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無花果少年と瓜売小僧21

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  21 磯村くんは十日の前の日、お母さんに「あなたいつまでいるの?」と言われたのです。「明日帰るよ」磯村くんは言いました
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  21
 磯村くんは十日の前の日、お母さんに「あなたいつまでいるの?」と言われたのです。
「明日帰るよ」
磯村くんは言いました。
「ホントにもう。やっぱり無駄遣いなんだからァ」と、お母さんは言いました。
「どうして?」
磯村くんは言いました。
「だってあなた、一ヵ月三万五千円でしょう。一日にすれば千いくらよ? 千百円?」
さすがに税理士の奥さんは細かいことを言います。
「十日で一万二千円ですよ」
「何さ、それ?」
「だから、家賃を、日割りにすれば——。先月だって入ったのは八日からだけど、契約は一日にしちゃったんだから全部払ったのよ」
「あ、そうなの」
「呑気ねェ。もういやなったんでしょ?」
「そんなことないよ。まだ大学始まってないしサ。行ったって別に面白いことなんてないしサ」
「やァねェ、そういうつもりで行ったの?」
「違うけどサ」
「だったらサッサと行きなさいよ、いつまでもグズグズしてないで」
「明日帰るって言ってるでしょ」
磯村くんは言いました。どうも、お母さんと磯村くんは、立場が逆になったようです。
 お母さんにしてみれば、暮に帰って来た息子は帰って来たまんまゴロゴロしていて、突然「一人暮しをしたい!」って言って出て行った理由というのが結局は「なんとなくそういうことしてみたい」というよくあるハシカみたいなものだったと分ってしまったものですから、別にもううろたえる必要はなかったのです。
「言うだけは言ったけど、どうせその内いやんなって帰って来るわよ」と思っていたのが、どうやらそういう雰囲気にもうなりかけてしまっていたので、「これは困った、ここは一番放っぽり出して懲《こ》らしめてしまった方がいい」というところです。「それだったらまァ、三万五千円の出費というのも高くはないわ」と、お母さんは内心思いました。そして、「やっぱりこの子は甘いところがあるのよ。やっぱり末っ子だからかしらねェ」と思いました。
磯村くんにしてみれば、「そうかもしれないけど別にそういう訳じゃない」というところです。
 磯村くんは、よく考えても「大学始まってないしサ、行ったって別に面白いことなんてないしサ」という、それだけの理由でグズグズしていました。高幡不動の町は、やっぱりいつまでたってもシーンとしていて、�誰かが来るのを待っている�のかもしれないけど、でも、別に約束もしてない人間が来るって信じてるのはバカみたいだしなァという感じに、磯村くんの頭の中ではなって来ていたのでした。
「僕今度引っ越したんだよね」と言っても、「どこ?」ということの答えを訊くと、大学の友達は「なんだァ、高幡不動かァ、お前、司法試験目指すの?」とか言うのです。磯村くんの行っている大学は伝統的に司法試験に強く、�法曹界に幾多の人材�を送り込んでいるところです。広告研究会に入っている磯村くんとしては、�法曹界�ではなくて�放送界�を目指したがっている人間の方が友達には多いもんだから、「へー、変ってる」という風に見られるのです。司法試験目指してるんだったら、通学の便ということだけを考えてなんにもない高幡不動に下宿するのが一番いいのです。現に、磯村くんの住んでいるアパートの二階の一番右端には、司法試験を目指して勉学一筋の三年生が住んでいました。「折角卒業したばっかりなのにまた受験勉強なのかァ……」と、人気《ひとけ》のない高幡不動の駅前通りを、磯村くんが暗いイメージを思い浮かべて歩いて行ったとしても無理はありません。「別にまだ、今からどうこうって訳じゃないけどサ」と思って、「ひょっとしたら自分は高校二年ぐらいの時もそんなこと考えてたんじゃないかな」と思って、愕然《がくぜん》としました。
「別にまだ受験勉強なんかしなくてもいいんだけどサ」と思って、明るい道を目を細めて歩いていたのが高校時代の磯村くんです。
「今遊びすぎちゃって、いざ受験勉強しようっていう時にそういうことがクセになっちゃって抜けなくなったら困るしな」と思って、別に面白くない道を、「遊ぶこと以外になんか面白いことってないのかな」とか思いながら、真面目にただ歩いていただけなのが、高校時代の磯村くんです。
「結局自分て、そういうことしか出来ないのかな? そういうことにしか向いてないのかな?」なんてことを、暗ーく冷たく、やけになって思いながら、次の日磯村くんは、みぞれまじりの雨が降る、いよいよ寒い、いよいよ人気のない高幡不動の、町というよりはほとんど�道だけあって町なんかかけらもないところ�を、重い荷物をブラ提げながら、思って歩いていました。
 磯村くんが帰ろうと思っていた日は朝から雨で、「どうするの、あなた?」と、お母さんは案の定言いましたが、「うるさいなァ、いやみ言うなよ」と思って、意を決した磯村くんは出て来ちゃったのです。片手に着替えの入ったボストンバッグを提げて、その中に「帰ったら読もう」と思って、買ったまんまで放っといた本を三冊ばかり詰めて。
その磯村くんにお母さんは、紅茶とハムとチーズと粉末のインスタントスープとインスタントコーヒーとクラッカーとクッキーの入った缶と石鹸を五コ詰めこんだ、ビニール張りの紙袋を渡しました。「まだいるものないかしら?」と言って。
「こんなもん、どうやって持ってくんだろ?」と傘の心配をしながら、磯村くんは「もういいよッ!」と言いました。言いましたけども、「それで空っぽの冷蔵庫が少しふさがる——」と思って、その時初めて、「あ、空っぽの冷蔵庫のコンセント抜いて来たっけ?」と、二週間遅れの無意味な心配をしました。
という訳で、傘を差す磯村くんの手は真っ赤で、紙袋のビニールの吊り手を持つ磯村くんの手も真っ赤で、指先に辛うじてひっかかっているそのビニールの吊り手を持ち直すたんびに傘は傾き、脚はよろけるので、太腿から下はビショ濡れでした。勿論、足の先には感覚なんかありません。
高円寺の雨がだんだん多摩のみぞれに変って行くのを自分の運命のように思ってロマンチックに見ていた磯村くんも、その電車から降りて、グショグショの中を部屋に辿り着いた時はヤケクソで、「畜生! もう司法試験してやろうかなッ! どうせ僕の運命なんてそれしかないんだからッ!」というところまで行っていました。
だから、木川田くんの電話が鳴った時の磯村くんは、「あーあ、結局、僕の人生なんて狭い枠の中で�なんとかなんてなりたくないやッ!�て不器用な抵抗してるだけなんじゃないか」という落ちこみ方をしていたという訳なのです。
 髪の毛を拭いて、タオルでゴシゴシとやるたんびに自分のダサさがたまんなくなって来て、「こんななんにもない部屋ッ!」と思っていた時、木川田くんからの電話がリーンと鳴った、という訳なのです。
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