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無花果少年と瓜売小僧26

时间: 2020-01-31    进入日语论坛
核心提示:  26「面接でサ、俺が呼ばれた後でお父《と》っツァン呼ばれてサ、そんで、�俺のことしばらくカウンセリングに通わせたらどう
(单词翻译:双击或拖选)
  26
「面接でサ、俺が呼ばれた後でお父《と》っツァン呼ばれてサ、そんで、�俺のことしばらくカウンセリングに通わせたらどうだ�って言われたらしいの」
「ヘェー」
磯村くんはレンジの前でヤカンを火にかけて、木川田くんは流しの前で食器を洗いながら,二人は話をしていました。木川田くんはズッと手を動かしていて、磯村くんはお湯が沸くのを待っていたという訳です。「俺、コーヒー飲みたいな」って言ってから、「俺やるよ。磯村コーヒー淹《い》れて」って、木川田くんは磯村くんに簡単な仕事を押しつけただけです。
磯村くんはただ立って、木川田くんの話を聞いていました。
「カウンセリング通ってどうすんの?」
磯村くんは訊きました。
「知らね。俺に気があったんじゃねェのっていうのは冗談だけどサ」
「うん」
磯村くんは相槌を打ちました。
「治そうとか、そういうんじゃないの」
「何を?」
木川田くんが訳の分んないことを言うから、磯村くんは訊きました。
「�何を�って、ホモだろ」
「ホモって治んの?」
磯村くんは訊きました。
「知らないよ、そんなの」
木川田くんは言いました。
「そうだよね、そういうもんじゃないもんね」
磯村くんは、あわてたようにひとりごとを言いました。勿論これは�声に出して�です。
「じゃ、どういうんだよ?」
木川田くんは突っかかったように訊きました。
「知らないよ、そんなの。きみの方が専門家じゃないか」
「うるせェな。ああッ、冷てッ!」
木川田くんはイライラしたように、水の冷たさを訴えました。
「代ろうか?」
磯村くんは言いました。
「いいよッ!」
それは、初めて見せた、木川田くんの�自我�だったのかもしれません。小さく短く、木川田くんは、振り切るように言いました。そして、「俺なんかサァ、なんも分んないけど、結局、そうやってサ、なんか、専門家みたいなとこに行ってっと気休めになんじゃないかとかって、そういう風な意味なんじゃないの」と、�自分の自我なんて主張したって寂しいだけだ�——まるでそう言っているように、木川田くんは丁寧に説明をしました。
一体、木川田くんはいつからそうなってしまったんでしょう? もう一方の主役の話を、そろそろしなければならないような時が来たようです——。
 木川田くんが初めて男の人と寝たのは、ニキビ花やかなりし中学三年生の時でした。正確には、中学三年生の義務が終った、高校入試の終った日でした。「映画見て来てもいいィ?」とお母さんに言って、木川田くんは夕方、新宿へ来ました。夕方と言っても、まだほの明るい五時前でした。お母さんはおこづかいをくれて「あんまり遅くならない内に帰って来なさい」と木川田くんに言いました。
木川田くんは「うん」と言って、下を向いたまま新宿へ行ったのです。
そういうところに行けばそういう人に会えると思って、それで、ドキドキしながらヨチヨチと、内股になって行きました。
新宿の駅を降りて、新宿の地下道をズーッと歩いて、その頃はまだ都営線の地下鉄が開通したばかりだったので、よく分らない地下道の新しい階段を辿って、伊勢丹の向い側に出ました。
伊勢丹の向い側に出て、「ここかな……」と思いながら、スナックやレストランや飲み屋さんが並んでいる「要《かなめ》通り」の道筋をギシギシと脚を緊張させて動かして、焼肉の長春館の横まで出て、その目の前にある大きな通りとその向うのゴルフの練習場を、まるで太平洋に突き当った時みたいに茫然と眺めるまで、ズーッと下を向いて歩いて行きました。
体の中はドキドキと熱くなって、誰かにうっかり声をかけられたら泣き出してしまいそうになって、胸の中は思いつめて、何も考えられなくなっていました。
向う岸にある�陸地《まち》�を見つめていて、ズボンのポケットの中では、お母さんにもらった千円札が三枚、汗ばんでいました(可哀想に)。「お酒なら飲めるし、三千円あれば、コークハイだって三杯ぐらいは飲める」って、木川田くんはズーッと考えていました。
道には信号だってあって横断歩道だってあるのにもかかわらず、まるで渡し舟が来るのを待っている旅人のようにボサーッと立っている木川田くんの後で、焼肉屋さんのドアが開きました。
何か商売の打ち合わせをしていたみたいな男の人が二人出て来て、一人はそのまま、木川田くんがやって来た要通りの方へ入って行きましたが、もう一人の人は匂い消しのガムをクチャクチャと噛みながら、道端につっ立っている木川田くんの後姿を眺めていました。
Gパンの裾を折ってバスケットシューズを履いて、地味めなスタジャンを着ている木川田くんは、まるで群馬県から家出して来た中学生のように見えました。
「誰か待ってるの?」
その男の人は言いました。
薄い茶色のサングラスをかけて、ボアのついた皮のハーフコートを着ている三十ぐらいの男の人で、髪にはパーマがかかっていました。
木川田くんはなんのことか分らず、誰かに道を訊かれたのかと思って「はい?」と顔を上げました。その木川田くんのニキビだらけの顔を見て、その男の人は笑ったみたいです。
「誰か待ってるの?」
その男の人はもう一度言いました。木川田くんよりも少しばかり背は高く、そんなに大きな人とも思えませんでしたが、着ているコートのせいで、「すごく肩幅の大きな人だな」という風に、木川田くんには思えました。
「いえ、別に」と顔を上げて木川田くんが言うと、いつの間にかその男の人の腕は木川田くんの肩にかかっていました。
上げた顔がいつの間にか下って来て、木川田くんには、もうその男の人が何を言っているのか、よく分らなくなっていました。
「じゃァ、こんなところで何をしてるの?」
その男の人は言いましたが、木川田くんの答はやっぱり、「いえ、別に」でした。
「ひょっとしたら警察に連れて行かれるのかもしれない」——そんなことを考えたら脚がガタガタ震えて来て、もうどうしたらいいのか分らなくなって来ました。
「どうしたの? こわいの?」
その男の人は言いました。
「いえ、別に」
また木川田くんが言いました。
「そうか、寒いのか、それだったらこんなとこにいない方がいいな」と、その男の人が騙《だま》しました。
「いえ別に」というその木川田くんの答は、喉から出て来そうで、一向に出て来る気配はありませんでした。
「あの、僕、あの——」
木川田くんは泣きそうな声でこう言いました。
「僕、ホモなんです」
 木川田くんは、男の人の腕の中で、泣く気もないのに泣いていました。
「困ったなァ、別に、取って食おうって言う訳じゃないんだからサァ」
別に困った様子も見せないで、その男の人は言いました。
「すいません」と言って、木川田くんは「もう帰らなくっちゃ」と思いました。
その動きが男の人に伝わったようです。
「何もこわがることなんかないサ、ね? 別に悪いことしてる訳じゃないんだから」
木川田くんは、「ホントに警察に連れて行かれるんじゃないか」と、その時やっぱり思ったのです。
「初めてなのかい?」
男の人はそう言いました。
「はい」と言おうか言うまいか、うなずこうかうなずくまいか、木川田くんは考えていて、でもその考え方は全身で「はい」と言っているのと同じでした。
「心配することないからね。やさしくして上げるからね」と言って、その男の人は通りかかったタクシーを、片手で呼び止めました。勿論、もう片一っ方の手は木川田くんの肩に回したまんまです。
木川田くんは、なんにも考えないでタクシーに乗っていました。「これでもう家に帰れないかもしれないけど、でもいいんだ」って、まるでどこか外国に売り飛ばされる時みたいな決心を、その時木川田くんはしたのです。
 その初めての男の人が何をしている人か、木川田くんは知りませんでした。今も知りません。年齢も職業も名前も何一つ知らなくて、サングラスを外した時の目が小さくて、どこかコメディアンみたいな顔に見えるのが見ちゃいけないことのような気がして、ほとんどズッと、目をつむっていました。
その男の人に連れて行かれたホテルがどこにあるのか、木川田くんには未だによく分りません。「あそこかな?」とか思う時もあるのですが、あんまり思い出したくないので、ズーッと知らないまんまにしています。
行きの車の中では男の人にズーッと手を握られていて、木川田くんはただまっ直ぐ自分の膝と膝との間を見ていたので、どこへ連れて行かれるのか、分らなかったのです。
だから、帰り道だって「早く帰りたい!」とだけ思うのに道が分らないから、男の人に車に乗せられて、その人にジーッと顔を見られているのがいやだからと思って、新宿駅までズーッとうつむいていたのです。
それが木川田くんの、初めての、�夜�とはいえない�宵�でした。
八時前に帰った木川田くんを「あら早いのね」と言って、お母さんは迎えてくれました。
試験の疲れと、なんだか分らないことでの疲れで、木川田くんは次の日まで、死んだように眠り続けました。
朝、目覚めの扉を叩くのはなんだか分らないものの感触です。
男の人の腕に抱かれていて、その腕はロースハムのようにとっても太くて汗臭いのです。
すべすべするその腕の向うにとってもやさしい顔があって、木川田くんの方に笑いかけます。その笑顔はなんというか、とってもセクシーで、木川田くんは、その男の人の逞《たく》ましい唇で食べられてしまいたいと思うのです。
木川田くんはシーツに腰を押しつけて、もう、起きていました。起きて、きのうの男の人の逞ましい胸の隆起を考えていました。逞ましかったのかどうか、もう実際はよく分らなくなっていて、でも、木川田くんは自分がその人にしたことをもう一遍かき集めていたのです。無理矢理|咥《くわ》えさせられた男の人のモノとか——。
別に無理矢理ではなくて、無理矢理そうさせられるまで待っていたのかもしれませんが、それが、木川田くんの唯一知っている�男の人�でした。
その男の人のことを考えるとあと五回ぐらいはイってしまえそうなのですが、でも、やっぱりそんなことはしたくないと思っていました。だって、その男の人は「ハンサムじゃなかった」からです。やさしかったかもしれないけど、それが気持悪かったと木川田くんは思っていました。
しっかりその人が�男�であることだけを思いこんで、贅沢《ぜいたく》を知ってしまった木川田くんは、もう一方ではもっとハンサムな人のことを思って——たとえば中学のクラスメートの�山内くん�とか——全身で狂いました。「山内くん、好きだよ!」とか思って。
 でも別に、木川田くんは、�山内くん�でなくてもよかったんです。

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