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無花果少年と瓜売小僧18

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  18 木川田くんが磯村くんの部屋に転り込んで来たのはその日からではありませんでした。木川田くんが磯村くんの部屋に転り込
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 木川田くんが磯村くんの部屋に転り込んで来たのはその日からではありませんでした。木川田くんが磯村くんの部屋に転り込んで来たのは、年も明けて正月も過ぎた、一月も十日になってからのことでした。
 クリスマスの次の日に木川田くんと会った磯村くんは、二十七日にボストンバッグを提げて、家へ帰って行きました。「お正月にまた電話するよ」とか言って。
 木川田くんは「いつ帰って来るの?」と磯村くんに言って、「七日ぐらいだけど分んない。退屈してたらもっと早く帰って来るかもしれないけど」と磯村くんは言いました。
 お正月まで、磯村くんは家に帰って退屈でしたけれども、でも、ニヤニヤしていました。意味もなく楽しそうで、それは大学に入って立ち直った(か又は開き直った)、木川田くんに会うまでの磯村くんでした。
 十分に、現実の凡庸さに耐えられると思った磯村くんは、別にとりたててすることがなくても、なんとなく�充実�していました。大学の友達に電話をかけて、新しい引っ越し先の電話番号を教えたり「今度遊びに来てェ」とか言ったり、「そうだなァやっぱり、一月の試験が終ったらバイトしよう」とか思ったりして、自分にはどういう仕事が向いているのかなァなんてことを、求人雑誌や新聞を見て考えていました。
それでも磯村くんは、大《おお》晦日《みそか》の日に木川田くんの家へ電話をしたのです。
 紅白歌合戦が退屈になった十時頃、「もしいて、よかったら、初詣《はつもうで》にでも行かないかな」と思って、磯村くんは木川田くんの家に電話をしたのです。したら、案の定というかなんというか小母さんが出て、いつもの通り、暗い「いません」を言ったのです。
「そうですか」と言って電話を切ろうとしましたが、でも磯村くんは「でも自分は�普通の友達�なんだ」と思って「すいません。だったらあの、磯村から電話があったって、伝えておいていただけませんか」と言いました。
「はい」と言って電話の向うの小母さんは「……どなたですか」と言いました。
「磯村です。あの——」と言って�普通の友達です�と言いかけたのですが「冗談が分らなかったら困るな」と思って、「高校の友達です」と言いました。
小母さんは「はい」と言って「イソムラさんですね」と、初めて�はい�と�いません�以外の日本語を喋ったような気がしました。
だから、「お願いします」と言って電話を切った時、磯村くんは「やっぱりあのオバさんも人間なんだな」と思って嬉しくなったのです。
暗い玄関の中で一度しか会ったことのない、細い目のところに二本ずつ横皺《よこじわ》があって、どっちが目なのかよく分らない木川田くんのお母さんの顔を思い出して、「あのオバさんだって笑うことだってあるんだよな」と、そんな風に思いました。いつだったか、木川田くんが電話をしていて「お母さん?」と言った時のことを思い出して、「ひょっとしたら涙が出るぐらいやさしい時だってあったんだな、今だってそうかもしれないけど」とか思っていたらテレビでは村田英雄が出て来て、なんだか木川田くんのお母さんが村田英雄の妹みたいな気がして、おかしくなって笑いました。
「ハッハッハッ!」と声を上げて笑ったので、お母さんには「なァに?」と言われ、お兄さんには「バァカ」と言われました。お父さんは、きっと知らないギャグがどっかに映ってるんだと思ってテレビを見ましたが、応接間に近いリビングのテレビでは、紅白歌合戦をやっているだけでした。
磯村くんはなんだかまだおかしくて、「クックックッ」と笑っていました。
 でも、木川田くんからはお正月になっても電話がかかっては来ませんでした。
「お正月だから電話しても悪いかな」とか思っていた磯村くんは、でも、「電話して来てくれたっていいじゃないか」と思ってはいました。磯村くんの年賀状を見たクラブの友達からは「引っ越したのォ?」とかいう電話がかかって来たのに!
「どうせ暇サ……」と、磯村くんは自分のことを思いました。そして、「あの小母さん、ホントに連絡してくれたのかなァ」って思いました。
大体これから磯村くんの思うことは一日に一コぐらいのテンポですから、それで磯村くんがお正月、如何に暇だったかを考えて下さい。
「小母さん、教えてくれなかったのかなァ」と思って、「ひょっとしたらあの小母さん、もうズーッと前から俺のこと、�あの時のヤツ�だって分ってたんじゃないかなァ」って思いました。
次の日は、「木川田、�あんまし外泊しない�とかって言ったのに、チャンと外泊してるじゃないか」って思いました。
「どうせ、僕は大学のノンポリ少年で、あいつは都会の妖精さ」って、いつか�テレビ�を二人揃って取りに行った日のことを思って、そう思いました。
ついでながら、なんでも知っていた磯村くんは、全部そういう知識を本屋の雑誌コーナーの立読みで仕入れていたので時々はヘンな覚え方をしていました。当時ブームだった�全共闘雑誌�を見ていて、磯村くんは�ノンポリ�というのは、自分みたいに明るいだけでなんにも考えていない少年のことだと思っていましたが、その頃の大学には�少年�なんていう人はあんまりいなかったのだということについては全く知りませんでした。
ついででした。
 磯村くんがテレビを取りに行った日というのは、木川田くんが「重いから一人じゃいけねェ」っていう電話をかけて来た日です。何日だったかは忘れてしまったので、そういう説明にします。
 磯村くんは木川田くんと一緒に電車に乗って、七千円払ったばっかりのSONYのテレビの元の持ち主である、某三流医科大学生の、眼鏡をかけた、その鼻ペチャの鼻の周りに未だに現役をしている薄汚いニキビ面のことを考えていました。「なんであんなのと木川田は知り合いなんだろ?」と思っていたのは、乗っている電車が「相模大野」から新宿へ向けて走っている小田急線という、突拍子もないものだったからです。
�近所の大学生�というのならともかく、どうして東京の中野区に住んでる東京出身の普通科の都立高校に通っていた木川田くんが、神奈川県の相模大野に住んでる島根県出身の医科大学生を知っているのか、よく分りませんでした。どうせ�足柄三太�とかいいそうな黒ブチ眼鏡男と木川田くんが�恋愛�という線で結び付きそうもないし。木川田くんが�ホテトルのバイトをやってる女子大生�だったりしたらまァ分るような気もしますけど——。
 なんとなく、木川田くんについていった自分に対するそいつの視線のそっけなさというのを思うと、磯村くんには�木川田源一=ホテトル女子大生�説というのもうなずけるような気もするのですが——。
それはほとんど、都会の女子大生のオープンなボーイフレンドに対する地方出身者の嫉妬《しつと》のような視線でしたけれども——。
それにしても、アパッチけんが顔を叩かれて大橋巨泉みたいになっちゃったヤツの住んでるマンションの立派さっていうのは、ちょっと信じられないようなもんでしたけれども——。
 なにしろ、アクリルかもしれないけど、毛足が十センチもあるような白いカーペットが部屋に敷きつめてあるのですから——。
「なんだろ、こいつ?」と、その某三流医科大生を見て、磯村くんは思いました。
ハイテックで新婚してるような室内を見て、「どっかで見たなァ」とズーッと思っていて、「あ、そうか、ロマンポルノに出て来た女の子の部屋だなァ」と思って、よく分んなくなりました。
しかもそいつが、どうして七千円の金でテレビを売るのか、そのテレビがどうして、あまりにも明らかに�新品ではない�ということが分るようなSONYの機種か——だって、そいつの部屋にはハイファイ・マックロードもあるのですから——そういうことは、みんなよく分りませんでした。
「ローンの期限が来てるからせめて利息だけでも払わなくちゃいけないんだって」と言われても、どうしてそいつの学生ローンの利子を自分が払わなくちゃならないのか、磯村くんにはよく分りませんでした。
「まァ、安いからいいけども」とは思いましたけど、「ホントに安いのかなァ?」というのもよく考えたら分りませんでした。一応持って出る時にそいつの部屋でキャビネットの周りは拭いたのですけれども、「とにかく家に帰ったらもう一遍きれいに掃除しよう」とかは絶対に思えました。
まァいいですけれども。
 それでもやっぱり、陽の当る新宿行きの小田急電車の中で、木川田くんと、間に剥き出しのテレビを挟んで腰を下していると、「やったぜ、七千円払って公然とカッパライやって来たぜ」という、如何にも�青春した�という感じで悪くはなかったのです、磯村くんは。
 自分の財布に�七千円�という穴はポッカリと空いたけども、でもそれは�青春の痛み�で、「遂に自分の手でテレビを買ってしまった!」と思うと、やっぱり磯村くんは感謝してしまったのです。
磯村くんは、「やっぱり木川田くんは都会の妖精なんだ」と、その時思ってしまったのです。
 磯村くんはやっぱり�お坊っちゃん�なんだけど、可愛いきゃそれでいいじゃないかと作者《わたし》は思いますです。
 ああそうだった。なんの話してたんだっけか?
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