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無花果少年と瓜売小僧16

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  16「ねェ、お風呂入る?」磯村くんがそう言ったのは、二人で駅前まで晩御飯を食べに行って帰って来た後でした。「うん」木川
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  16
「ねェ、お風呂入る?」
磯村くんがそう言ったのは、二人で駅前まで晩御飯を食べに行って帰って来た後でした。
「うん」
木川田くんは言いました。
「じゃァ水入れるね」
「うん」
磯村くんはお風呂場に入って行きました。
「あのサァ、磯村さァ」
「うん?」
磯村くんはお風呂場の中から答えました。
「なんでお前、一人で住もうと思ったの?」
そういう木川田くんの�お前�は、心なしかいつもよりも少し柔らかいトーンでした。
「なんでって——」
お風呂場の中で、ポリエチレンの洗面器とポリバスがぶつかる音がして、�ザーッ�という水の音が始まりました。
「なんでって、メンドくさくなっちゃってサ」
お風呂場から出て来た磯村くんは、手をタオルで拭きながらそう言いました。
「なにが?」
木川田くんはそう言いました。
「なにがって言うかサァ……、なんていうのかなァ……。あ、ちょっと待ってね」
何か言いかけた磯村くんは、そのまんまトイレの中に入りました。
小さな水音は大きな水音に消されて聞こえません。
木川田くんのいる前で、黒い受話器が�リーン�と鳴りました。
「磯村ァ!」
「うーん」
トイレの中で磯村くんが答えました。
「磯村、電話」
「分ってる」
「うん」
そう言って木川田くんは流しの方に歩いて行きました。
電話は鳴り続けて、磯村くんがあわてて出て来ました。
流しに置いてある小さなお皿を取って、木川田くんは「これ灰皿に使っていい?」と言いました。
「うん?」と振り返った磯村くんは、「いいよ」と言って電話に取り付きました。
「もしもし。はい。あ、僕。うん。うん。あ、そう。うん。さっき友達と飯食ってた。うん。うん。あ、そう」
木川田くんは灰皿を手に持ったまま煙草に火を点《つ》けて、磯村くんがトイレの戸を�バン!�と閉めた拍子に開いてしまった、お風呂場のドアの中を覗《のぞ》いていました。
お風呂の水はまだ入ったばかりで、なかなか一杯にはなりそうにもありませんでした。
「まだなかなかだな」と思った木川田くんは、でもそれでもしばらくは、お風呂の水の見張りをしていました。
「うん、うん」
磯村くんは木川田くんの方を見てうなずいてばかりいます。
「まだなかなかだな」と思った木川田くんは、灰皿を持ったままお風呂場のドアを閉めました。
「うん、分ったけど、お母さん心配しすぎだよ」
磯村くんは、木川田くんに電話の相手が誰だか分らせる為に、態々《わざわざ》相手の�名前�を呼びました。
木川田くんは笑ってうなずいて、磯村くんは左手で受話器の方を指して「うん」と、木川田くんの方にうなずきました。
「大丈夫だって。うん。足りてる。だ・い・じょお・ぶ。うん。そうだって、うるさいなァ。平気だよ、平気。うん。あ、今友達来てんだ。うん、男。ホラ、木川田って、知ってるでしょ。何言ってんだよ、そんなことしてないって。あ、そうだ」
磯村くんは言いました、勿論受話器に向ってです。
「あのサ、ほら、台所にあったテレビサ、あれもらっていい? うん、やっぱりなんか、テレビってあった方がいいみたいだけど、使う? うん。だからァ、分ったけどォ——」
磯村くんは、お母さんが「寂しかったらアレだから、テレビでも持ってったら」というのを無視して——ともかく何を持って行ったらいいのか分らないでいるところにこれ以上家具が増えたらゴタゴタの混乱が増すだけだと思っていたからですが——引っ越して来たけれども、でも友達が来た時なんかテレビがあった方が手持無沙汰じゃないなと思ってそう言ったのです。
「磯村ァ、テレビいるの?」
木川田くんが立ったまま言いました。
「うん? ——あ、ちょっと待って」
受話器を手でふさいで磯村くんが言いました。
「なァに?」
「うん? テレビほしいんなら俺が持って来てやるよ」
「ホント?」
「ウン。中古だけど二万で買わねェかっていうの、俺の友達が。まだ見てないんだけど、二万じゃなくて一万だったら買ってもいいとかって言ったんだけど、まだ新品だっていうんだよな」
「どうしてそんなの売んの?」
「知らねェ。金がいんだって」
「フーン」
「どうする?」
「�どうする�って?」
「お前がいるっていうんだったら持って来てやってもいいけど」
「うん」
「あ、別に、あるんだったらいいけどサ」
「うん。あ、ちょっと待って」
そうして磯村くんは、受話器に向って話かけました。
「もしもしィ。うん。今さァ、友達が。うん。木川田が来ててサァ、テレビいるんだったら安く手に入るって。うん。うん? うん。だから。うん。うん。でもいいよ。あればいいんでしょ? うん。どうせ家帰った時また見るから。うん。うん。いいんだってェ! うん。ほしいの! いいの! 自分で買うってェ。そんくらいあるよォ。ある! 分ったよ、うるさいなァ。大丈夫だってばァ。うん。日曜日帰るからァ。うん。土曜日帰るよ。分った! 帰るから! ああ、じゃァね。お父さんや兄さんによろしくね。うん。元気だってェ。はい!」
「ホントにまいっちゃうね」
受話器を置いた磯村くんはそう言いました。
「ふん」
木川田くんもそううなずきました。
うなずいてこう言いました。「でもサ、心配なんじゃないの、やっぱり」
「そうなのかなァ」
磯村くんは言いました。
「そうなんだよ、きっと」
「そうなんだろうね」
「うん」
「お風呂の方、どうなってるかな?」
磯村くんは言いました。
「まだ大丈夫じゃないの」
木川田くんは言いました。
「ちょっと見て来るね」
「うん」
磯村くんは立って行きました。
「俺のことどう思ってるのかなァ、家の人」
お風呂場のドアを開けかけた磯村くんに、木川田くんは言いました。
「�どう�って?」
ドアを開けかけて、磯村くんは振り返りました。
「別に……。どうってこともないんだけど」
木川田くんは、小さいお皿に煙草を押しつけて火を消しました。
「僕、木川田のこと好きだよ」
「うん」
磯村くんに言われて、木川田くんはそれだけ言いました。
「あ、もう大丈夫だ」
お風呂場の中から磯村くんが声をかけました。
「もう火ィ点《つ》けちゃうね。足りなかったら後で足せばいいでしょ、水」
顔だけを出して、磯村くんはそう言いました。
「うん」
そう答えて、木川田くんは電話機に手をかけました。
「ちょっと電話借りるね」
「うん」
黙って相手が出るのを待っている木川田くんに、お風呂場から出て来た磯村くんは「ゼロサン回した?」と訊きました。
「うん。あ、お母さん。俺。今日友達家《ち》泊まるから。うん。普通の友達。なんでもないから。うん。じゃァ」
木川田くんは、目だけで磯村くんに答えて、お母さんに電話をしました。
磯村くんが「そうかな?」と思っていた�テレビの友達�は、その次の電話でした。
「悪いけど磯村、もう一回電話貸して?」
「うん」
 木川田くんにそう答えた時、磯村くんは、とってもとっても木川田くんのことが好きな自分に気がついたのです。
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