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無花果少年と瓜売小僧25

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  25「ねェ、�喧嘩した�ってなァにィ?」磯村くんは、肉饅頭を食べながら言いました。小さな肉饅頭は、でも一口で食べるのに
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  25
「ねェ、�喧嘩した�ってなァにィ?」
磯村くんは、肉饅頭を食べながら言いました。小さな肉饅頭は、でも一口で食べるのには大きすぎて、中味をこぼしそうになった磯村くんは、下を向きながらそう言ったのです。
「うん。進路がどうしたってサ」
木川田くんは割り箸でレタスをヘンな風につかみながら、モシャモシャとそう言いました。木川田くんは、お箸の持ち方がうまくなかったのです。
「進路って?」
肉饅頭の中味だけうっかり全部食べちゃって、「この残った皮だけ、どうしようかな? 一口で食べちゃおかなァ」と思っていた磯村くんは、左手の肉饅頭を見ながらそう言いました。磯村くんの右手には、勿論、紅茶のカップというのがありましたけれども。
ホーロー引きのカップに入ったインスタントスープを一口|啜《すす》った磯村くんは「やっぱり紅茶のがいいや」と思って、木川田くんに紅茶を淹《い》れてもらったのです。もうカップがないので紙コップに入った紅茶を手で持って、「やっぱり食器とかってチャンと買おう」とかって、磯村くんは思っていました。
「うん。俺、浪人してんだろ」
木川田くんは、よく考えたらそうだけど、誰もそんなこと気にしてないんだから当人だって気にしてる筈もないというようなことを言いました。
「うん」と言ったのは磯村くんです。「食器買いに行く時、木川田について来てもらおう」と思って「うん」と言ってたのが、「あ、そうか、�進路�の話か」と思って、思わず顔を上げました。
「そんで?」
磯村くんが言ったのです。
「うん。だからうるさくってよォ」
木川田くんはお箸を投げ出してそう言いました。あぐらをかいたまんま、両手は後についています。
「喧嘩したの?」
磯村くんは言いました。
「そう」
木川田くんは口の中に手を突っこんで、奥歯の間に引っかかった鶏肉のスジを取ろうとしています。
「別に、喧嘩でもないんだけど」
畳の上に転がったティッシュペーパーを手に取って、木川田くんは指を拭いています。
「いつもだから」
木川田くんは言いました。
「いつもなの?」
磯村くんも言いました。
「うん」
木川田くんが答えました。
「だって、中大受けるって言ったじゃない」
「無理だよォ」
木川田くんが答えました。
訊ねるのは磯村くんです。
「どうして?」
「俺、全然勉強してねェもん」
「うん」
あまりにも当然な事実は、平然と人を黙らせます。
「だって」
磯村くんは言いましたが、これは勿論、沈黙に陥る前の惰性です。
木川田くんが後を引き取りました。
「だって、後、試験まで一ヵ月もねェだろ。大体一ヵ月ぐらいか?」
「そうだね」
木川田くんに言われて、磯村くんも自分の大学の期末試験ももうそろそろなんだということを、改めて思い出しました。
「なんにも今年やってなくってサ、今更大学なんて受けんの無理じゃん?」
「じゃどうすんの?」
磯村くんは木川田くんに、改めて彼が浪人してるんだという事実を突きつけられて、「じゃどうすんだろう?」と思ってそう言いました。
「分《わが》んね」
木川田くんは言いました。
「俺、ズーッと正月、家にいただろ」
「あ、そうなの?」
木川田くんに磯村くんは応えました。
「うん」
「僕、大《おお》晦日《みそか》に電話したんだよ」
「知ってる」
木川田くんは言いました。
「正月電話しようと思ったけどサ、お前、家にいただろ、だから悪いと思って」
木川田くんはそう言いました。
「別にそんなことないよ」
「うん」
「大晦日どこ行ってたの?」
磯村くんが尋ねました。
「近所のガキンチョと鎌倉行ってた」
「鎌倉?」
木川田くんの答に磯村くんがまた尋ねました。
「うん、初詣《はつもうで》。それもあんだけどサ」
「何が?」
「帰って来たら親父が言うんだ、�いつまで高校生と付き合ってんだ�って。付き合ってるったってそういうんじゃないよ」
�付き合ってる�という木川田くんの言葉にビクッとしている磯村くんに、木川田くんは言いました。
「近所のガキが暴走族やっててよ。別にゾクじゃないけど、そいつが�お兄ちゃん行かない?�とかっつったから俺も行ったの。そんでサ、そいつが高校生でサ、ホントだったら俺なんか大学生なのに年下のヤツと何やってんだとかって、いうの」
「そんなの、別にどってことないじゃない」
磯村くんは木川田くんの言葉の中に突然出て来た、木川田くんのことを�お兄ちゃん�と呼ぶ�近所の高校生�の存在に心を動かされました。多分それは嫉妬《しつと》でした。でもそれは、勿論その高校生に対する嫉妬ではなくて、�お兄ちゃん�と呼んでくれる近所の子を持てる、木川田くんの�近所�に対する嫉妬でした。そして、そういう人間関係を持ち合わせていられる木川田くんに対しての。
 木川田くんはそんなことに構わず話を続けました。テーブルの上ではもう、一枚だけ残ったピザのチーズが蝋《ろう》のように固まり、一枚だけ残ったサニーレタスがドレッシングの中でしょぼたれ、一本だけ残った焼鳥が冷たいまんま残っていました。
話のついでに、木川田くんはその一本だけ残っている焼鳥の串を取り上げ、口でキーッとお肉を引き抜いては、話を続けました。
「大体、親父は俺のことが気に入らねェのよ。俺が浪人してサ、予備校行ってゴロゴロしててサ。別に予備校も行ってねェけど、バイトなんかしてフラフラしてんのが気に入らねェんじゃねェの。�大学行かないんだったら就職しろ!�とかサ。就職してサ、お前、そんで夜間の大学行って資格取れって言うんだぜ。バッカじゃねェの」
「�資格�って何よ?」
「公務員試験受けんのに、大卒と高卒じゃ違うって。バッカじゃねェの。なァ? なんで俺が公務員なんなきゃいけねェんだよなァ?」
「まァね」
磯村くんは一瞬、アロハ着てグラサンかけて、煙草|咥《くわ》えたまんま「はいよ」とか言って戸籍抄本を渡してる�窓口の向う側の木川田くん�なんていうのを想像して、「それも面白いんじゃないの?」とか、クスッと思いました。
「まァサァ、親父にしてみりゃ一生懸命なんだろうとは思うんだけど、古いの。もうホント、ゼッツボー的に古いの。ゼッツボー三匹とか言ってな」
木川田くんがあんまり突然につまらないシャレを言うもんだから、飲もうか飲むまいかどうしようかなァと思って手つかずのまんまだったスープを取り上げていた磯村くんは、思わずそれをゴクンと飲んで、むせてしまいました。
「バカァ」
磯村くんは言いました。
「どしたの?」
木川田くんが言いました。
「つまんないシャレ言うからむせちゃったの」
「あ、ホント。ゴメン」
木川田くんは平然としてました。
「ティッシュ取って」
磯村くんが言いました。
「はい」
木川田くんの渡した、クリネックスでもスコッティでもネピアでもない銘柄のティッシュを持って、磯村くんはズボンの上を拭き始めました。
「俺ホント言うと親父のことなんかどうでもいいんだ」
「どして?」
磯村くんが言いました。
「だって、関係ねえもん」
木川田くんが答えました。
「あいつは俺のことなんか全然分んねェしサ、俺だって別に、あいつのことなんか分りたくねェし——」
木川田くんが続けました。
「俺、お前に話したことあったっけ」
「何を?」
「俺が親父と病院行った話」
「知らない」
「行ったんだ。病院つうんじゃなくて、なんか、相談所みたいなとこだったのかもしんないけど」
「ふーん」
「俺さァ、親父に、やってっとこ見られちゃったんだよ」
「誰と?」
「一年下のヤツ」
「ウチの高校の?」
「そう。まァ、どうでもいいんだけど——」
磯村くんは、なんか知らん、深いため息を「ふーん」とつきました。
「俺がそいつとやってっとこ見られてサ。俺の家だけど。誰もいないと思ってたら親父がいてサ、そういう訳なの」
「それ昼?」
「朝」
「試験の時かな。前の日だったか後の日だったか忘れたけど、なんかそんな感じ。そいつが泊りに来てて」
「そいつもそうだったの?」
磯村くんが訊きました。
「�そう�って?」
木川田くんが訊き返しました。
「いやサ、つまりその——」
「ああそうだよ。そうだけどそんなことどうでもいいじゃん」
「うん」
「要するにそうなってサ、親父が驚いてサ、そういうとこ連れてかれた訳」
「�そういうとこ�って?」
「精神病院だよォ!」
「ウソォ?!」
「ホント。精神病院じゃないかもしんないけど、そういうとこ」
「ホントォ」
「うん。俺なんかサァ、ホント言うと、精神病院連れてこうとする自分の親のがよっぽどイッちゃってると思うぜ。�どこ行くんだ?�って言うのになんにも言わねェでサ、連れてかれたとこ見たら�精神科�とかっていうのがあるからサァ、それ見た時、ホント、ゾーッとしちゃった。ウチの父ちゃん気が狂ったのかと思ったもん」
「そうだよねェ」
「そうだろ、なァ?」
「うん」
「そんでもサ、焦ってたんだと思うのッ。息子がオカマだって知ったらサ。だからもういいんだって、俺の方は思うのォ」
「うん」
そこまであけすけに言われちゃうと、磯村くんとしてはもう言葉もありません。「そんで?」とだけ言いました。
「そんで——? 別にどってことないんだけど、なんか要するに、俺、ウチのお父《と》っツァン気の毒になって来たっていうとこもあんのよ」
「そうなの?」
「うん。だってサァ、なんも分んないでオロオロしててサァ」
「その、医者のセンセイって、なんて言ったの?」
磯村くんが言いました。
「医者?」
木川田くんが訊き返しました。
「うん、きみの相談に行ったその人。きみじゃなくて、お父さんが連れてったっていうその——」
「あ、カウンセラーね」
「そうなの?」
「うん」
「その人なんて言ったのよ?」
「別になんにも」
木川田くんは言いました。
「なんてったっけな——。忘れちゃったけど、要するにサ、�そういう人もいるんだから気にするな�って。なんかそんなこと」
「異常とか、そういう風には言わなかったの?」
「言わないよ。それは一種の�個性�みたいなもんだとかって、そんなこと——。俺が終ってからお父っツァン呼ばれたの。あ、面接って、一人ずつやんのね」
「あ、そうなの」
「うん。磯村ァ、お茶|淹《い》れない? 俺、コーヒー飲みたいな」
「うん。じゃ、ここ片付けようか?」
「そうしよ」
 磯村くんはともかく、木川田くんが自分のことを話すのを興味を持って聞いていました。ともかく�面白い�って言えるようなことでもないし、でも人の話を聞くのは嫌いじゃないし、でもだからといってまだ�面白い�ってとこまでは行ってないし、�面白い�って言っちゃいけないことなのかもしれないしで、だから、興味を持っていただけです。
友達が心を開いてくれるのは嬉しいけど、どういう開き方をするのかも分らないし、心なんか開かないかもしれないし、今更心なんか開く必要もないのかもしれないし、だからといって、今更ヘンな開き方なんかしてほしくないなっていう風にも思いました。
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