜売小僧15

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  15 木川田くんがやって来たのは、午後の七時でした。シーンとして賑《にぎ》やかな駅前に、磯村くんは迎えに出ました。 夜
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  15
 木川田くんがやって来たのは、午後の七時でした。シーンとして賑《にぎ》やかな駅前に、磯村くんは迎えに出ました。
 夜の闇というのは不思議なものです。ここへ来て磯村くんは、初めてそのことを実感しました。
第一日目の夜はあまりにもその闇が深いので足を取られそうになってしまいましたが、二日目からはそのことに馴《な》れました。
ビルはないし、川はあるし、商店街だってそんなに大きくはないし、畑はあるし、空き地はあるしで、街灯がいくらついていても、暗いところは暗いのです。
大体の道にはみんな街灯がついていますが、でも、その道を取り囲む夜というのは、今迄磯村くんの暮していた所に比べると、段違いに深いのです。
夜の中に、街の光が吸いこまれて行きます。振り返れば、山の上まで続く家々の明かりがあるでしょう。でも、それは夜と一緒になってしまった自然の中に埋もれて、あんまりくっきりとは見えませんでした。
電車から降りて来る人の群も、どこかに吸いこまれて行くように、いつの間にかどこかへ消えてしまいました。
そんな、シーンとした賑やかな駅前で、木川田くんは、白い息を手に吐きかけて、立っていました。
「ごめェん、待ったァ」
皮のスタジャン姿の木川田くんを見つけた磯村くんは白い息を吐き出しながらそう言いました。
雪でも降って来りゃもっと絵になったんでしょうが、いくら都心よりも気温の低い多摩の町でもまだそこまでは行きませんでした。
「おっセェなァ!」
木川田くんが言いました。
「でも、すぐ近くなんだよ」
磯村くんが言いました。駅から五分しか離れていないところで、木川田くんから電話を貰ってすぐ磯村くんは飛んで来たんですから、そんなに怒鳴られる理由もないのです。
勿論、木川田くんの「おっセェなァ!」は照れ隠しですが、磯村くんにはそんなことは分りませんでした。磯村くんのする判断というのは、「それは気にした方がいいか、悪いか」という、それだけでしたから。
「行く?」
木川田くんの前に足を揃えて立った磯村くんは少し上体を傾けて、馴れないブリッ子を気取りながら言いました。
「自分だってそういうことやってみたいもん」と、磯村くんは思っていたのです。
「うん」
木川田くんは言いました。
「どっち?」
木川田くんは威張っていました。
知らない他人の家に泊めてもらうんだから虚勢でも張ってないとカッコがつかなかったからなんですが、でもそんな木川田くんは、どこにでも自然に溶けこめちゃう人間みたいでいいなァと、磯村くんには思えました。
「こっち」
「でももう僕だってここには溶けこめてるんだ」って、磯村くんは思いながらそう言いました。
 駅を出て左にちょっと行くと、白いペンキ塗りの地下道があります。そこをくぐって線路の向う側に出ると、街灯が地面に氷の池を作っているようなところがあって、葉の落ちた柿の木に赤い実が二つばかり残っています。「こっち」と言って、磯村くんはそこで左側の道を指しました。
木川田くんが「うん」と言って又少し行くと道はもう一回二股になっていて、磯村くんはそこで「ホラ」と言って後を振り向きました。
「なァに?」木川田くんもつられて振り向くと、そこには白い蛍光灯の光を窓々からふりまいている、電車区の大きな細長い建物がありました。
「なァにあれ?」
木川田くんが言いました。
「電車の倉庫」
磯村くんが言いました。
「ヘェ、俺また病院かなんかかと思った」
木川田くんが言いました。
「うん。きれいでしょ」
磯村くんが言いました。
「ふん」
木川田くんは『細雪』のお嬢さん風にうなずきました。
「こっち」
磯村くんは道を右にとりました。
小さな神社の前を通って、小学校の塀に沿って、更に奥に入って行くと、道だけは街灯の光でよく分りますが、でも周りに何があるのかはよく分りません。
「ここら辺、何があんの?」
木川田くんが訊きました。
「うん。よく分んないんだけどサ、シケた畑とか家とか、そういうの」
「ふーん」
磯村くんの返事に、木川田くんも分ったような分らないような答を返しました。
「こっち。ここなんだ」
磯村くんがそう言ったのはそれから二十歩と行かないところでした。
 灯りを点《つ》けっぱなしにしてある部屋のドアを開けて磯村くんが言いました。
「上ってよ」
「うん」
木川田くんが言いました。
「ワリといい部屋じゃん」
靴を脱ぎ捨てて上って来た木川田くんは、なんにもない磯村くんの部屋を見てそう言いました。
「そうォ?」
磯村くんが言いました。
「隣り、何があんの?」
部屋の突き当りのカーテンをバッと開けて木川田くんが言いました。
「畑なんだ」
ちょっと照れたように磯村くんが言いました。
「見えねェや」
夜の中を覗《のぞ》きこんで木川田くんが言いました。
「そこが物干しでサ」
木川田くんの横に立った磯村くんは窓の外を指して言いました。
「ふーん」
「だけどサ、なんか干すと、埃《ほこり》がすごくって」
「お前もう洗濯したの?」
「うん、昨日ちょっとね。掃除したから」
「ふーん……。洗濯機あんの?」
「うん? ないよ。コインランドリー行こかな、とか思ってんだけど、まだなくって。なかったら手で洗えばいいんだけど」
「ふーん」
「あ、お茶|淹《い》れるね」
「うん」
磯村くんは玄関の横にある�キッチン�の方に歩いて行きました。磯村くんの部屋は、玄関を入ると�キッチン�というガス台と流しがあって、その先に六畳の部屋が�庭�に面したガラス戸まで続いているという、細長い部屋です。
「何してたの?」
庭に面して置いてある磯村くんの机を覗いて木川田くんが言いました。
「うん? 年賀状書いてたの」
ヤカンにお水を入れながら磯村くんは言いました。
「�もう�かよォ」
木川田くんは磯村くんの椅子に坐って、磯村くんの書きかけた机の上の年賀葉書を見ています。
「うん、引っ越したでしょ。でもサ、それの通知だすのって面倒だからサ、そう言えばもう年賀状だからって買って来たの」
「ふーん」
「なんか、わざわざ�引っ越しました�っていうのだけ書いて出すのって、いやじゃない?」
「ふーん、そうかなァ」
「なんかね」
「ふーん……。何枚ぐらい書いたの?」
「まだ全部書いてないけど、三十枚ぐらい出そうかなって」
「あ、女のもある!」
年賀状をひっくり返しながら木川田くんが言いました。
「いいじゃない」
寄って来た磯村くんは少し照れながら言いました。
「こいつ、誰?」
木川田くんは、その女の子宛の磯村くんの年賀状を見て言いました。そこには磯村くんの角張った青いボールペンの字で�大崎幸子�とありました。
「知らない? クラス会の幹事やってたじゃない」
「ああ、あいつかァ、鼻ばっかりの」
大崎さんという女の子は�ワリと顔が檀ふみみたいなヤツ�で、磯村くんに言わせれば�ワリとアレよか目が細く�て、木川田くんに言わせれば�したら鼻しかねェじゃねェか�という、高校時代の同級生でした。
「お前、あんなヤツに出すの?」
木川田くんが言いました。
「うん、今年なんだかんだあったし、又、クラス会の幹事やんなきゃいけないかもしれないから」
律義な磯村くんは、椅子にふんぞり返った木川田くんと向き合うようにして、机に手をついて立っていました。
木川田くんは黙って、書きかけの年賀状をめくっていました。「ホントに磯村って、付き合ってる女っていないのかなァ……」って思いながら。
磯村くんの書きかけの年賀状は七枚だけで、その内木川田くんの見た中で女の子の名前があったのは�大崎幸子様�という一通だけでした。
「あ、俺のもあるゥ!」
一番最後の一枚をひっくり返して木川田くんが言いました。
「うん。一応、もう知ってるけど……」
磯村くんは、「�ダセェことすんなよォ�なんて言われないかなァ」とか思って、少し照れながら言いました。
「�今年もよろしく�だって。ヒッヒッヒ」
磯村くんの書いた字を読みながら木川田くんが言いました。
「いいじゃない、年賀状なんだからァ」
磯村くんは少し恥ずかしくなって目をそらしました。そしたらカーテンが開きっ放しになってることに気がついたので、音を立ててそれを閉めました。
でも木川田くんは本当は嬉しかったんです。宛て名の方を下にして置いてあったのを順番に見て行ったら自分の名前が一番下にあったということは、磯村くんが年賀状を書く時にはまず一番最初に木川田くんの名前を書いたということですから。おまけに木川田くんは、もう磯村くんの住所も電話番号も知っているんですから。そして、「去年は俺に——」と�今年�のことを間違えて思い出しながら、「磯村、年賀状なんかくれなかったもんなァ」と思って、木川田くんは寂しくなりました。少しだけですけど。
「なァ磯村ァ」
「うん?」
机の上に年賀状をポンと置いて、立ち上がりながら木川田くんが言いました。
「腹減らない?」
「減ったねェ」
磯村くんも言いました。
「なんか食いに行かない?」
「うん」
「早くお湯沸かねェかなァ」
磯村くんの横でガスレンジを見ながら、木川田くんが言いました。
「うん、ちょっと待って」
お客さんにお茶を淹《い》れるなんてことになれてない磯村くんは、ガスの火を強くしようと思って出かかったところを木川田くんに捕まりました。
磯村くんの両腕を持った木川田くんは、顔を磯村くんに近づけて、「磯村、俺のこと好き?」って言いました。
いきなりのことでどう言ったらいいのか分らない磯村くんは素直に「うん」と言いました。そしたら、�ニヤッ�と笑うかなと思った木川田くんは笑わずに、普通の顔をして、磯村くんの頬っぺたにキスをしました。
「あ——。あ、もうカーテンは閉めてあるか——」
磯村くんはいきなり、そう思いました。
「でも僕は、別にそういうつもりでカーテン閉めたんじゃないんだけど」と思いかけたところで、小さなホーロー引きの赤いポット《やかん》の蓋がカタカタと音を立て始めました。
「ションベン、ションベン。磯村、トイレどこ?」
木川田くんは磯村くんの顔の前約五センチでそういうことを言いました。
「玄関の横。右の方」
玄関の横にこちらを向いて二つ並んでいるドアの方を指して磯村くんは言いました。
ヤカンのお湯はカタカタカタの後で、もう吹き出しています。
「もっちゃう、もっちゃう」
木川田くんは股間《こかん》を押さえて、左の方のドアを開けました。
「あ、風呂もあるんだ」
「うん」
「いいなァ、お前」
木川田くんはそう言ってトイレのドアを閉めました。
「ホントに、木川田っていうのはァ——!」
そうとだけ思って、磯村くんは戸棚から、まだ封を切ったばかりのリプトンのティーバッグのケースを取り出しました。
判断保留は判断保留だという、ただそれだけです。
「水洗じゃねェのな」
出て来た木川田くんがそう言いました。
「うん」
磯村くんは、カイガイしく、奥さんです。
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